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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
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第156話 好きそうなもの

「だからユッカ。あいつが好きそうなもの教えて」


「…………はい?」


 大変です。とうとうリィルがおかしくなっちゃいました。


 いきなりです。いくらなんでもいきなりすぎます。

 それなのにどうやって答えればいいんですか。


 さっきやっと帰って来たかと思えばいろんな話を聞かされて、その上これですよ。

 どうしたっていうんですか、一体。ごはん食べちゃいましたよ、わたし。


「どうしたんですかリィル。いきなりなに言ってるんですか。さっきの話はどこいったんですか?」


 さっきまで普通の話だったのに。

 どうしてこうなっちゃうんですか。いきなり。


 別にいいです。今日キリハさんと二人で出かけてたことくらい。

 おみやげを買ってきてくれるなんて思いませんでした。美味しいですね、これ。


「今日はあいつと買い物だったって言ったでしょ?」

「楽しかったのは分かりましたから。それ以上自慢しなくていいんですよ?」

「最初からしてないわよ」


 してましたよ。絶対にしてましたよ。

 いやな感じじゃなかったからいいですけど、すごく楽しそうでしたもん。


 キリハさんが変な方向に進んでいった、とか。

 ……そこだけはちょっと見てみたかった気がします。


「……じゃなくて、その時アイシャに頼まれた本も買ったって言ったわよね?」

「言ってましたね。キリハさんが他にも色々見てたって。本の内容も後回しにして」

「だから頼んでるんじゃない。あいつの好きそうなもの教えてって」

「間を全部飛ばさないでくださいよ!?」


 わかりませんよ。全然、まったくわかりませんよ?


 どうしてですか。なんでそんなことになったんですか。

 キリハさんが料理の本でも見てたんですか? ……ありそうですね?


 かんべんしてほしいですよ、もうっ。

 おかげでリィルに『料理くらいちゃんと作れるようになりなさい』って前より言われるようになったんですから。

 キリハさんが下手だったらこんなことにならなかったのに。


「ユッカ? どうかした?」

「なんでもないです。ないんですけど、とりあえずひとつ……いいですか?」


 なんですかその顔。

 わかってないんですか。まだわからないんですか。……仕方ないですね。


「キリハさんに聞けばいいだけですよねそれ!!」


 ほんと、なに考えてるんでしょうね。

 どうしてそうしなかったんですかね。すぐに思いつけることですよね?


「聞けましたよね? そんなに喋ってたならいつでも聞けましたよね!? なんでそのときなにも言わずに今になってわたしに聞くんですか!」

「…………ゎよ」

「はい?」


 なんて言ったんですか。聞こえませんよ。

 もっと大きな声でちゃんと言ってくださいよ。


「なんですか? 恥ずかしくて聞けなかったとか言ったら怒りますよ? さすがにわたしも怒りますよ?」

「だから聞いたわよ! その時。ちゃんと! ……あいつ、なんて言ったと思う?」

「なんだったんですか」

「少しは考えてよ」

「って、言われても……」


 リィルの作ってくれるものならなんでも、とか? ……ないですね。

 似たような事なら言いそうなんですけど、今のはちょっと違う気がします。


(他にキリハさんが言いそうなこと……)


 食べられるものならなんでも――……これも違いますね。


 前に言ってましたからね。携帯食料を食べてるとき。どうしてこんなに味がないんだ、って。

 あんな顔で不満を言ってるキリハさんなんて今まで見たことないからびっくりしましたよ。


 いつもなんでもおいしそうに食べてるように見えたんですけどね。

 おいしくないのは確かにそうですけど、携帯食料ってそういうものですし。


「……やっぱり分かんないです。なんて言ったんですか、結局」

「…………この前のお弁当みたいな料理って」


 なぜかリィルは小声でした。


 さっきもそうですけど、意外と聞こえにくいんですよ?

