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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
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第135話 キリハの狙い

 刃が通っていないわけではない。

 触手の皮膚自体、頑丈なものとは言えないだろう。


(この手の相手は……)


 しかしこちらの攻撃は有効打たり得ない。


「《針氷》、《斬水》」


 再び放った水の太刀。


 しかし先程と違って、それを受けても触手が引き下がることはない。

 設置した氷の針も、身体を刺すどころか押し潰される。


「ち……っ」


 一直線に伸びた赤黒。触手は左耳と紙一重。

 しかし、掴む間もなくたちまち引っ込んだ。


 そしてまたその身を鞭のようにして地面を打つ。


 今度は俺の頭の上から。あのまま元の位置に戻るでもなく。


 逆手で剣を地面に突き刺したところで、触手は地を這い逃げた後。

 やはりあれは一部でしかない。


(……一部がこれなら、一体どれだけ大きく育っているんだか)


 何せあの重さだ。

 避けなればまず潰されていただろう。

 地面の凹み具合からして間違いない。


 それでいてとにかく退くのが早い。


 伸ばしたゴムが縮むようにあっという間。

 簡単には反撃も届かない。


 そして何より。


(さっきからちょこまかと……!)


 右から、左から、正面から。

 先端を叩きつけるような攻めの間隔がやたら短い。


 剣で上に弾き返しても勢いづけるだけ。


 せめてと思って何度も木に叩きつけてやっても好転の兆しは見えない。

 倒すどころか、このままでは回りの木が折れる方が恐らく早い。


 ラリーの間にアイシャ達が下がってくれたのがせめてもの幸いだった。


 木々の間隔は広い。

 先日の、あの八面体の魔道具が守護していた場所よりもはるかに見通しはいい。


 おかげで遠慮なく剣を振り回すことができる。それは間違いない。

 一方、触手をぶつけられそうな木も多くはなかった。


(これだけ叩きつければ嫌でも覚えそうなもの、だが……っ)


 我慢比べのつもりか。


 多少、動きは鈍っている。しかしまだ行動不能には遠い。

 木へ叩きつけた直後の追撃もやはり避けている。


(かといって、この場所から下手に動けば……)


