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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
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第160話 またしても現れた魔物

「……どうします? これ。なんでこんなことになってるんですか。おかしいですよね?」

「どうもこうもない。倒す相手が増えただけだ。――と、言いたいところだが……」


 こんな状況ではさすがにそんな悠長なことを言っている場合でもないだろう。

 ある意味いつもと何も変わっていないわけだが。言ってる場合か。


 最初に目撃されてから、今に至るまで。

 どこかで何かしらの手段を使って頭数を増やした。或いは、散らばっていたところを合流した。


 どちらにせよまるで笑えない。目の前にいる四体だけで終わる保証がどこにもない。

 気配はない。だが、あの夜も他には何も感じなかった。


(逃げ出したのは間違いなく六匹……そもそも今日になって目撃された七匹目の出所が分からない……)


 それに、昨日俺が相手をした時には一度も《魔力槍》や《魔力斧》なんて使っていない。

 盾に至っては最早論外。この世界へ来る以前も、実体盾なんてほとんど持ったことすらない。


 だというのに、この魔物達はしっかりと装備している。

 どこから手にしたかも分からない武器を、それぞれが。


(リットも持っていなかったというのに、一体どこから――)


 その時突如、まるで肩を撫でるように、暴風が吹きつけた。


(こいつ……)


 たった一度。剣を一振りするだけで、こうも容易く土煙を。


 昨日の個体とは比べ物にならない力。それに移動速度。

 居所が分かっているのに迂闊に手も出せやしない。


「キリハさん!?」

「問題ない。地面を殴らせた、だけ、だ! っと……」


 地面を砕いたというのに、魔物の剣捌きが衰えることはなかった。


 一瞬地面を削った黒い刃が目の前を駆け抜ける。


 疾い一撃。受け止め、弾くだけでも手にその衝撃が伝わって来る。


 半歩引き、流し、もう一度、それから右の肘で突き飛ばす。しかし。


(二匹まとめて……!)


 俺が立っていたその場所を、黒い剣と二本の斧が同時に襲った。


 軽く後退した程度ではどうにもならない威力の一斉攻撃。

 その痕はまるで小さなクレーター。

 衝撃で舞い上がった土煙の中であっても、それだけははっきりと感じられる。


 その土煙も、飛び上がった俺の足元に届きそうな勢いだった。

 かといって、木の頂点に届くような大ジャンプも今はできない。


 何せ、こんな相手だ。

 ユッカの側から離れすぎるわけにはいかない。着地と同時にすぐ戻る。

 剣と盾を持った個体、それと斧の二本持ち。一番近いその二体との距離が一〇メートル程度。


「うわぁ……なんですか、今の。昨日もあんなに強かったんですか?」

「まさか。昨日の連中が束になってもあの四匹には多分勝てない。……さすがにこれは想定外だ」

「それ、キリハさんのまねをしたからなんて言いませんよね? そうだったらどんどん強くなりますよ? 手に負えませんよ?」

「さすがにそれは――……」


 ない、とは言えなかった。

 昨日の連中とはまるで別物。昨日とはまた別の方法による無力化も検討した方がいい。


(戦闘スタイルは俺と決定的な違いがあるわけでもない……だが、特別似通っているわけでもない……)


