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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
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第141話 勝負

「――まあ、こんなところか」


 気を付けたつもりでも、所詮は『つもり』か。

 触手との戦闘の爪痕がここまで残っていたとは。


 簡単なゴミ掃除でこれほど簡単に集まってしまうとは思いもしなかった。さすがに。


「ぜぇ、ぜぇ……な、なんでそんな、平然とした顔で……ぐぇ……」

「しゃ、喋るなレイス……息が、息が……」


 ゴミ収集に疲労を募らせ、集めたゴミの重さにレイスもトーリャも満身創痍。

 今にも押し潰されてしまいそう。脇に除けてもぐったりしたまま。


 欲張って二つも三つも籠を背負おうとするから。あれだけ忠告しておいたのに。


 まだ話を聞けるような状態でもない。

 ひとまず先に審判に結果を聞こうか。


「ぱっと見ただけだと勝敗も何もあったものじゃないね、これ?」

「ま、こんなもんでしょーよ。普段のバテ方からして」


 周囲の冒険者や警備隊の顔にも疲労が浮かんでいる。

 今回の依頼に参加した面々の階級の問題か、経験の差か。警備隊の方が余裕はありそうだった。


「レイス君達が一、二……あとそっちのものもあるから……」

「それほとんど空っぽでしょーが。バカみたいに詰め込んでるヤツもいるみてーですけど」

「足して二で割ればいいのにねぇ」

「それができるならとっくにしてやがるでしょーよ」


 触手の出現から早九日。事後調査も最低限完了していた。

 一番の問題とも言えるゴミの片付けについて告知されたのが昨日の昼。


 座っていても依頼が舞い込んでくる程に名が売れているわけでもない無名の冒険者達にとっては、絶好の点数稼ぎの機会でもあった。


「じゃあマユちゃん、お願いしていい? 重いかもしれないけど」

「このくらいなら余裕、です」

「だ、そーですよ。男共」


 何より俺は触手と戦った張本人。

 当事者である以上、無視はできない。


「ゼェ、ハァ……もうちょっと、労わろうって気はないのかよ……!?」

「動けも、しないんだぞ……!」

「相っ変わらず貧弱ですね。だからこんな条件つけなきゃ勝負になんねーんですよ」

「「無茶言うな!」」

「何もそこまで言わなくても」


 辛いだろう。さすがにあれは辛かっただろう。

 躍起になって集めていたのだから当然だ。他の冒険者の比ではなかった。


 まったく無茶をする。

 魂の抜けたような顔が見たくてこんなことを始めたわけでもない。


 初めて俺を河川敷に呼び出した師匠もこんな気持ち――……いや、それはないか。絶対にないな。

 置き去りにしたり引き返したりして遊んでいたあの人に限ってそれはない。


「ったく、少しは手伝えってんですよ。か弱い女の子に持たせて罪悪感もねーんですか」

「イルエちゃんが言えたセリフではないよね」

「魔法使いに腕の力なんて必要ねーですよ」


 何を考えていたんだか。

 人が負けじと走る姿を面白がるような真似をして。翌日の筋肉痛は今でもはっきり覚えている。


 ……あとでレイス達にもマッサージをしておこうか。本人達が嫌がらなければ。

 このままでは明日以降に響く。これでは勝負にならない。


「……でもか弱いとは言わないだろ。イルエは」

「動けねーのにいい度胸じゃねーですか。男共」

「「オレまで巻き込むな」」

「おいっ!」


 魔法を直接本人に撃ち込むなんてもってのほか。

 もっとも、実際に撃たれることはないだろうが。


 レイスも余計な事を言うから。

 これまで何度繰り返したと思っているんだ。似たようなやり取りを。


 俺が記憶しているだけでも両手両足の指の数を軽く超えている。


「仲間だよな? 俺ら全員仲間だよな? 仲間って苦楽を共にするものだろ? な?」

「もっともらしい理由で、巻き込むな」


 ここまでがワンセット。

 アイシャは遠くで苦笑い。その隣でリィルが溜め息。いつもの流れだ。


