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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VII ここにいたいと思うから
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第183話 空の旅へ

「わぁ……!」


 派手な祭りも今となっては十日も前の出来事。


 当初の予定では既に出発し、空の上にいた頃。

 しかし幸い本当にただの遅れだったようで、とうとうそれは空から降り立った。


「ふふん、驚きましたか? 驚いたでしょう。ですが何も恥ずかしがることはありません。このくらい[ラジア・ノスト]にかかれば朝飯前ですからね!」


 サーシャさんはすっかりご満悦だったが、それはそれ。


 圧巻の一言に尽きる。

 あちらの世界の技術と単純な比較などできる筈もないが、やはり凄まじい。


 既にこちらに向かう乗客は下りた後。

 ただそこにあるだけで、圧倒的な存在感。

 相手が並の魔物なら、緩やかに進むだけでもきっと押し黙らせられるだろう。


「……どこかの売り文句みたいだね?」

「あそこまで露骨なのはなかなかいねーですよ」


 もし何の伝手もなく利用したら、ほぼ間違いなく数か月分の生活費を吹き飛ばしてくれるだろう。

 特にその点に関しては感謝しかない。


(……とんでもないな。本当に)


 しかし、それだけの価値があることは乗ってすぐに分かった。


 たった一度のために貯蓄を続けていた者。

 余りある資金に物を言わせて優雅な休日を満喫した人々。


 危険と隣り合わせの空の旅を終えたばかりとは思えない。

 それなりに頑丈な結界が展開してあるのは間違いないが、それも強力な魔物で破壊可能な範疇。


「話に聞くのと実際に見るのとではやはり違う、か……」


 やや小ぶりな飛行船、とでも言えばいいのだろうか。


 有人気球というにはあまりに大きい。

 その上、魔力を推進力に変えている。複雑な機構を丸裸にする術は、今の俺にはない。


 ゴンドラの中も広く、その辺の宿屋よりも豪華に見える。

 どんな悪事を働けばこれを貸し切りにできるのだろうか。……今まさにその状態だが。


「何よ、感慨深そうに眺めちゃって。結局あんたも楽しみにしてたんじゃないの」

「楽しみだったとも。誰かに飛ばせてもらう機会なんてそうそうない」

「あんたみたいに飛べる方が珍しいんだってば」


 無理矢理連れ去られないとなれば猶更。

 任務で海外へ赴くのとも事情が違った。


 結局それも他の乗客の安全諸々を考慮した結果、可能な限り控えるべきという結論に至った。

 実際、過去にそれが原因で大きな被害に繋がりかけたことがあったそうだから、当然の選択と言える。


 今となってはそう片付けるほかないような話だ。


「それにあんたの故郷、空飛ぶ絨毯なんてあるんでしょ? そっちこそ聞いたことないんだけど」

「古くから伝わる物語の中だけだ。実際に見たわけでもなんでもない」


 お望みとあらば、この場で作り出せないこともない。


 然るべき店で売られている絨毯を《念力》で無理矢理浮かせるという、夢も希望もない方法で。

 普段の反応からしてとんでもないことになるだろう。色々な意味で。


「へぇ。お客さん、また随分と珍しいもんを知ってやすね。今時の冒険者ってやつぁそういうのにも聡いんですかい?」

「……なんと。こちらでも似たような何かが?」


 道中、何かのついでに軽く話した程度のもの。


 覚えているリィルには驚くばかりだが、それ以上に飛行船の乗組員に食いつかれるのは予想外。


 実在云々に関して言えば、むしろこの世界の方にありそうだ、なんて冗談半分に思っていたが……あるのか。本当に。


「おや、違ったんで? 親父の親父のそのまた親父がお客さん達くらいの頃、イカラーシアの方ではしょっちゅう飛んでたって話ですぜ」

「イカラーシア……と、言うと?」

「あたしだって知らないことくらいあるわよ? 飛んでたならあんたの故郷の近くじゃないの?」

「いいや、全く。名前も何もかもが違う」


 あの辺りの国にもそんな名前はなかった筈。


 そもそも、この世界が地球でないことは疑いようのない事実。

 天文学的な確率を超えて一致することがあったとしても、それは単なる偶然だろう。


 もしくは、あの世界にゆかりのある誰かが訪れたか。

 ここに前例がある以上、あり得ない話ではない。


「大陸の、しかも北西の端っこにありますからね。リーテンガリアじゃなかなか縁もないでしょう。あそこも昔は他国との交易にも積極的だったそうですけどね。今じゃすっかり閉じ籠ってるそうですぜ」


