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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
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第163話 食卓を囲んで

「…………なんかおかしくない? ねえ、おかしいわよね? 絶対」


 どうしてあの組み合わせでこの味になるのよ。

 美味しいけど、美味しいけど! なんか納得できないんだけど!!


「あ、あははは……なんでだろうね? 本に書いてあった通りに作ったけど……うん、やっぱり美味しい」


 それが余計に悔しい……!

 しかも今作った料理によく合うなんて。どういう偶然なのよ。

 こんなことならあんなに試さなくてもよかったじゃないの。


「最初に思い付いた人はどうやって気付いたのかな、これ……」

「とんでもない失敗料理とか作ったんじゃない? 多分だけど。普通しないでしょ。こんな組み合わせ」

「だ、だよね?」


 他の料理に使っても絶対合わないわよ。あの本に載ってた料理以外。

 なんか、あの組み合わせでこうなるとちゃんと書いてある通りに作ったか逆に不安になるんだけど。


「最近のアーコってこんなのがはやってるわけ……?」

「みたい? ……リィルちゃん? その、大丈夫?」

「大丈夫って、なにが? あたしそんなに変だった?」

「う、ううん。そういうのじゃなくて。気にしてないならいいの」


 アイシャも大概心配性ね。

 ちょっと驚いただけじゃない。別に全然、なんでもないわよ。このくらい。


「あ、そうだ。さっきの本、ちょっと見せてもらってもいい?」

「へ? うん、いいけど……どうかした? さっきの材料ならこっちにあるよ?」

「ありがと。でもそっちは大丈夫。今はちょっと確かめたいことがあるだけだから。すぐ返すわね?」


 今度はどうしたのかしらね。アイシャってば。あんな困った顔なんてしちゃって。

 でも、そういうことなら早く見つけないと。借りっぱなしはアイシャにも悪いわ。


「……どこの誰なのよ、この記事を書いたのは……名前くらい載せておきなさいよ。分かりやすいところに」

「!?」


 普通、見えるように書いておくものでしょ。

 ちゃんとしたものを考えて書いたなら隠す必要なんてどこにもないじゃない。

 隠れようなんて考えずに早く出て来なさいよ。まさか書いてないなんてことないわよね?


「お、お落ち着いて! リィルちゃん顔怖いよ!?」

「大丈夫、大丈夫。ちょっと探してるだけだから。……こんな隅っこに書いてたのね……」

「絶対それだけじゃないよね!?」


 へー、ふーん?

 この人が。名前だけしか書いてないけど、ほんとに本名なんでしょうね?


 こんなことなら普段からもうちょっと、書いてる人の名前もしっかり見ておけばよかったわ。

 全然分からないじゃない。次の号が出た時にちょっと見てみようかしらね。書いてるなら、だけど。


「……ま、いいわ。名前は覚えたから。ありがと、アイシャ」

「う、うん……でも、その……リィルちゃん? その人のことを怒っても駄目だと思うよ……?」

「そんなわけないでしょ」


 ちょっと驚いただけなのにね。

 もしかしたらまた何か変わった調理法とか載せるかもしれないし。覚えておいて損はないでしょ、きっと。


(……またこんなもの出されても困るけど)


 これはよかったけど、他のもので同じようなことなんてされたらどうなる河原かないじゃない。

 嫌よ、変なものあいつに食べさせるなんて。


「ねえアイシャ。確かあんたのお父さん、アーコで働いてるって言ってなかった? 何か聞いてないの、そういう話」

「言われてみれば……そういうお話はあんまり聞いたことないかも。お父さん、ごはんは向こうの食堂で済ませてるみたいだから。それに、もうそんなに若くないと思うし」

「こらこら」


 間違ってはないでしょうけど、言い方くらいあるでしょ。言い方。お父さん悲しむわよ。


 普段家にいないみたいだし、寂しいのかしらね。

 いつも楽しそうで羨ましいくらいなのに。


(あいつだって、今はここで……)


 うちにも呼んだら来て……くれるわね。絶対。


(また『リィルの頼みなら喜んで』とか言っちゃって――)


「……リィルちゃん?」

「っひゃぁあああっ!?」

「!?」


 な、何!? 誰!? アイシャ!?