「っていうかキリハ君、やってるしね。マユちゃんと一緒に運んでるしね」

「元から標的にしてねーですよ。当てられっこないのに」

「待て。イルエ。だったら、オレは……」

「連帯責任って言葉があるじゃねーですか」


 しかし笑顔で言うことではない。間違っても笑顔で言うことではない。


 俺達は撃ち込まないと分かっていてからいいものの、傍から見たら一大事だろう。

 仲間割れ、喧嘩……とにかく協会側が介入してもおかしくない。


「提案したのは俺だ。任せきりになんてできるわけがない」

「このくらいならマユも平気、ですよ? 持って行くついで、ですから」

「それはそれ、これはこれ。冒険者が運搬してはならない、なんて決まりもないだろう?」

「むしろもっと手が欲しいくらいって言ってた、です」

「だったら問題ない」


 レナさんだろうか。レナさんだろう。

 手押し車もまるで足りていない。一グループに一つも渡っていない。


 念力めいた魔法が広く知れ渡っているのならまだ楽かもしれないが、結局あれも力を使う。

 実際に腕力を使うことはなくても、疲労度は腕を使って持ち上げた時と大差ない。


「ところで結果は? 一通り運び終わった筈だが……」

「うんうん、分かってる。正確に測ってないから誤差はあるだろうけど、今計算が終わったところ。……いい?」

「俺はいつでも」

「ちょっ、待った! 頼むから待ってくれ! あとちょっと! ちょっとでいいから心の準備したいんだよ!」

「黙ってりゃいーんですよ。勝ったんですから」


 ああ、やっぱり。

 雑な計算でもある程度は当たっていたらしい。


「…………あ?」

「どういう、ことだ?」


 むしろ一番呆けているのは本人達。

 目を丸くして、まるで信じられないものでも見たかのよう。


「レイス君達の勝ちって言ったんだよ。僅差でね」

「……マジで?」

「うんうん、マジ。マジだよ。ね?」

「嘘つく理由がねーですよ」

「っしゃぁあああああ……!!」


 手を抜いたつもりはない。純粋に、二人の頑張りの成果だろう。

 理由もなくレイスのガッツポーズを咎める者などここにはいない。


「…………勝った?」


 ……約一名、結果に不服そうな人物もいるようだが。


「ま、まあまあ……言い出したのはキリハだし、ね?」

「不満があるわけじゃないわよ。別に」

「その顔で言っても説得力ないですよ」


 機嫌を悪くするような事でもないだろうに。

 リィル本人が負けたわけでもない。そもそも負けたからと言って特にペナルティがあるわけでもない。


 いくら負けず嫌いだからと言って結果に異を唱えるつもりもない。


「怒らない怒らない。曲芸師も真っ青な動き方しちゃうようなキリハ君が相手なんだからこのくらいのハンデがなきゃどうにもならないよ」

「ゴミ集めに戦闘能力も何も関係ねー筈ですけどね。普通は」

「だから怒ってなんてないってば」


 あらかじめ決めておいたルールにのっとった結果、今回はそうなったというだけの事。

 それ以上でも以下でもない。


「さっきも言ったじゃない。僅差だったって。二対一だったんだから仕方ないってば」

「そもそも単純な量で比較したら勝ち目ねーですよ。見りゃ分かるでしょーが」


 ……客観的に見て、現在のルールが少しばかりレイス達有利に感じられるのは否定しないが。

 俺もまさかここまでいい具合に差が詰まるとは思わなかった。


「レアムもイルエもどっちの味方なんだよ!? なぁ!?」

「事実を述べただけでしょーが。悔しかったら自力でなんとかしやがれってんですよ」

「それができれば苦労はしない……」


 仕方がない。こればかりはどうしようもない。

 見た目は同年代でも、実際には歳の差もあるのだから。おおよそ一〇歳ほど。


「いつまでも休んでいていいのか? まだ一勝一敗。始まったばかりだろう」

「お、鬼……」

「こんなに悪魔的、とは……」

「恨み言は起きてからでもいいんじゃないか?」


 全く同じ条件での勝負がそもそも成り立たない。


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