第133話 情報整理のお仕事
「えっと……なんて?」
聞き間違いですかね。聞き間違いですよね。
だって、そうじゃなきゃおかしいじゃないですか。
そんなこと、いくらなんでも起こるわけないじゃないですか。
やっとお昼休みだと思ってたのに……
「驚きたくなるのも分かるが事実だ。まるで木の幹のように太く、蛇のようにうねる赤黒い触手が森の中にいる」
「……なんでそんな気持ち悪いもの放って帰ってきちゃったんですか!」
嫌ですよそんなのと戦うなんて!
キリハさんいつもみたいに《万断》で倒しちゃえばよかったじゃないですか!
できましたよね。キリハさん絶対できましたよね!?
「ゆ、ユッカちゃん落ち着いて……今日は仕方なかったの。この人もいたし、キリハが斬ったらすぐ逃げちゃって……」
「いつもなら《小用鳥》に探させるくせにぃ……!」
「勿論探させているとも。森の奥まで。可能な限り。だが今のところ、まだ見つけられていない」
またですか。またそうなるんですか。
ちゃんと探してくださいよ。あの鳥魔法も。
離れるから精度が落ちるのは仕方ないって言ってましたけど、すぐ飛ばしたなら追い付けてますよね?
キリハさんみたいに動けるなら逃げられるかもしれませんけど。
あり得ませんよ。そんなの。
速すぎです。そんな魔物いたら大騒ぎですよ。
「それでもしかしたら協会に情報が入っているかもしれないと思ったんだが……さすがにまだか」
「……レナさん、もしかしてまたやりました?」
「いいえ、全く。私達も関与していません。話が本当なら早急に対処する必要があるでしょうね。聞き取りを続けてください。記録も忘れずに」
「……あっ!?」
どうしましょう。
忘れてました。ちょっと前に教えてもらってたのにすっかり忘れてました。
冒険者から聞いた話は必要なら記録してください、って――
「心配ご無用。既に先程の話はまとめてあります」
……すごい。
こんなきれいな字で書かなきゃいけないんですか。
しかも分かりやすいです。子供でも読めそうですね。これ。
(でも……気持ち悪い絵なんて描かなくてもいいんじゃ?)
なんですか。こんなのが出たんですか。
嫌ですよ私。こんな太いうねうねと戦うなんて。
……今日中に見つけられたら、そのままキリハさんが……
「どうしたんですか。ユッカさん。さあ、続きを」
「こんな綺麗に書けないですよ。レナさんが書いた方が……」
「そういう企画でもありますから」
「そんなこと言ってる場合ですか!?」
駄目ですよね。絶対ダメですよね?
緊急事態ってやつですよね。いいんですかわたしに任せて。
でも今回はリィルもアイシャもマユもいっしょです。……あ、あとイルエたちも。
やっぱり嘘なんて思えません。
リィルがそんな嘘つけるわけないですし。どこかで分かりますよ。
「それで、なんでしたっけ? うねうねが森から出てきて、追い返して……」
「この人が荷物を奪われたというから、少し探していた。人の荷物を丸ごと奪う魔物なんて珍しいが……」
「ま、間違いねぇよ。確かにあれだ。あいつにド突かれて転ばされた。後ろからだ。おかげで木に頭をぶつけちまって、んで、その後……」
「起き上がってみたら、手元に荷物はなかったそうだ。慌てて振り返ってみると、荷物を引っ掻けた触手が戻っていくところが見えた、と」
「早いです。早いですよ。もうちょっとゆっくり言ってください」
レナさん、どうやってあんな簡単にまとめてたんですか?
えっと、おじさんが荷物をとられて、後ろから突き飛ばされて……あれ? 逆でしたっけ?
もういいです。うねうねがおじさんの荷物を奪ったって分かればいいですよね。
「えっと……他に見たものとかありませんか? どんなものでもいいんですけど」
「いいや、特に。皆は?」
……ないんですか。
キリハさんが気付かなかったらうねうねに攻撃されてたかもしれないって。
今さらですけど大丈夫ですかね? うちって、キリハさん頼りすぎてるような……
……キリハさんがどこかにいったら大変でしたね。きっと。
よかったですよ。[ラジア・ノスト]に入ったりしなくて。
(……わたしも、それは寂しいですし)
……なに考えてるんですか。わたしは。
そんな、当たり前のことなんて……
「ユッカ? 何か気になることが?」
「ち、違いますよ!? なんでもないです。なんでも」
「? だったらいいんだが……」
「慌てまくってる、です」
「ないですから! そんなことよりほんとになかったんですよね!?」
……リィルの気持ち、ちょっとだけ分かった気がします。
恥ずかしいんですけど。恥ずかしいどころじゃないんですけど。
「そ、そんなことよりキリハさん。どうなってるんですか? そんなたまたま見つけるなんて。呪われてるんじゃないですか?」
ありそうですよね。ほんとに。
キリハさんいく先々で事件に巻き込まれるじゃないですか。どうなってるんですか?
ルーラだってカウバだって、そんなに危ない町じゃないのに。
なんとかしちゃうのがとんでもないんですよね。
「そんな物騒な。呪われる覚えなんてない」
「でもこの前だっていきなり眠ったり――」
「それはいいから! あんたまだやることあるんじゃないの?」
……またですか。
リィルも変ですよね。いいじゃないですか。そんな慌てなくても。
「勿論やることはありますよ。危険性が高いようであれば近くの支部にも呼び掛ける必要がありますから」
「……危ないですか? これ」
「彼の戦闘能力を基準に考えるべきではありません。魔力の反応もなかったんですよね?」
「マユは感じなかった、です」
「俺もです。森の中からあの速度で襲い掛かるとなると、危険度は相当のものかと」
だったらどうやって……今さらですね。
キリハさんに鍛えてもらってますけど、できる気がしないです。
経験って言われたってどれだけかかるんですか。
キリハさん、わたしたちとそんなに変わらないのに。
「考え事はそのくらいにしましょう。まだやるべきことは残っていますよ?」
「う゛え……わ、わかってますよ。そのくらい。今度はなにをすればいいんですか」
「書類整理と、依頼書の作成と、納品の手続きと、それから――」
「多すぎませんか!?」
やってないです。
さっきだってそこまでやりませんでしたよ。
もう少ししたら冒険者さんが帰ってくる時間なのは分かりますけど……さすがに多くないですか?
それにさっき、言ってましたよね。
お昼休みまでもう少しっていってましたよね!?
(まさかその後なんて――)
「ですが……時間も時間です。ひとまず休憩にしましょう。幸い席の空きも今はまだ多いようですから」
「……はい?」
なに言ってるんですか。急に。
「ありがとうございます、です。ユッカさん、も」
「ま、マユ? わたしさっきからなにがなんだか……」
「察し悪すぎ、です」
「せっかく時間をつくってもらったんだ。今のうちに、みんなでお昼にしてしまおう」
「…………あぁっ!?」




