↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
137/691

第137話 楔を動かせ

「せーのっ……!」


 アイシャの掛け声。

 それに合わせて、決めておいた通りそれぞれが一斉に持ち上げた。

 しかし。


「重っ!? ちゃんと力入れろってんですよ男ども! 」

「なんて言ってるけど、ほどほどにねー。そっちが持ち上げすぎちゃうとこっちの負担が大きくなるから」

「結局どっちなんだよ!?」


 白く、アイシャの背丈ほどもある楔。

 その重量はアイシャたちの想像を絶するものだった。


 人一人どころではなかった。

 巨大な岩を持ち上げているような気分をアイシャ達に味あわせた。


 少女達は、見た目から想像した以上の重さにすっかり翻弄されていた。


(どうしてこんなに重いのよ。絶対もっと軽く作れたでしょこれ……!)


 作成者を恨み言をぶつけたくても、当人の姿はどこにもなかった。


 どこかから様子を伺っていると分かっていても、その姿を見つけることはできない。

 これまでのやりとりは、ヘレンから接触してきたからこそ得られた機会でもあった。


「このくらい、なら、マユが」

「大丈夫よ。なんとかするから。分かったらそんな無茶なこと考えないで。いい?」

「でも固定するものなんてない、ですよ?」


 掛け声に合わせて少しずつ、キリハ達の近くへ運び続ける。


 しかしさすがに、誰一人としてキリハの目の前に設置できるとは考えていなかった。

 ある程度近づけることさえできればそれでいいと考えていた。


「「「「……あっ」」」」


 だからこそ、マユの指摘にはアイシャもリィルもレイスもイルエも声を漏らした。


 倒すことができるかもしれないという期待に意識を奪われてしまっていた。


「大丈夫大丈夫。立てて置いておけば上手いことやってくれるって。誰かが持って支えるより安全だよ」

「だったらキリハに持たせりゃいーですよ。あの馬鹿力なら片手で投げられるんじゃねーですか?」

「これってそういう使い方なの……?」

「そんなわけないでしょ」


 キリハならやりかねない。


 思っていても、誰一人として言葉にはしなかった。






(……また恐ろしいことを)


 いったい誰だ。思いついたのは。

 手を貸す方も大概――いや、論外。


(あんなものまで用意して……刺して仕留めろとでも? そんな無茶な話があるか)


 しかも俺に悟られないように力を抑えながら。

 やるか、普通。そこまでやるか。


 問い詰めなければならない理由がまた増えた。せめて両手の指に収まるうちに見つけなければ。


(……となると、もうしばらくこちらに注意を向けさせておくべき、か……)


 あるいは先端を打ち上げて《解砲魔光》で消し飛ばすか。


 無駄に痛めつけるような戦い方を続ける趣味もない。

 早急に、とっとと終わらせるに限る。


(……また半端な手応えか)


 そう思っても、刃の刺さりが甘くなっている。


 正面からの突進に乗じて下側に潜り込み、突き出した剣。


 しかし、貫通させても触手はお構いなし。

 自らを引き裂かせるという豪快かつ大胆な方法で逃れてみせた。


 その傷は当然のように一瞬で修復される。

 投げ込む以前に、そのための何かを用意する暇さえなかった。


 あの魔法耐性の持ち主が、断面をどうこうさせてくれるとは思えない。

 試すにせよ、期待はしない方がいい。


「……?」


 しかし、いくら待っても次の一手はない。

 先程までとは打って変わって、微動だにしない。それがかえって不気味だった。


(これ以上攻撃を加えても無駄と判断した? 今更? そんなこと、とっくに理解していた筈……)


 未だに俺の動作を知覚する器官は見つけられていない。


 もし俺が想像していないようなものであればいよいよお手上げ。

 その線は切り捨てるしかない。


 アイシャ達に《閃光》の発動を伝えてしまえば、確実に触手にも把握される。

 それでは意味がない。


 視線を向け続けなくても、触手はその場を動こうとしないとしない。

 撤退の素振りも見せない。


(となれば――)


