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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
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第157話 魔物の出どころ

 最初の一匹と合わせて、計六体。

 名前も知らない魔物達は例外なく魔結晶へと姿を変えた。


 一番の特徴だったであろう跳躍力。そして手数の多さと火力。


 どれをとっても低級魔物のそれを大きく上回っていた。

 具体的には、ストラ近隣に出没する魔物の能力を超えていた。


「……なんだって?」


 それもその筈。


「いや、それがさぁ? ちょっとした不幸な事故が起きたっていうか……とにかくそんな感じだったんだよ。誰が悪いとかじゃなくて」

「それにしたって限度はあるだろう……逃げ回っている途中に誰かが襲われていたらどうするつもりだったんだ」


 あれらの魔物は本来この土地に存在していないものだったのだ。


 しかも連れてこられた理由はよりにもよってあの講演会。

 より正確には、講演会に合わせてあの魔物のある特徴について調べたかったのだそうだ。


 例の講演会を行う元冒険者であれば、魔物に抵抗されても問題なく倒せるであろうという想定の下で。


(ライザでもあるまいし、何故そんなリスクの高い方法を……)


 しかしその人物と手四六時中張り付けるわけではない。

 まさにそのタイミングを待っていたかのように脱走し、結果こんなところまで逃げ延びてしまったというのが真相だった。


 さすがに少し、協会への認識も改めるべきなのかもしれない。

 今回ばかりは難ありとしか言いようがない。誰だ責任者は。出てこい。


「まあまあ落ち着けって。何かが起こる前に片づけられたんだからよしとしようぜ」

「何も起こらないようにお前を派遣した、の間違いだろう。……本当に大丈夫なんだろうな?」

「そこから先はこっちの仕事。……付け加えるとしたら、お前の名前も挙がってたって事くらいだな。キリハ?」


 ……件の人物は余程暇を持て余しているらしい。


 これから先も、厄介な敵が目の前に現れることはあるだろう。それは仕方ない。


 しかし、特定の誰かの思惑によってこうなってしまうのであれば話は変わる。

 その結果、アイシャ達――ひいてはストラに被害が出るのなら、猶更。


 何せ今回はこのタイミングにこれだ。

 意図的だったのではないか疑うのも当然だろう。


 馬鹿馬鹿しいどころの話ではない。

 俺に用があるのなら、こんな回りくどい手を遣わず直接呼び出せばいい。


「そんな顔するなって。別にお前のことをどうこうしようなんて気はないだろ。今回だって単なる事故だよ、事故」

「だといいんだがな。俺相手にちょっかいを出すだけならまだともかく」


 それでも結局、余計な心配をかけてしまうことになる。できる限り避けたいところ。


 ただでさえ予想外の形で事件に巻き込まれる事も多いというのに。

 皆の精神的なストレスも溜まる一方だろう。敵を叩きのめして済む話でもない。


「お前もいろいろ気に食わないみたいだし、今日はもうおやすみ、ってことで。分かったことがあったら教えてやっから」

「自慢の調査能力で是非とも犯人も突き止めておいてくれ」

「そりゃ無理だよ。さすがに」

「そう言われると思った」


 理由はおそらく、単純に力不足というわけではない。

 知っていても、調べたとしても、俺に教えてくれる前に記憶を抹消されるだろう。


 どれだけ甘い対応だったとしてもそれだ。

 さすがにリットにそこまでは頼めない。


 しかし、ストラへ足を向けようと思ったまさにその時。

 何かを感じた。初めてでありながら、何故か覚えのある不思議な感覚。


(どこから……)


