第131話 教わった通りに
「よ、ようこそ~」
なんでこんなことしなきゃいけないんですか。
わたし、ここまでしてもらったことないんですけど。
「少し表情が硬いですね。もう少し自然に。頬が引き攣ってしまっています」
「だったら見本みせてくださいよ。引き攣ってるとか言われても分かんないです」
「ではあちらの鏡の前でやってみますか?」
「あ、それはいいです」
なんであんな暑苦しそうなところに行かなきゃいけないんですか。
怖いですよ。雰囲気だけでも怖いですよ。
盗賊みたいな顔してる人ばっかりじゃないですか。キリハさんならもっとうまく笑ってますよ。
なんか、わざとらしさはありますけど。張り付けたって言うんでしたっけ?
あっちのおじさん達とは違う意味で怖いんですよね。じっくり見てると。
……キリハさん、ここにはまだ来てませんよね?
「それより見本みせてください。ルークさんも得意って褒めてましたよ?」
「得意と言えるほどのものではありませんが……コホン。では、一度だけ」
なんでそうなるんですか。
いつもやってるなら何回やってくれたって――
「ようこそ~」
……誰ですか?
レナさん急にどこ行ったんですか。音も立てずに誰かと入れ替わるなんてキリハさんでもなかなかできませんよ?
この綺麗な人、どこから来たんですかね? レナさんに似てますけど。
「どうかしましたか。ユッカさん。聞こえてますか?」
「……レナさんいつの間に戻って来たんですか?」
「いつも何も、さっきからずっとここにいますけど」
ずっと? あの綺麗な人が笑ってた時もいたんですか?
(と、いうことは……)
「……さっきのレナさんだったんですか!?」
「何故そこまで大袈裟に驚くのか分かりませんが、その通りです。……随分と変わった方ですね?」
「変わったのはレナさんの顔じゃないですか!」
びっくりしましたよ。ほんとに。
別人かと思いましたよ。よく似た家族かと思いましたよ。
なんであんなに変わるんですか。
今のきりっとした顔はどこからきたんですか。
「このくらいは普通です。さあ、言われた通りみせましたよ。ユッカさんももう一度どうぞ」
「……よ、ようこそ~」
「益々固くなってしまっていますね」
「あんなの見せられたら余計に緊張しますよ!」
あそこまでやらなきゃいけないんですか。できませんよ。あんなこと。
笑顔ってどうすればいいんでしたっけ?
「聞けば仲間の肩のところで練習もされた、と……その時はどうでしたか? 思い出してみてください。肩の力も抜ける筈です」
「そのときって……」
イルエがむちゃくちゃなこと言ったときですか。
キリハさんがいきなりなにも知らないふりをしたときですか。
ほんとにびっくりしましたよ。キリハさん、急に弱気になったんですら。誰かと思いましたよ。
リィルもアイシャも固まってましたし。なんだったんですか。あれ。もう一回見せてくれませんかね。
思い出しただけでももう……ふふふっ。
「その顔ですよ」
「……どの顔ですか?」
わたし、今そんなに変な顔してました?
キリハさんのこと思い出してただけなのに。
「今ユッカさん、とても自然な笑顔を浮かべていましたよ? さあもう一度」
「それができたら苦労しないですよ……」
「では、さっき考えていたことをもう一度思い出してください。仲間のことですか? 家族のことですか? それとも、好きなもののことですか?」
「べ、別にそういうのじゃないですけど!? それはいま関係ないじゃないですか!」
なんでもないです。ちょっとかわいかったかもって思っただけです。それだけです。
イルエたちがからかおうとして、逆にキリハさんに無茶振りされそうになったことを思い出しただけですから。
「そうですか? あまりに嬉しそうな表情でしたから、何か楽しいこと思い出したのだとばかり……」
「そ、それはそうですよ。楽しかったっていうか、面白かったっていうか……」
ほんと大騒ぎでしたよね。
よく許してくれましたよね。アイシャのお母さん。
キリハさんたちが来てくれたら普通に笑えそうなのに――
「じゃあ、本番行ってみましょうか」
「……はい?」
なんでわたし、受付に立たされてるんですか?
