第140話 振り返ってみると
「どうしてまだ終わらないんなんですかぁ~!」
やってもやっても終わらないんですけど! もう疲れましたよ……
どうしてですか。リィルたちには先に帰っていいって言ったのに。
「周囲の影響を始め、調べなければならない事はたくさんありますから。泣いてばかりはいられませんよ?」
「泣いてなんかないですよっ!」
「では続けましょうか。こうした事後調査も仕事ですから」
「っくぅううううう~!」
そんなこと分かってます。分かってるんです。でも、でもぉ……
「皆さん達の活動とは切っても切り離せないものです。これまでユッカさんが関わった事件も例外ではありませんよ? それだけは忘れないでくださいね」
「じゃあキリハさんも呼んでいいですか? 戦ってたんですから」
「彼には今、事情聴取を受けてもらっていますよ。今後の参考に」
「参考……?」
なるんですか。なりまえせんよね?
ほとんど見えませんでしたよ。キリハさんの動きなんて。
飛んだと思ったら触手を切り落としてたじゃないですか。
その触手を空に投げて、長い長い光の剣で斬ってたじゃないですか。
あの光の魔法で一気に消してたじゃないですか。誰が真似するんですか。
「それに、今回なんてまだ軽い方なんですよ? すぐに解決しましたし、被害範囲も限られていますから」
「……森はめちゃくちゃになってますけど」
「確かに、その通りです。整備は各所へ協力を要請するしかないでしょうね」
またですか。またそうなるんですか。
あのうねうねも暴れるならちゃんと片付けてくださいよ。もう。
「倒れた樹木の回収に周辺の測定……本格的なものは明日以降になりそうですね。さすがに日を跨いだ後まで付き合ってもらうわけにはいきません」
「じゃあ――!」
「はい。既定の時間までは、しっかり協力してくださいね?」
「……ですよね」
知ってました。そうなると思ってました。
全然悲しくなんてないです。……はぁ。
「お疲れ様、です」
「ぴゃっ!? だだだ誰ですか!」
冷たいです。とにかく首が冷たいです。
誰の氷魔法ですか! ……あれ?
「ま、マユ? どうしてここに?」
「差し入れ、です」
……まさかこれじゃないですよね?
こんな冷えたカップを当てたわけじゃないですよね。
「あら、ありがとうございます。……用意してくださった方にも後程お礼しなければなりませんね」
「門の側のお店の人が共同で用意してくれた、です。リィルさんたちもあっち、に」
いつの間に……また戻って来たんですか?
キリハさんだけいませんね。まだお話が終わってないんですか。
「ユッカ、さん? どうかした、ですか? 冷たくなくなっちゃう、ですよ?」
「あ、いいんですか? わたしがもらっても」
「そのために持ってきた、です」
「そういうことなら……」
水……じゃ、ないですね? なんでしょう。これ。
分かりません。アイシャの家でも、もらったことはないです。
でも……
「……おいしいですね。これ」
「いいお店、ですから」
「そうじゃなくって。……いいんです。とっても」
なんでしょうね。なんて言うんでしょうね。
冷たいのに、ちょっとあったかいっていうか。
「ありがとうございました、マユ。わたしにやらせてくれて」
「嫌じゃなかった、ですか?」
「そんなことないですよ? ……仕事は多かったですけど」
「それは仕方ない、です」
仕方なくないですよ。あのほこりとか。
「でも、お礼を言うのはマユの方、です。おかげで楽しい一日、でした」
「あんなに大きなうねうねが出たのに?」
「キリハさんといたらよくあること、です」
「……それもそうですね?」
不思議ですよね。呪われてるんですかね、やっぱり。
言ったらさすがに怒られそうですけど。
「ユッカさん? 休憩は程々にしてくださいね。まだやることは残っていますから」
「はーいっ!」
たまにはいいですね。こういうのも。
たまには、ですけど。
「まさか体験会当日にこのような事態になるとはな。今回の参加者には別途報酬を出すべきか」
「いいんですか。一冒険者の前でそんなことを口にして」