「ど、どうかした? ちょっとぼーっとしてなかった?」

「にゃにも!? 全然、なんでもないけど!?」

「そ、そう……? ならいいんだけど……」


 びっくりした、びっくりしたぁ……

 声に出してなんてなかったわよね? 大丈夫よね?


「おなかすきましたぁ~……!」

「お、おかえりユッカ! 料理ならできてるわよ!?」

「はい? あ、じゃあ……いただきます?」


 いいところに帰ってきてくれたわ、ほんとに。






「し、新種の魔物?」


 何やらリィルの様子がおかしかったものの、それ以外は特に何があるというわけでもなく、やっと昼食に漕ぎつく事ができた。

 丁度この時間に合わせてマユに昼休みの時間を確保してくれたルークさんには感謝しかない。


「今のところはそういう話になっているらしい。復活に能力の模倣にやりたい放題やっていたから当然と言えば当然か」

「キリハさんの力を真似したならとんでもなく強そう、ですけど」

「そうなんですよ。信じられませんよ。キリハさんみたいに《魔斬》撃って来たんですからね?」

「でもキリハならそのまま打ち返したりして」

「打ち返すどころか消してましたけどね」

「当然だ。あんな急ごしらえの模造品にやられるほど衰えちゃいない」

「キリハさん、なんかお爺さんみたい、です」


 そんなマユの感想に、誰からともなく噴き出した。


 とはいえ、《万断》のようなものも含めたら山のように使ってきた魔法。

 弱い部分もよく知っている。敵に何度も攻略されてきたからこそ分かる。


 少なくともあれは、まだそういう改良が施されていなかったが……まあ、どうでもいいか。そんなことは。


「かもしれんのう……」

「えっ」

「……へ?」

「冗談。いや、冗談だ。……そんなに驚くことか? 今の」


 ほんのちょっとした戯れの筈が。

 ……やはりというか、アイシャ達にこの手のアレは受けが悪いらしい。


 まさか、まさか本当に老人と思われているわけではないだろう。そうだと思いたい。

 外見は勿論、まだ中身だってそこまで歳をとっちゃいない。おじさん呼びをされる筋合いすらないというのに。


「それよりあたしはオーキスさんと話したってことに驚きなんだけど。あの人とんでもない有名人なんだからね?」

「だろうな。話をしてみてその印象も強まった。……レイス達には若干申し訳ない気もするが」

「講演会とは別でしょ。いくらなんでも」


 それでも羨ましがられそうな気がしなくもない。

 それか、例の人型の魔物の件でドン引きさせるか。……両方か。


「それにしても……結局また戦ってたってわけね……」


 そして、どうしても避けられない話題。

 たとえ俺から話し出さなくても、どこかでバレてしまっていただろう。それならまだ自分から話した方がいい。安全だ。


「まあまあ、リィル。今回の件に関して限っては絶対に無意味なんかじゃない。ほら、有名冒険者とのコネができたとでも思えば」

「あんたついさっき『申し訳ない』とか言ってなかった!?」

「それはそれ、これはこれ。状況次第で俺達全員で会う機会もあるだろう、きっと。できることなら『あの魔物がまた脱走した』以外の状況で」

「キリハさん、キリハさん。そんなこと言ったらほんとにまた脱走しちゃいますよ? あの魔物」

「その時はまた倒せばいいだけ、です」

「さすがマユ。大正解」

「じゃないわよ!?」


 しかしそんな話題も、何事もなく終わった今だからこそ笑って流せるというもの。


 それに何より、料理がおいしい。


「……美味しいな、これ」

「でしょ? キリハが買ってきてくれた本に載ってたんだよ、これ」

「ああ、あの。こんなアレンジレシピまで載っていたのか……」

「じゃあ、あっちも、ですか?」


 そう言ってマユが指差した先には、小皿ほどの料理。

 何もあれ~食べなくてもいいだろうに、マユも。


「ううん、あれは味見用に作ってたの。リィルちゃん、ほんとにすごかったんだよ。ちょっとずつ細かく変えててね――」

「い、いいから! そんなこまで言わなくて!」

「ほうほう。その話、もう少し詳しく」

「あんたも乗るんじゃないわよ!?」


 そんな、減るものでもないだろうに。


 その日は結局午後の依頼も忘れて、楽しい時間を過ごすことを選ぶことにした。


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