表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
148/691

第148話 遠距離狙撃

 二つに裂ける太い胴。

 派手な上に毒々しい外観の魔物はたちまち爆ぜて散る。


 特に大きな個体だったからだろう。

 飛び散る粒子の量も決して少なくはない。


 以前、話題になった未確認生物。それを大きくしたようなフォルム。

 武器を掴む部位はどこにもない。


 毒や炎を吐くわけでもない。攻撃手段は突進のみ。


 基本的な移動速度は精々、人の小走り程度。

 特段小回りが利く身体でもない。


「《熱線》」


 木の隙間を狙えば、灼熱の光線だろうと簡単に魔物の身体を貫くことができた。


 他と比べ、威力も範囲も調整しやすい炎の魔法。

 高熱を放つ一筋の光は火力に秀でる反面、少し歪むだけでも途端に威力が低下する。


 軌道を曲げるなどもってのほか。デメリットを上回るメリットがない。

 その辺りはどうしても水の魔法に劣る。

 

「あの、キリハさん? もしもしキリハさん? わたしたちやることがないんですけど」

「ああ、一応理解はしているつもりだ。すぐに終わらせる」

「終わらせてどうするんですかっ!」

「どうもこうも、それ以外に何があるんだ?」


 泣いても笑ってもこれで最後。

 多少なりとも考えはあるが、俺の思い付きにいつまでも振り回すのはさすがに申し訳ない。


 それに、参加者が増えれば増える程点数を稼ぐチャンスが減る。

 お互いにとって良くない。アイシャ達のトレーニングまで欲張れるほどの数もない。


「なんですか。なんなんですか! なんでそんなに張り切ってるんですかおかしいですよね!?」

「手を抜いていい状況じゃない。何よりレイス達にも悪い」

「あんな条件を出してるのに今更、です」


 それは言わないお約束。


 それこそ完全なワンサイドゲームになっていただろう。

 客観的に見て、今の能力で勝負をすればそうなるのは目に見えている。


 方向音痴が詰むような内容にしない限り。たとえば、そう。迷路とか。


 しかしまさか『教育講習プログラム』の参加権を放り捨てたことがこんな形で影響するとは。

 どうしようもない。こればかりは本当にどうしようもない。


 あの頃はそんな余裕もなかった。

 異世界へ渡るなど想像すらしていなかったが。


「とにかく今回はそういう予定だ。もうしだけ我慢してほしい。それとも、ユッカだけレイス達に合流するか?」

「あ、それはいいです。勝負したいわけじゃないですから」

「何を言う。目標があるんだろう? だったら俺のことも踏み台にするくらいの貪欲さはあった方がいい」

「そこまでひどいこと考えてないですよ!?」


 実際にそうするかどうかはまた別問題。


 当然、そう簡単にしてやられるつもりもない。

 たとえ全ての力が扱えなくとも、為す術なくやられる程落ちぶれてはいない。


「ちょっと待ってよ。待ちなさいよ。あんた言ってなかった? 経験になるって。見た方がいいって」

「だからこうして、実際に来てもらっているんだろう?」

「……いつもと変わらないじゃないの!?」

「そこはリィル次第、というやつだ」


 あながち間違いとも言い切れない。

 むしろ迷宮探索の方が余程経験値になっていただろう。


 なるべく異なる魔法を使うようにしていたのだが。

 ユッカやマユも、自分が取り入れるか以前に、敵として現れた時の備えにもなる。


 その辺りはリィル達の手で見つけてもらいたいところ。


「そんなことより、皆も気を付けてくれ。土の色が若干おかしい。油断していると――」


 余計な事を話し過ぎたせいだろうか。少し遅れた。


「地面から!?」


 地面から生えるように現れた魔物。


 手近な個体の頭に剣を突き立て、引き抜くと同時に左隣の頭部を蹴り飛ばす。


「《雷撃》」


 勢いそのままラケットを振るように左右へ一回。同時に三発。

 撃ち出した、針のような雷でそれぞれ眉間を貫く。


 全身が地上に姿を現わすより早く、魔結晶が地面を叩いた。

 穴から後続が現れることもない。


「――こんな風に、いつどこから出てくるか分からない。あんな見た目でも隠れはするようだか……らっ! 意識して調べた方がいい」


 話している最中なら気を抜くとでも思ったか。

 俺たちに狙いを定める前から居所くらい把握している。


 落下の勢いを乗せた突進。

 避けられてしまえば次はない。それどころか無防備な姿を晒すだけ。


 横だろうと縦だろうと、振り切れば十分届く。


 ただ、どうやら重量は思っていた程ではないようだった。


 今降って来たクネイシーは間違いなく枝の上に乗っていた。

 だが折れた枝が落ちた音を聞いていない。


「あの、キリハさん。調べても今のは当てられる気がしないんですけど」

「訓練あるのみ、としか」

「できませんよ?」


 そしてもう一つ。あの派手な模様。

 てっきりい描くようだとばかり思っていたが、有効活用された試しがない。


 人類など恐怖に値しないか、そもそも俺の勘違いか。


「《流穿》」


 ひとまず、問題の魔物を掃討してからだろう。






「……あいつどこから撃ってんの?」

「さぁ? どこだろうね。姿は見えないけど」


 キリハが放った光線状の雷が、レイス達の先で魔物の頭をあっという間に焼き切った。


 レイス達が見つけた直後。

 森の中から飛び出すように魔物の頭を焼いた。


 一撃。そこに介入する余地はない。

 レイス達も、その魔結晶を拾って自分達の成果にしようとまでは思えなかった。


「さっさとどーにかしやがれですよ。さっきから風の塊が爆発するわ、いきなり凍るわ、赤青黄の光線がバンバン飛んでくるわでやってらんねーんですよ」


 むしろ問題はキリハの魔法そのものだった。


 レイスが、トーリャが、イルエが、レアムが。

 誰かが見つけたと思っても、仕掛ける間もなく魔物は魔結晶へと姿を変える。


 それどころか、突如どこからともなく魔結晶が降って来る。

 誰の仕業か、最早考えるまでもないことだった。


 別行動をレイスから申し出て早三〇分。

 見つけたうちの半数以上を、キリハの魔法で仕留められてしまっていた。


「だが、オレ達のことは狙ってない」

「狙ってたらとんだ裏切り者じゃねーですか」

「そもそも彼、私たちの近くにいる魔物は狙わないしね」

「……それ駄目じゃね?」


 しかしキリハも、レイス達を中心とした一定の範囲内の魔物だけは決して狙わなかった。


 唯一気付いていたレアムの指摘に対する反応は二手に分かれる。

 それは、魔法を主火力としているか否かの差だった。


「しかないと思うよ。キリハ君の魔法が向かってるところにレイス君が斬りかかるかもしれないのに。そんなの大惨事待ったなしだよ」

「そこはほら……キリハが別の方向に逸らすとか」

「いっぺんやってみろですよ。二度とそんなこと言えなくなるでしょーから」


 魔法の急な方向転換。


 キリハが今使っている魔法も、予め操作するための魔法として仕上げられていない。

 イルエもレアムも、魔法使いとしてそれはすぐに察していた。


 そんなものに対して、後から強引な軌道修正を行うのは困難を極めることも。


 たとえ実現不可能ではなくても、激突のリスクはあまりに大きい。


 そして、キリハであればそれを避けるに違いない。

 普段のキリハの態度を見ていたからこそ、イルエもレアムもそう確信していた。


「切り替えて次に行こ、次。まだどこかに隠れてるはずだから。このままだと本当に負けちゃうよ?」

「「それは困る!」」

「単純バカもほどほどにしやがれってんですよ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