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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
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第162話 本当に魔物?

「いやはや、驚いた。風の魔法で一度遠ざけ、あの距離を一瞬で詰めるとは……将来が楽しみだ」

「いえ、恐縮です」


 少なくとも敵ではない。その人物の姿を借りているわけでもない。

 支部でいつになく注目を集めていたのがその証拠。ルークさんの反応を見ても間違いない。


 その上こんな会議室まで使わせてもらっているのだから相当だ。普通の冒険者を相手にここまではやらない。

 まあ、それに関しては機密保持の理由もありそうだが。


 かつて名を馳せた冒険者、オーキスさん。

 講演会のためにトレスを訪れていたというその人は、想像していたよりも穏やかな人物だった。


「そちらのあなたも。倒せないと判断してからの対応がとてもよかった。全ての攻撃を的確に捌けていた」

「いぃいいえいえ! わたしなんてまだまだ! 全然!」


 手を振る勢いだけで風が起こせそうだった。

 落ち着け。いいから少し落ち着け。そんなことをしても手首を痛めるだけだから。


「謙遜することはない。もっとも、手助けに入るまでもなく彼が駆けつけてくれたおかげで私の役目はないも同然だったようだけど」

「あんなことでユッカに怪我を負わせるわけにはいきませんから」

「うん、結構。是非その気持ちは忘れないでいてほしい」


 実際、《吸奪》にもう少し時間がかかっていたらこの人があの魔物――今はそう呼ぶしかない――を倒していただろう。

 隠れていた場所からは精々二〇メートル。そのつもりがあれば一瞬で詰めることも難しくない距離だ。


 実際、木の陰から姿を現した後も、瞬きする間もなく俺の前までやって来た。

 隠れずにもっと早く手を貸してほしかったが、今更そんなことを言ってもどうしようもない。

 何か理由があったという事で勝手に納得しておく。


 そんなことより今は話し合っておかなければならない事だってある。


「それで……あれは一体どういうものなんですか? 魔物と呼ぶには不可解な点が多いように思えたのですが」

「その通り。あんな力を使ったくらいだ。気付いてると思ったよ」


 戦闘スタイルの模倣。技のコピー。魔結晶状態からの急速な復活。分裂。

 あれだけ色々やられて違和感を抱かない方がおかしい。


 武器や技の模倣だけならまだともかく、復活と分裂の二つが致命的過ぎる。

 これまでどんな魔物であってもそんな力を発揮することは一度もなかった。


 魔結晶を持たない怪物、それこそライザが人の魔力で勝手に作り上げたあれのようなものでもないのに、だ。

 俺が経験した以外にも、これまで蓄積された資料がそれを異常だと示している。


「あれは最近見つかったばかりで、まだ詳しいことは何も分かっていない。あなた達は武器を手にする前の状態を見たことは?」

「昨夜、少し。あれが基本形態ということでいいんですよね?」

「少なくとも私はそう考えてる。最初に目撃された時はあの姿だった」


 目や耳や鼻を持たない人型。

 手から光弾をマシンガンのように打ち出す人型。


 どことなく無機質な印象さえ受けたあの姿。

 あの不気味なまでの静けさといい、誰かが作り出した兵器のようにすら思えてくる。


(だとしても、一体どこの誰がこんなものを……)