確かにそのくらいなら文句も出ないかもしれないが。
本来ならごくごく普通の業務をこなして一日を終える予定だった筈。
協会と冒険者。双方にとって想定外の事態。堪ったものではないだろう。
誰が、どこから計算していたのか。
それはこの際気にしないにしても、あまりに歯車がかみ合い過ぎていた。
見事と言ってもいい。
次会った時に遠慮の必要もないと思えるくらいに見事だ。
「何、私の個人的な感謝の気持ちだ。問題はあるまいよ」
「そういう話ではなくてですね」
「分かっているとも。君には規約に則り報酬を渡す」
「そういう話でもありませんよ?」
規約に従って、と言われてもあれは魔物ではない。
依頼が発行されているわけでもないのだ。事後でも可能とは聞くが……
それにしても支部長のポケットマネーから払うつもりとは。
それとも許可が下りないのだろうか? 協会の懐事情とてそこまで厳しいわけでもないだろうに。
「おや、いらないのかね? 武器防具の整備にもお金は必要だろう」
「……ありがたく頂戴します」
「素直で結構」
迷宮の剣はむしろ活き活きとしているくらいだが。
あの程度の魔力でも問題はないらしい。一瞬に集約した《解砲魔光》を発動したにもかかわらず。
それに、メンテナンスに限った話ではない。
今後の生活を考えればどうしても必要になってくる。
「私としては悲しい限りだがね。是非また君の《魔力剣》を見たいものだ」
「そういう機会もあると思いますよ。いつかは」
「私の目の届く範囲でなければ意味がないのだよ」
相も変わらず正直な人だ。自分の欲望に。
長期的に街を離れることがあれば、迷宮の剣の消耗との兼ね合いで使用頻度も跳ね上がるだろう。
特に今回は《魔力剣》を使うメリットが薄かった。
変換し切っていない魔力の塊。あの触手とは相性最悪だ。
「雑談はこのくらいにしておこう。もう浪費できる時間もない。……どうだったかね?」
「ある程度の実力があれば、次が起きても問題はないかと。ただ……そうですね。魔法以外に遠距離攻撃可能な何かがあれば少し多めに用意した方がいいかもしれません」
「君のように、自由自在に空を飛べる者がいれば別だがね」
それを言ったらおしまいだ。
生まれ持った時点で身体がそういう風にできている民族もいると聞く。
他にも所謂ドラゴンのような生物と深いつながりを持つ人もいるそうだから、決して不可能ではないのだろう。
異様な切れ味を持ち、投擲可能な刃物があれば。
魔力を使わない大砲の用意には時間がかかる。
「魔法の場合はどうだね。君が使ったような高濃度の魔力砲であれば同じように消せるのかな?」
となればやはり、そこへ行きつくだろう。
「理論上は、としか言えません。触手の性質を考えれば照射可能な時間も限られますし、文字通り一瞬で消し飛ばす必要があります。何より、そのまま戦闘を継続するとなると……」
「実践可能な人物も限られるだろうな」
「はい。それに、今のはあくまで切断した後の話です。本体を消滅させないのならそうした方法に限られると俺は思います」
「複数人で対処できるのなら現実味はある。無論、向かわせる人員は慎重に選ぶ必要があるがね」
特級とまではいかずとも、か。
触手の部分を消し飛ばすだけなら支部長のような実力と知識を併せ持った人物でなくてもなんとかなる。
あの時の《解砲魔光》のように一発撃つだけなら、実現不可能ではない。
だが、それだけだ。
「むしろ、本来なら大勢を集めて対処に当たるべき問題かと。以前もそうだったんですよね?」
「ああ……かの婦人から話は聞かせてもらった。彼女も母親から聞いたそうだが、長生きする者は違うな。驚くほど詳細な話を聞く事ができた」
なんと。
となれば資料も、おそらくその人から。
本当に感謝しかない。話を聞く事ができなければあのまま始末していただろう。
「そして一つ、面白いことが分かったのだよ」
「面白いこと、ですか。まさか、鎮圧に参加した方が今も元気でいらっしゃるなんて言いませんよね?」
「そのまさかだよ。なんと以前あの触手の生命体を鎮圧したのは総会長だったそうだ。君と同じように、事実上一人でね」
……総会長が?




