第136話 昼過ぎのユッカ
(さすがにちょっと、露骨すぎましたかね?)
あーあ、明らかに怪しんでますよあの子。現在進行形で。メチャクチャ。
しかも一瞬、こっちの方見てましたよね。
偶然だって分かってても冷や汗ものですよ。
(これだから勘が鋭い子って怖いんですよねー。まあ今のはどっちかっていうと私のミスですけど。うっかりうっかり)
あんな大きな楔まで用意したら流石にバレちゃいますか。
これじゃあ誰のことも言えませんよ。まったくもう。
余計な手出しなんてせずに、そっとしとけばよかったです。
変なサービス精神なんて発揮するものじゃないですね。
(……でも、前に出て仕留めるのはパスしたいんですよねー。今は眠らせる手段もないですし)
いくらあの人のセキュリティが身内相手にガバガバだからって、この距離じゃ気付かれますよね。
お弁当に仕込んだところで起こされるのが目に見えてたしなー……
あの人もあの人ですよ。
問答無用で吹っ飛ばしちゃえばいいのに。変なところで気を遣っちゃうんですから。
気を遣わなきゃいけないこっちの身にもなってほしいですね。まったく。
(……まあ、そうやって避けようとするところまで変わってたらそれはそれで大の問題ですけど)
負けず嫌いっていうか、意地っ張り?
なんとかならないんですかね。あれ。
まあなんとかにつける薬はないって言いますし、もうどうにもならないんでしょうね。やれやれ。
一応、ぶっ放さない理由も環境だけじゃない筈ですし、成長したってことにしておきましょうか。
あとは……
(活かすも殺すもあなた達次第……ちゃーんと、頑張ってくださいね?)
任せっぱなしにするつもりじゃないってことくらい、分かってますから。
「うへぇ……」
つかれました。もう動けません。動きたくないです。
誰でもいいから今すぐ変わってください。
頭も痛い……誰ですか。こんな企画に参加しようなんて言ったのは。
「ぐったりしている暇はありませんよ? これから奥で書類整理も待っているんですから」
「ぅ……」
なんでですか。まだあるんですか。
やっぱりキリハさんに交代しておけば……キリハさん?
(そういえば……)
そうですよ。キリハさんの真似をすればいいんじゃないですか。
どんな感じでしたっけ。こういうときはたしか……
「み、見せていいんですか? そんな大事なもの。わたし、今日しかいないんですよ?」
「ご心配なく。機密情報は手の届かないところにしっかり保管してありますから」
……なんか違いますね?
余計に疲れましたよこれ。これから裏で色々やらなきゃいけないのに。
キリハさんにバレませんように。
「それにしても変ですね。お昼休憩の後はあんなに元気だったじゃないですか」
「それはその、みんなが作ってくれたお弁当がおいしかったから……じゃないですよ! いいんですよそんなこと!」
こんなに忙しいって分かってたらもうちょっと落ち着いてましたよ!
あのお弁当、もうちょっと取っておきたかったのに。
聞いてないですよ。お昼休みがあんなに短いなんて。
砂時計が落ちるまでとかなに考えてるんですか。聞いてないですよ。
せっかく作ってもらったのに。
リィルはともかく、キリハさんもアイシャもマユもいつ作ったんでしょうね?
ちゃんとおいしかったですし。
……キリハさんはそんなに上手じゃなさそうって思ったのは秘密にしておきましょう。
言わなきゃ分かりませんよね。きっと。
それにキリハさんなら許してくれます。多分。
でも……はぁ。
「リィルたちが来てからけっこう経ったのに、どうしてまだこんなにやることが残ってですかぁ……」
「そういうものですから。今日は少ない方ですよ?」
「あんな触手が見つかったのにですか?」
「あのくらいなら可愛いものですよ。これから先も同様の被害があると考えると、確かに無視できる存在ではありませんけどね」
ですよね。そうですよね。
だからキリハさんもきっと探しに行ったんですよね。……行ったんですよね?