 そして、今のアイシャ達の位置なら。


「……こんな形で力比べをすることになるとはな」


 触手を振り上げれば十分届く。

 俺に仕掛ける間は決して地面から話さなかった部分も使えば、十分届く。


 左手に掛かる異様なまでの重さ。

 地面を凹ませなお有り余る威力。木の幹すら押し潰す威力。


 アイシャ達を狙った、叩きつけるような一撃。

 あれではヘレンが作り上げた楔に触れることもなかっただろう。


 とはいえ、あいつのことだ。何か仕掛けていてもおかしくはない。

 物体として作り上げるだけなら明らかに不要なエネルギーが込められているのだから。


「皆は今の内に。威力は見ての通りだ」

「ご、ごめんキリハ……その、みんなは悪くなくて……」

「その話はまた後で。それに、折角ここまで運んでもらったんだ。こいつも有効活用させてもらおうか。……さ、早く」


 無茶をしているのはどっちなんだか。


 何も無理して運ぶ必要なんてなかっただろうに。……言うのは野暮か。

 それに文句を言う相手は他にいる。


「んッ! っと……狙うなら俺だけで十分だろう? それとも、不満か?」


 押し返した途端にもう一度。

 空を切って触手は迫る。


 しかしさすがに勢いが足りない。威力も幾らか落ちていた。


(……それでいい)


 表面温度は高い。このまま掴んでいたら火傷しそうだ。

 以前、ライザが持ち出した《蝕む熱銀》といい勝負。怪しげな何かを放出しているわけでもない。


 あの商人が無事だったのは幸運としか言いようがない。特に疑う必要もないだろう。


 既に身元は判明している。

 変装の可能性も限りなくゼロに近い。


(叩きつけるか、打ち上げて投げつけるか……それにしても、今回ばかりは軽率と言わざるを得ないな。ヘレン)


 どうせ見ているんだろう。今もどこかで見ているんだろう。


 どうしてそんなところだけ主人に似てしまうのか。

 普段はあれだけ対照的だというのに。


(……丁度、掴めているわけだし)


 時間をかけても仕方ない。少し強引にかたをつけさせてもらおう。

 力勝負ならこちらに分がある。


「ふんっ……!」


 触手を掴んだ左手を引き寄せ、右手で更に抑え込む。


 勝負は引き合い。

 あの楔なら勢いがなくても、押し付けてやるだけで十分致命傷を与えられるだろう。


 いっそのこと、地中かどこかに今も潜んでいる本体を引っぱり出せたら好都合――


「…………ん?」


 不意に、抵抗を感じなくなった。

 おまけに何かが引きちぎられたような嫌な音。


 勢い余って結局楔に叩きつけてしまった赤黒い触手。

 その根元へ視線を向けていくと、途切れた。


 地中へと続くはずの長い触手は、地上五メートル程の高さで何故か途切れていた。


 断面の側は、生い茂った緑を巻き込みながら跳ねるようにうねうねと。

 溢れ出すのはやはり黒い粒子。


(……ああ、なるほど)


 触手は引っぱり合いのせいで見事に引きちぎられてしまったわけだ。


「ちょっとぉ――――っ!!?」


 遠くから聞こえる。

 怒りと驚愕と焦りが調和した叫びが聞こえる。


 残った触手の追撃もなく、またしてもリィル達は楔の元に集まった。


「分かってる? あんた自分がなにしたか分かってる!? 守ってくれるのは嬉しいけどこんなやり方してほしくなんてなかったわよ!!」

「いや違う。事故だ。そう、不幸な事故。起きてしまったものは仕方がない」

「開き直ってるんじゃないわよ!? ああもう、こんなのどうしたら……!」


 どうしようもないだろう、とは言えなかった。


 こうも慌てられると逆に頭が冷えてくる。後始末の方法まですぐに浮かんだ。


「……どうして燃えてる、ですか?」

「ああ、このままにしておくのもどうかと思って」

「!?」


 地中とつながった部分が大暴れしていないのが攻めてもの幸いか。

 また繋がる前にこの先端だけでも処理しておいた方がいい。


 魔法への耐性が高かろうと、切り離してしまえばやりようはある。

 マユが火炎玉を投げてくれたおかげでもあった。


「キリハどうしちゃったの!? いつもならそこまでしないよね!?」

「いや言ってたろ。やってたろ。こんなのいまさら驚くことじゃなくね?」

「……それでも、もう少しは常識的だった。……多分」


 どういうことだ。

 何故そこで自信のなさげな反応をするんだ、トーリャ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。