 二足歩行の怪物を作り上げる事はできる。

 かつての戦いでもそれに近いものを呼び出されたことはあった。


 しかし目的も何もかも、今の段階では何も言えない。

 大きな被害が出る前に対処できた事への安心感ばかりだった。


「そして、あなた達も知っているかもしれないが……あの魔物は戦った相手の特徴を学習し、自らの力に変えることができる」

「すみません、そのことで一つ。……さっき戦った群れが手にしていた斧や槍、あれは……」

「知らせてくれた冒険者のものだと思う。彼ららもそんな話をしていたよ」


 少なくとも他の地点の仲間と情報を共有しているわけではない、と。


 唯一懸念していたのがそれだった。

 もし今も他の地点で活動している個体がいたとしたら。その情報をリアルタイムで共有できているとしたら。


 理論上、無限に強くなることができてしまう。

 都度情報を取捨選択できるとなったらもう最悪だ。世界中をくまなく探して倒すにしても難易度は跳ね上がる。


「それと、もうひとつ疑問にお答えておこう。最初に逃げた六匹の内、昨日捕まったのは五匹だった」

「はい? でもキリハさんが戦ったのは……」

「そう、六匹だった。答えは戦ったあなた達なら分かると思う」

「……分裂ですか」


 オーキスさんは静かに頷いた。


 やはりそうだろう。それしかない。

 だからこそ、中途半端に一匹だけ見逃すようなことはあってはならない。


 その上、魔物達は周囲の魔力も使って分裂を行っていた。

 ある程度の段階までは、分裂による弱体化も見込めない。


 一時的でも魔力を消滅させようものなら周囲に大きな影響を及ぼす。それも、決していい影響とは呼べないものが。

 あくまでも最終手段。出来ることなら、使わずに終わらせたいもの。


「どういった方法なのか、条件もまだほとんど分かっていない。でも、自分達の分身とも言える存在を作り出せることは確かだ」

「だとすると厄介ですね。一匹目が現れた時点で他に何匹もいるかもしれないなんて」


 黒いアレじゃあるまいし。


 目撃された地域に罠でも仕掛けておけばいいのだろうか。

 魔力を一切使うことなく、あの魔物を仕留められるような罠を。

 そんな都合のいいものが用意できるならとっくにそうしているだろう。


 なんでもありの魔道具なら、ひょっとすると急速に魔力を吸い上げる機能を持ったものもあるかもしれないが。


「そうなんだ。分裂できると分かった時もここまで短期間に数を増やせるとは誰も思っていなかったからね……」

「せめて結晶を残すかどうかの違いさえあれば、今より区別はついたでしょうに」

「その通りとしか言いようがないね。まったく」


 分身も結晶をしっかり残すから質が悪い。

 逆に、最低限それを作るだけの力がなければ分裂は使えない。


(あの様子からして、正直そこまで多くの力が必要というわけでもなさそうだが……)


 そうでなければ、一度目撃されてから俺達が向かうまでの間にあれだけ増やしたりはしないだろう。


「……でも、それならどうしてわかったんですか? まだ一匹逃げてるって。そっくりなんですよね?」

「残した結晶に小さな印をつけておいたんだよ。目で見えないくらいに小さな印を。でも、昨日回収された中に一つそれがないものがあった」

「そしてさっき倒した中に印のあるものが含まれていた、というわけですか」


 協会へ戻るまでの間に聞かせてもらった限りでは、この辺りに例の魔物はいないのだそう。

 その時まで戦い続けることができるのであれば、実際消耗を待つというのも対処の一つとして考えられているらしい。


 個人はともかく、連携すれば決して不可能な話ではない。


「最初確認されたのは一匹だけだった。それを一度斬ったら二匹に。更に戦闘は続いて……最終的に六匹まで増えてしまったというわけだよ」

「つまり、今のところは全部回収されたというわけですね?」

「君が魔力を全部吸い上げてくれたおかげでもある。ちなみに、あれは一体?」

「先程おっしゃっていた通り、あの剣を器に魔力を吸い上げる魔法です。制御のしやすさもあるので……」

「あの剣でなくてはならない、と。その業物を使わなかったところを見るに」

「そんなところです。売られている品々を器にしても破損してしまうだけかと」


 許容限界の問題にどうしても直面してしまう。

 それを避けるための《魔力剣》だった。


 あれだけ滅茶苦茶な動きの魔力でも、おそらく迷宮の剣に受け止められる。

 しかし後の事が分からない。


「いや、すぐに再現を考えているわけじゃない。ただ、もしものことがあれば君の手を借りることになるかもしれないと思ってね」

「そうならないのが一番ですけどね」

「全くその通りだ、ははは」


 ……ひとまず今は、ストラの無事を喜ぶとしよう。

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