 狙いが変わるだろう。間違いなく。

 実際何度か後ろを狙っていた。


 間違いない。やはり見えている。


 目や鼻らしき部位は触手のどこにも見当たらない。

 だが、この状況を正確に把握している。

 超音波の類いでもない。


 当然と言われたらそれまで。

 あんな見た目だ。俺も、あれのどこに何があるのか正確に把握しているとは言えない。






「……あんなに、暴れなかったら」


 マユは頬を膨らませながら、キリハに弾かれる触手を見つめていた。


 キリハが迷宮で得た剣ばかりでなく、殴られ、蹴られ、何度も木を打つ触手を見つめていた。


 離れなければと思う一方、キリハを完全に置き去りにすることなど誰にもできなかったのだ。


「し、仕方ないよ。誰にも分からなかったんだもん。それより平気? 痛いところとか、ほんとにない?」

「大丈夫、です。あと、今言ったのはそっちじゃ、なくて」

「分かってるから投げないようにねー。燃やせても倒せないんじゃないかなぁ? あの感じ」


 可能であれば、援護するつもりでいた。


 しかし現状、アイシャ達にはその手がない。

 アイシャが放った《水流》は勿論、キリハの魔法も触手に大きなダメージを与えることはなかった。


 打ち合いに加勢しようにも、攻撃速度に追い付くだけでも難しい。

 更に力勝負に勝つ必要もある。


 そんな条件が重なり、その場にいる誰にとっても援護そのものが不可能なことのように思えていた。


「っていうかどうなってるんだよ。あれ……キリハでも倒せないのかよ」

「そうとは言い切れないよ。あの感じ、どっちかって言うと――」


 しかし決して、キリハが触手に遅れをとっているわけではない。

 レアムの目にもそれは明らかだった。


「あれ以上試せないのよ。威力が高すぎるから」


 そしてリィルも、辿り着いた答えはレアムと同じ。


 魔法への耐性があるのならそれでも耐えられない魔法で打ち破る。

 彼女達は、キリハに対して少なからずそういう認識を抱いていた。


 キリハ自身、《解砲魔光》を放てばダメージになると考えていた。

 今戦っている場所では試しようがないというだけで、そのチャンスを密かに窺っていた。


 故にキリハは触手を打ち返し続けていた。

 ダメージの蓄積も期待しながら。


「やっぱり? キリハ君のことよく見てるリィルちゃんが言うなら間違いないよね。さっすがー」

「か、関係ないでしょ。注意を引き付けてくれるなら《ブレイズキャノン》で証明できるけど?」

「それは勘弁。んー、本体が姿を見せてくれたらいいんだけど……」

「へ?」

「うん?」


 アイシャが戸惑いの声を上げ、更にレアムが首を傾げる。


 直接手を出せないアイシャ達は、話しながら少しでも糸口になりそうなものを探していた。

 討伐手段の発見を最優先にしていた。


「れ、レアムちゃん? 本体って? あれがそうなんじゃ……」

「多分だけど、あれは体の一部だと思うよ? どこから生えてるのか分かんないけど」

「じゃあ探すしかねーですね。あいつの魔法も今は頼れねーですし」


 キリハの《小用鳥》は今も消えたわけではない。


 アイシャ達にそれを確める術はなかった。

 しかし、仮に調べていようと、それを自分達に伝えている場合ではないと感じていた。


「キリハもめんどーなことしやがりますね。あんなの消し飛ばしちゃえばいいのに」

「それさっきリィルちゃんが言ったから。辺り一面消し炭になるだけだよ、それ」

「この前の魔法ならそのくらいできそう、です」


 その魔法、《解砲魔光》の威力をマユは遠目からでもはっきりと感じとることができた。


 膨大な魔力を糧に溢れだした暴力的な光。

 御伽噺を思い出させるほどの極光を、少女達は鮮明に思い出すことができた。


 そうした中で、アイシャが思い付いたのは。


「ねえ、リィルちゃん。あの木、私たちで倒せたりしないかな?」

「あの木、って……いくらなんでも遠くない? あれを倒してぶつけるとか言わないでしょうね?」

「え、そのつもりだったんだけど……ダメ?」

「駄目、っていうか……またとんでもないこと思い付いたわねアイシャも……」


 しかしリィルも否定しようとは思えなかった。


 最大の問題は、実現の難易度。

 狙った方向に木を倒すことができるのか、そもそも倒せるのか。


 リィルも、そんな経験は一度もなかった。

 人数が増えたとしてもそれは変わらない。

 むしろ木を破壊してしまうような気さえしていた。


「二人で片付けようとするなですよ。他にもいるでしょーが」

「そうそう。たとえば先にオレとトーリャで斬ってみるとか」

「「「それはムリ」」」

「一斉に言うことないだろ!?」


 叫ぶ一方、レイスも理解していた。


 あの戦いの中を潜り抜け、更に木を切り裂くなど今の自分には不可能だと。

 遠回りで向かったところで、いつ触手が彼らに向けられるかわからない。


「でも多分、キリハさん気付いてる、です。何度も木に叩きつけてる、ですから」


 その手口がやや凶暴になりつつある事実に、マユはあえて触れない。


 正面から少しズレた部分を蹴り、殴るその様はとても魔法使いのそれではなかった。


 それでもなお形を崩さない触手の頑丈さ以上に、全く響いていない様子のキリハにある種の戦慄すら覚えていたのだ。


「近くに大きくて頑丈な楔があったらなー。キリハ君の狙いもなんとか達成できそうなんだけど」

「いやいや、無茶言うなよ。なにするつもりか知らないけど、そんな都合よく置いてあるわけ……」


 見回しても、当然ない。


 レイスの背丈程もある頑丈な楔など、自然に存在している筈がない。


「じゃあ、あれ、とか」

「…………ほんとにあった!?」


 その筈だった。


「な、なにあれ……分かる? マユちゃん」

「たまたま見つけただけ、ですから。アイシャさんこそ、見たことない、ですか?」

「あ、うん……一人で行ける場所じゃないから」


 近付こうとさえしなかった。

 ストラに住んでいたとはいえ、近隣の全てを把握しているわけてはない。


 誰かが置いていたとしても、アイシャでさえそれに気付けない。


(まさか、ね……)


 リィルは視線を向けるが、やはりオレンジ髪の姿は見当たらない。

 確証はなかった。しかし、他に考えられなかった。


 その人物の姿が浮かんだまま、リィルの頭を離れなかった。

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