 ここのベッド、意外と間が空いてるんですから。今のは聞こえたからいいですけど。


「分かってるならいいじゃないですか。そのまま作れば」

「じゃあ分かる? あの時の料理の作り方」

「分かるもなにも、作ったのはリィルと――…………あっ」


 作ってましたね。キリハさんの料理も入ってましたね。

 なんでしたっけ。あの細長くてほんのちょっとだけ辛い感じの。


 言われてみれば他で見た覚えはあんまりないですけど、そんなに珍しいんですか? あれ。


「そういうこと。あいつが料理に使った調味料とか、全部は分からないのよ」

「なんでそこまで聞かなかったんですか……」

「しょ、しょうがないでしょ。あいつ結局あのお弁当のどれが好きかまでは教えてくれなかったんだから」

「いちばん大事なところじゃないですか」


 なんでキリハさんもそんなところだけごまかしちゃうんですか。

 リィルが聞いたんですよ? そんなおかしなこと言うわけないじゃないですか。


(まさか……)


 まさかですよね。そんなことないですよね。


「そんなこと言って、実は聞かなかっただけだったりしませんよね?」

「…………」


 なーんて、冗談…………なんでなにも言わないんですか。


「え、リィル? まさか……」

「…………笑いたかったら笑いなさいよ」

「別に笑いませんよ」


 なにやってるんですか、もうっ。






「ありがとよ、キリハ。こんな時間なのにわざわざ付き合ってくれて。一人より二人の方が俺も助かるし」

「何、あんな貴重なものをもらったんだ。断ったらバチが当たる」

「おいおい皮肉かー? 怖ぇやつ」

「そう思うなら次からはあんな企みに乗らないことをおすすめする」

「残念、そいつはできない相談だな」


 それはそうだろう。


 直属の上司、元を辿ればその上の上の上に立つような人物からの指示でもある。

 拒みたくてもそう簡単に拒めるものではない。そもそも、リットが拒んだところで結果は何も変わらない。


 夜とはいえ、こうして『いい依頼がある』と声をかけてくれたのはそうした負い目もあったのだろうと勝手に推測していた。


「それで? 今度は一体何があったんだ。急ぎの用事なんだろう? ……違う意味で急ぐことにもなりそうだが」

「脅すなって。お前がここにいるってことは悪い印象も少しは消えて…………おいキリハ? なんでこっち見ないんだよ。なぁ?」


 出掛けたのは、夕食を済ませた後。それもアイシャが寝るほんの少し前になってしまった。

 早めようにもこの時間になるまでそもそもリットの方が動けなかった。


 とはいえそのおかげでテーブルの片付けができたわけだから、悪い事ばかりでもない。


「普通に帰れば何もない筈だ。多分」

「それなら一刻も早く済ませないとな」

「だったら依頼の内容くらい教えてくれてもいいだろう」


 武器防具が必要だとしか聞かされていない。


 十中八九魔物だろうが、どんな魔物かすら分かっていなかった。

 まあ、事前に情報を得ていたところであの植物の二の舞になっては意味がないのだが……


「お前も聞いたことくらいあるだろ? この先の洞窟で出るって話。あれがちょーっと危ない感じになりかけてるんだとよ」

「ああ、幽霊話で盛り上がった結果本物が出た、と」

「そうそう、そんな感じ。まさに今お前が想像してる通りだろうぜ。厄介なのが住み着いちまったんだよ」

「よくぞ声をかけてくれた」

「何だよ急に」


 そういうことなら早急に討伐しなければ。


 笑えない。これっぽっちも笑えない。自然と歩調も速まっていく。


 さすがというか、それでもリットとの距離が開くことはない。


 そうしていよいよ、洞窟が見えようかという頃――


「――《氷壁》」


 目の前に展開した氷の壁に、光の雨が降り注いだ。


(……あれか)


 淡い青色の光を放つ人型。


 手先から粒のような光弾を無数に放つそれには目も、鼻も、口もない。


 鳴き声一つ上げることなく淡々と弾丸を放ち続ける。


 とりあえずの防壁へ亀裂を入れる程度の威力の弾丸を、ひたすらに。


(……そういうことなら)


 勝負は、砕けた一瞬。


 抜き放った剣を右手に夜道を駆け抜ける。

 しかし、刃を当てることは敵わなかった。


(ほう……)


 人型のそれは星空目掛け身を投げた。


 思わず見上げる程の高さに。

 周囲の器具の頂すら軽々超え、高くへと飛び上がってみせた。


「っ、と……なるほど? 確かにこれは『厄介』だな」


 しかし逆に、それ以上は何もない。

 翼を広げることもない。


「《魔斬》」


 魔力を纏った刃から放たれた一撃を躱す術など、持っている筈がなかったのだ。


「……へへっ。ほんと、怖ぇやつ」

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