 もしかすると、力を使い切らせたからこそこうなってしまった可能性もある。

 最悪、魔結晶を完全に破壊するしかない。


「唯一ありがたい事と言えば、妙な弾丸を撃たなくなったことくらい――」


 言い切る間もなく、展開した《氷壁》に無数の光弾が打ち付けられた。


 一つ一つは先程の斬撃とは比べ物にならないほど軽い。

 しかし、立て続けに起こった爆発は、氷壁の強度を削るには十分過ぎた。


「うそっ……!?」


 完全に砕かれるより早く、ユッカと同時に回れ右。

 置くだけ置いた程度の土や氷の防壁では、五〇〇発も受け切れずに崩れてしまう。


 それだけの連射力を魔物達は保持していた。


「撃ってきましたよ! どんどん撃ってきてますよ!? 撃たなくなったって今言ってませんでした!?」

「言ってない。まだ言い切ってないから言った内には入らない。それと、もう一つ。間違っても足を止めるなよ」

「はい!? あ、当たり前じゃないですか! そんなことしたら追いつかれちゃいますよ!?」


 実際、それもある。

 決して見過ごせる問題ではないだろう。


 跳躍力は依然健在。

 落下途中に出現させた障害物も手で、足で、木から木へ飛び移るかのような軽快な動きで逃れている。


「確かに言ったからな」

「キリハさん? ……キリハさん!? まさかそんな――」


 だがそれ以上に、もう一つ。

 右足で踏ん張り、剣を振るうことで起きる被害がもう一つ。


「――《魔斬》!」


「ですよね――――っ!?」


 そう、こちらの攻撃に巻き込まれかねないのだ。


 急ブレーキから反転、そのまま放った一撃。

 多少飛んでいる高さが違っていようと、前後していようと、まとめて巻き込むくらい容易いもの。

 ましてあんな盾で防げるような生温い一撃を送ってやるつもりなど毛頭ない。


 中途半端なものを放ったところで吸収されかねない。

 復活と、もう一つの厄介な可能性が現実になることも承知の上で四体まとめて切り裂いた。


「今ので少しは大人しくなったか……できることならあまり学習させたくなかったが」

「そこじゃないですよね!?」


 当初の報告より数の多い魔物。

 昨日は魔結晶を残していたが、それだけで否定するには危険過ぎる可能性だ。


「やるならちゃんとそう言ってくださいよ! 思わず吹っ飛ばされるかと思いましたよ!?」

「だから頼んだんだろう? 足を止めないでくれ、と」

「そうじゃなくて!」


 魔結晶に戻っていれば回収も出来ただろう。

 しかし厄介なことに、今回は体の一部を消滅させられる一撃を受けてもそれ以外は未だに形を保っている。


(それどころか……)


 急速回復。或いは、魔力の吸収。

 あれでも駄目だったか。単に魔力が大き過ぎたか。


 理由はどうであれ、間違いなく人型の魔物は復活を遂げていた。

 巻き込んだ筈の武器さえしっかりと握っている。


「お説教なら後で聞く。後で聞くからとりあえず今は連中をどうにかしよう。できることなら、町に戻って救援を呼んでほしいところだが……」

「いやです。キリハさんそう言ってわたしが戻る前に倒しちゃうじゃないですか」


 あくまでそれは結果的にそうなってしまっているだけ。

 それができるのであればと内心密かに狙っているのも嘘ではないが、ただ避難してほしいと思った時はそんな回りくどい手は使わない。


「それに、戻ってる途中に攻撃されるかもしれないんですよ? だったら二人で倒して、いっしょに戻ればいいんです。お昼ご飯もまだですし」

「同感。……無茶はしてくれるなよ」

「キリハさんが言うんですか? それ」

「はてさて、なんのことだ――かっ!!」


 仕返しのつもりだったのだろう。

 俺が用意した防壁の陰から、いつの間にか隠れていた木の陰から、飛び出すと同時に光が飛来した。


 斬撃状の、粒状の群れの、光が飛来した。

 まるで、俺が放った《魔斬》に吸い込まれていくかのように。


 辛うじて逃れたごく僅かも全て氷の壁に阻まれる。

 多少は寝て軌道を変えた程度で突破できる筈がない。何度見たと思っている。


「《魔斬》とあの光弾しか飛び道具がないなら好都合だ。真正面から撃たれる分は幾らでも対処できる」

「いいんですけど、それはいいんですけど。キリハさん、言ってませんでした? あの魔物、魔力をどんどん吸って復活するって」

「覚えているとも。だから魔物の周囲に残る魔力を減らせるようにちょっと工夫を凝らしてみた」

「……なんて?」

「結果は後のお楽しみだ。……それより、構えて」


 おいでなすった。

 次から次へと。本体の方は上手く躱していたらしい。


 そして、息を潜めていた理由は。


「また増えてません!?」


 攻撃の瞬間、少しでも頭数を増やすこと。

 同時に攻撃する個体を増やし、俺達へ負荷を駆けること。


(やはり……)


 その証拠に、いた。やはりいた。

 新たに二体。どちらも片手に剣を持つのみの個体。そしておそらく、能力値は他の四体とほぼ互角。


 だがおかげではっきりした。

 一つ、この魔物達の最大と言ってもいい特徴が。

 全国に広めていかなければならない、あまりに危険な特徴が。


「そういうことならこちらも予定変更だ。……一気に叩きのめす」

「え゛」


 この魔物は、集めた魔力を糧に自らの仲間を半永久的に増やす事ができるのだ、と。


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