物を盗られた人もいるみたいですし、全員で探しに行くとか。
それならリィルの心配も少なくなるはずですし。っていうか、心配性なんですよ。リィルは。
でもどうなんでしょう。倒せなかったって。
キリハさんの《斬水》って、かなり痛そうな魔法でしたよね?
次は《万断》とか? ……森に被害が出そうですね。
この前の光線だってそうです。なんですかあれ。町を消す気ですか。
やらないでしょうけど、キリハさんに限ってそんなこと絶対やらないと信じてますけど、多分できますよね?
あんな光の魔法、エルナレイさんだって使いませんよ。
キリハさんは『エルナレイさんも同じことはできる』なんて言ってましたけど……
「ユッカさん。手が止まっていますよ?」
「ぁ、いや……ちょっと、その、その気になることがあっただけです。なんでもないですよ。なんでも」
「では是非、手も動かしてくださいね?」
「……はい」
分かってます。分かってますよ。……はぁ。
どこに行くんでしたっけ。確か、冒険者から見えない隣の部屋?
ほんと部屋多いですね。迷いますよ。キリハさんだったら。
マユはあんなこと言ってましたけど、家を買うなら大きさも考えないといけません。
それに、あってもまだ先のことですよね。きっと。
みんなで暮らすのは楽しそうですけど。
「うわ……」
……でもそのときは、こんなほこりまみれの部屋なんて作りたくないです。
廊下はきれいなのに。
床も窓も壁も全部きれいなのにどうしてここだけ。
「気持ちはわかりますが、なるべく顔には出さないように。それもまた、教会で働く上では必要なことですから」
「……ほんとですか?」
「ええ、本当ですとも。ルークも動揺を表に出すことは滅多にない筈です」
そうでしたっけ。言われてみたらそんな気も……うーん……
じゃなくて。
「ここでなにすればいいんですか? すごいほこりだらけですよ。ほこりだらけ」
「わざわざ繰り返す必要はありません。さあ、こちらに」
「掃除くらいしてくださいよ……」
こんな形でリィルの気持ちがわかるなんて。
いやですね。たしかにいやですねこれ。……明日からもうちょっと手伝いましょうか。
「それも含めての整理です。まずは目の前の山から。振ってある番号順に並べ替えてください。私はその隣をやりますから」
「いいんですかこんなことさせてぇ……ケホッ! ゲホッ!?」
目が、目がぁっ!?
痛いです。とにかく痛いです。
誰ですかこんなになるまで放っておいたのは!
「気をつけてください。咳き込むと更に舞い上がりますよ」
「じゃあこのほこ、ケホッ、このほこり、なんとかしてくださいよ!?」
知りたくなかったです。こんな秘密。
なんでこんなひどいんですか。キリハさんに来てもらって全部吹き飛ばしてもらいますよ?
「……このままでは作業になりませんね」
「だ、だったら――」
「違います。……少しの間、外で待っていただけますか?」
「はい?」
え、やめるんじゃないんですか。
埃が酷いから他の日に協会の人がやってくれるとか、そういうのじゃないんですか。
「とにかく、受付の方で少し待っていてください。すぐに終わらせますから」
言ってたのに。
キリハさん、協会の人が準備してるからきっと大丈夫って言ってたのに。
これはいったいどういうことですか。
(なんか思ってたのと違うんですけど……)
忙しいです。それは間違いないです。
こんな仕事やるだけでも大変だって、ご飯を食べる前でもよーく分かりましたよ。
でもちょっと、違うっていうか……
「あ、あぁお姉さん。あんた町の外に出た触手のことは聞いてないかい? なんでも若い冒険者さんが向かったそうだけど……」
「リィルたちのことですか? 今はいませんよ?」
「ぁぁ、遅かった……」
「……なんですって?」
どういうことですかそれ。なんでそんなこと言うんですか。
「知ってるんですよね。なにか、知ってるんですよね? ……お願いします。教えてください」
やっぱりなにか、秘密があるんじゃ……