 何かが起ころうとしている。

 俺達にとって好ましくない何かが。


 それも、俺やリットのすぐ傍で。


「……動くんじゃねぇぞ、キリハ」

「……まさか」

「そのまさかだ」


 その時、気付いた。

 魔物としての形を失った小さな結晶の、大きな変化を。


 リットが握っている一つが、まるで脈動する心臓のように明滅を繰り返すその姿を。


 危険を察知したリットがストラとは真逆の方へと放り捨てた直後、一度光が完全に消える。

 その時には既に、残りの五つもそれに追従するように宙を舞っていた。


 しかし、リットの手から離れた六つの結晶が地面を叩くことはない。

 それどころか散っていった筈の粒子が集約し、そして――


「おいおい……こんなの聞いてねぇよ。俺も」

「……調査しようという話になった原因はこれか」


 そしてまた、魔物の姿となって俺達の前に現れた。


 数はそのまま。シルエットにも大きな変化はない。

 目や鼻らしき器官のない人型という外見的特徴はほぼそのまま。


 そんな中で、明確に『変わった』と言えるのはただ一点。


「……なあ、キリハ。あれって俺の見間違いじゃないんだよな?」

「俺に見えているものがリットにも見えているならそうなんだろうな。……剣なんてさっきはもっていなかった筈だが」


 その手に身体と同じ色の剣を握っている点。


(しかも……)


 微量ながら俺の魔力も吸収している。


 取り込んだのはおそらく空中へ向けて放った《魔斬》の残り滓。

 正確に言えば、剣を振るった際に辺りへ飛び散ってしまったごく僅かな魔力。


 魔法本体は空中で解けるように消えている。おそらく今回は関係ない。

 今この瞬間に至るまで、そこまで露骨な魔力の動きは感じられなかった。


 取り込まれた量を見ても間違いない。

 あるとすれば、消滅寸前に取り込んだ程度のもの。だが、それだけあれば十分だろう。


「さて、どうする? 魔結晶をあのままの形で残しておきたいならこれ以上下手な攻撃はしない方がいいんじゃないか」

「そんな意地の悪いこと言うなよ。やるしかないだろ?」

「同感」


 この程度、激務と言うにはあまりに軽い。


 夜とはいえ、このじゃじゃ馬も戦えるのなら文句はないだろう。

 それどころか力が有り余っているように思える。早くやれ、と。


(……言うわれなくても)


 ついさっき、鞘に納めたばかりの剣。


 ほんのちょっとした手入れだけでも注文の多いこいつも、この鞘だけは気に入っていた。

 無論、反抗するならその時は殴り合いをしてでも納得させるつもりでいたが。


 最近になってやっと付き合い方も分かってきた。

 一方的にこちらが要求を呑んでもつけあがるだけ。多少強引な態度を示さなければ話にならない。


「いつまでもにらみ合っても仕方ないし、さっさと片付けちまうか。このままだと先輩としての面目も立たなそうだし」

「誰もそんなことは思ってない。それより一つだけ。こいつはおそらく――」


 説明するより一瞬早く、魔力の斬撃が闇夜を裂いた。


(やはり……!)


 地面に向かって水平に。

 六つの人型がそれぞれ僅かにタイミングをずらして放った模倣《魔斬》とでも呼ぶべき代物は、標的に傷を負わせることなく消えていった。


 手足を支えに、時に宙を舞いながら軽快な動きでリットは躱していた。


 こちらに飛んできたものも、消滅させるだけならいたって簡単。

 ほんの少しの魔力を纏った剣をぶつけるだけでいい。


「なんだよ、どういうことだよ。今のどう見ても《魔斬》だったろ」

「それをさっき言おうとした。だが……程度の威力ならどうにでもなりそうだ」

「気楽に行ってくれるぜまったく……!」


 しかしリットも焦った様子はまるでない。

 ただ刃を振り回すだけの存在に脅威などない。


(そんなことより、問題は……)


 無力化の方法。何を考えても結局そこに行きついてしまう。


(別の魔法を使ったところで同じことの繰り返し……かといって、魔結晶を消し飛ばせば余計な論争を巻き起こす……)


 ないとは思うが、思いたいところだが、避けられるのならそれに越したことはない。


 しかし力を使い切るまで魔法を受け続けてやるのも馬鹿馬鹿しい。


(ならば――)


 屈んで、すぐさま駆け抜ける。


 すれ違いざまに剣を一振り。

 魔力を纏わせることなく、ただ一撃。


 振り向いたその時になってようやく届く程度の反撃など、脅威にもならない。

 全ての《魔斬》を消し去り、また駆け抜ける。


 今度は手近な三匹をそれぞれ斬りつける。


(そうすれば――)


 いつかは飛び出す。俺を目がけ、どこかで飛び出す。

 模倣した《魔斬》で直接斬りつけようと、六匹総出で。


 あとはそれらを受け切ればいい。


 地面を割る斬撃の雨を躱し、いなし続けるだけだった。


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