 なるほど納得。


 そんな場所にあるなら交流がないのも頷ける。

 向かうだけでも一苦労。それこそ、開拓者を目指すつもりでもなければ難しい。


 この大陸自体、かなりの広さだと聞いている。

 現状最速と言われる移動手段や、諸々の背景を考えても厳しいだろう。


 所謂龍種と友好的な関係を気付いたところで、いかんせん距離が長すぎる。

 それをものともしない強力な力の持ち主であれば、そもそも他種族にそこまで力を貸すことが滅多にない。


 線路を引いたところで魔物に壊されて終わりだろう。割に合わない。


「それでも、物好きなら行かないこともないでしょう? そんな不思議な品があると知れば猶更」

「ないない。途中で山を八つと、だだっ広い砂漠を二つ。その上リーテンガリアより大きな平野まで超えなくちゃならないんでさぁ。こいつらがまた曲者でして、着く頃には二つ歳を取ってたとか。勿論、歩いたらの話ですけどね」

「ということは、やはり過去に挑戦された方がいらっしゃったんですね。何か記録のようなものでも、残っていれば是非一度目にしてみたいものです」


 それ程の探検家がリーテンガリアからイカラーシアまでの旅路だけで終わらせる筈がない。


 その前後、もしくは他の時期に長い旅路を向かった筈。

 いつの時代か知らないが、世界全体を知る上では貴重な資料にもなってくれるに違いない。


(それ程のものなら写本もある程度は出回っている……筈。多分)


 図書館の蔵書は町によってまちまち。

 アーコに行けば、少しは多くの書物を見られるのだろうか?


「まさか挑むつもりですかい? だったら辞めた方がいい。魔物が多いわ強いわで手に負えねぇ。その上天気も滅茶苦茶だ。命あっての物種ですぜ」

「みたいですね。……ちなみに、レティセニアからそちらに向かう便が出ている、なんてことは……」


 十中八九ないだろう。

 そう思って聞いたら、案の定運転手に肩をすくめられた。


「無茶言ってくれますねお客さん。そんな遠くまで行こうと思ったら、こいつの力全部使ったって足りやしない。この町みたいな場所も、そんなに多くないんでさぁ」

「ある程度は地に足を着けて進むしかない、というわけですか」

「龍族の巣なんかもありますからねぇ。あいつら、普段はおとなしいのにちょっとでも近付くと途端に大騒ぎしやがる。あれで弱っちぃなら困ることもないんですけどね」


 それは確かにどうしようもない。


 相手は縦横無尽に空を駆けまわる怪物。

 対して、この飛行船はほぼ前にしか進めない。

 迎撃用の装備もあるにはあるが、避けるに越したことはないだろう。


「ありゃまともなヤツのやることじゃないですよ。贔屓にしてくださってる[ラジア・ノスト]の姉御でも厳しいんじゃないですかね」

「姉様を歩かせるくらいなら私が行きます。……そういう態度を続けるようならまた減点しますよ?」


 また今度はどこから……地獄耳ですか、あなたは。


「サーシャさんでも無理なものは無理でしょう。それよりいいんですか? 準備をしなくて。お姉さんが待っておられるのでは?」

「誤魔化すならもうちょっとうまくやりなさいよ、まったく」

「はてさて、なんのことだか」

「口笛吹けてないわよ」


 何もそこまで呆れなくても。……今度練習しておこう。前より下手になった気がする。


「あの、サーシャさん? 減点はやり過ぎだと思いますけど、さっきの発言なら気にしなくても――」


「…………確かに」


「……は?」

「よくぞ言ってくれました、キリハさん。特別に加点してあげます。さあ行きますよ、皆さん!」

「えっ、ちょっ……は? は??」

「そう言われると思って、準備は済ませてありますぜ。いつでもいけやす」 


 それを聞いたサーシャさんは口元に笑みを浮かべた。ように見えた。


「……だったら、もう何も考える必要はないですね」


 そして、高らかに手を挙げ――


「さあ行きますよ! ルーレイアまで!」


 旅立ちの号令を、今かけた

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