さっきまでここにいた人、どこにいったんですか?
いろいろ教えてくれるって言ってたのに、レナさんどこに逃げたんですか!?
(いきなり本番なんて言われたって、そんな――)
「色々と大変そうだな、ユッカ。何か掴めそうなことはあったか?」
「…………はい?」
なんでキリハさんがこんなところにいるんですか。
しかもひとりで。こんな変な時間に。
「っと、いつも通りに接してしまったら企画の意味がないか」
もう冒険者の人もほとんど来てないのに。
朝の一番多い時間は協会の人がなんとかしてくれたらしいです。そういう企画だってマユが言ってました。
「すみません。魔結晶の納品に来たのですが、お願いしてもいいでしょうか?」
いつもならわたしたちだってそのくらいには集まってるのに。
そのとき行かなかったんですか。こんな時間までなにしてたんですか。
「もしもし? ……ユッカ? 大丈夫か? 緊張しているなら無理にとは言わないが……教わった通りでいいんじゃないか?」
……もう知りませんからね。
「よ、ようこそ~……!」
「何もそこまで硬くならなくても」
忘れてもらいましょう。絶対に。お願いごとを使ってでも。
というか、この魔結晶。いつどこで取って来たんですか。
三個ってキリハさん、絶対手を抜きましたよね。本気を出せばもっと集められますよね?
「そうですよユッカさん。最初の相手が仲間なんて、これほど幸運なことはないじゃないですか。あなたもそう思いませんか?」
「同感です。様子を見られたら、くらいのつもりでしたが、まさかこうして担当してもらえるとは」
「狙いましたよね? 絶対狙ってましたよね!? キリハさんも知ってましたよね!?」
「何のことでしょう。さあ、それより納品の手続きの準備を進めますよ」
やっぱり。
狙ったに決まってます。じゃなきゃこんなことになるわけないです。
もしかしてキリハさんと手を組んでたわけじゃないですよね。ルークさんとこっそり相談してたりとかしてないですよね。
そのくらいキリハさんならできそうですし。ルークさんもなんとなく受けてくれそうですし。
わたしの場所くらい分かってましたよね?
「まずは種類です。この魔結晶が度の魔物のものか、勿論分かっていますよね?」
「あ、当たり前ですっ。……ぇっと……ご、ゴブリンですよね?」
「正解。次は形状の確認です。手に取って破損がないか確かめてください。大きなひび割れに限らず、部分的な欠落もありますからね。念入りに調べるんです」
「って言われても……」
同じ魔物でも魔結晶の形が違うことくらい知ってますよ?
どう調べろって言うんですか。そんな分かりやすいヒビなんて……
(……あれ?)
なんでこんなにチクチクするんですか。
魔結晶にそんなに尖った部分なんてないですよね? キリハさん……?
「あの、レナさん。ここのところ……」
「おや、一つだけ欠けてしまっていますね。これでは満額の支払いはできません」
「え、でも……」
「そういう決まりです。よく知った相手だからと判定を甘くしていいわけではないんですから」
「それはそうですけど! なんとかならないんですか?」
「なりませんね」
他の二つは大丈夫そうなのに、どうしてこれだけが? やりすぎちゃったんですか?
「問題のなかった二つも念のため、こちらの魔道具で調査をします。痛んでいる方が稀ですが。やはりこの二つに問題はありませんね」
「じゃあ、あとはお金を――」
「この紙に記録するのが先です。間違っても、三個とも備品なんて書かないように」
「ぅぐ……」
なんで気付いちゃうんですか。
「ああ、そういえば。心配なさっているようなので捕捉しておきますが、今回キリハさんの落ち度はありませんよ? 最初から問題のある品を持って来てもらっただけですから」
「それなら先にそう言ってくださいよ!!」
心配する必要なんてなかったじゃないですか!




