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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅴ 世界でただひとつだけの
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第121話 ざわめく森

(……まさか先に仕留められるとは)


 今のはさすがに驚かされた。


 何も不都合があるわけでもない。むしろ逆だ。

 今の魔物がまた無駄に頑丈な個体だったら余計な時間を使わされただろう。


 現状で唯一、問題があるとすれば――


「……なんか動いてません? さっきから」

「ユッカさんもそう思う、ですか? あの辺、とか」

「へ、変なこと言わないでよ。大丈夫よね? ね?」

「それが私もよく分からなくて……変な感じはしてるんだけど……」


 助けを求められても、残念ながらほしい答えを返すことはできない。

 もうあまり時間も残っていないと考えるべきだろう。


「姿勢を低くしたまま、少しずつ後ろに。……出るぞ、これは」

「また!?」

「そんな気はしてた、です」


 やはり一人で先行しなくて正解だった。

 こんなとんでもないデカブツの前に皆を残すわけにはいかない。


 強引な脱出はかえって危険。

 ほぼ間違いなく《駕籠》を抱えながらの戦闘になる。


 それも、いつ光線が飛んでくるかも分からないような状況の中で。


(これはさすがに止めようがない、か……)


 森はすっかりざわめき立っていた。

 茂みの奥から飛び出すように姿を現した小動物たちは一目散に麓を目指して山道を駆けて行く。


 ほどなくして、どこからともなく不穏な風が吹き込んできた。


 まるで子供の泣き声のような怪しい風。

 身体を撫でまわすように吹き付ける生温い風はとにもかくにも気色悪い。

 リィルが俺の服の裾を引っ張ったのもそのせいだろう。


 今のリィル達だけではさすがに厳しい。

 これでさっきのトカゲ頭より表面の皮膚が薄いなんてことはまずない。


 そもそも、安易に接近戦を仕掛けていい相手ではない。


 何せ相手は町の外壁も乗り越えかねない程の怪物なのだから。


「へっ……?」


 ソレは突如、地面を破るように姿を現した。

 土煙の代わりか、膨大な粒子が怪物を中心に一気に溢れる。


 巨大な怪物を覆い隠すほどの膨大な光もやがて溶けるように消えていく。


 そして。


「「「はぁああああ――――っ!!?!?」」」


 そして今度こそ、そいつは俺達にその姿を見せた。


 幸いまだ遠い。遠いがあの大きさだ。気休めくらいにしかならないだろう。


 獅子のような頭部には光点が四つ。

 長く伸びた白い毛はまるで新雪のよう。


 それ以外、全身はほんの僅かに茶色が混じったようなグレーに染め上げられる。

 前足らしき部位はなく、太くたくましく発達した二本足で前かがみな姿勢を支えていた。


 まるで舞を踊るようにステップを刻み、右へ左へ頭部を傾ける。

 それだけでも、山に至る所で悲鳴を上げさせた。


 どれだけ少なく見積もっても二〇メートルを確実に上回る。

 こんなものが町で暴れた果てなど考えたくもない。


「えっ、ちょっ……なんなんですか、あれ……!?」

「バカじゃないの? バっっカじゃないの!? 誰よあんな大きな怪物呼んだの! この山だって無事じゃ済まないわよ!?」


 その可能性はおそらく低い。


 しかし今この場で伝えたところで、リィルも納得はしないだろう。

 まだ確証のない説明をしている場合ではない。


「焦らなくていい。暴れ出したわけでもないんだ。それに――」


 言い切るより早く、町から一筋の光が伸びた。


 神々しさすら感じる一撃は寸分の狂いもなく巨大な魔物の白い目を貫く。右の内側にある方の目だ。


 よろめきながら二、三歩後退した魔物は膝を曲げてその場に蹲る。

 あれほどの巨体だ。身体を丸めた程度では全くその存在を隠せていない。


「今のって……」

「ああ、間違いない。あの距離から一撃で当てるとは……」


 さすがは特級と言うべきか。

 いや、特級なら誰でもできるというわけでないのだろう。


 なんて、感心している場合ではない、


 エルナレイさんが一撃叩き込んでくれたおかげで最低限必要な火力が把握できた。


 今はそちらの方がはるかに重要だ。

 万一の時に怯ませる手段がある。


 まさか攻撃を受けた際の動きまで忠実に魔物を再現しているとは思わなかったが。


「選択肢は二つ。ここから例の魔道具に向かって暴走を止めるか、町へ引き返すか」


 八面体破壊せずこの暴走を止めるためのカギは既に預かっている。

 あとは水晶に直接それを触れさせるだけ。


「今引き返せばすぐに街の中へ逃げ込める。だが、もし魔道具を目指すなら……何があるか分からないということだけは覚悟しておいてほしい」


 あんな化け物が呼ばれなければ、そのまま向かって一件落着で締めくくることも出来ただろうに。


 おそらく町の方もエルナレイさんの説得で落ち着きかけていた頃。

 そこにこれだ。タイミングを見計らっていたわけでもないのになんて絶妙な。


 下手に飛び出して正面から殴り合うべきではない。

 本来、こんな提案で時間を浪費するべきではないだろう。いつまた動き出すか分かったものじゃない。


「……分かってるよ。あの魔物がすごく危ないってこと。あんなの見たことないもん」


 しかしだ。四人もいる中、さすがにアレを前にして独断で進めようとは思わない。


「でも、私――ううん。みんなも行く。……いいよね?」


 彼女達の答えが分かっていたとしてもだ。


 これ以上は確かめるだけ野暮というものだろう。

 頷き合い、昨日アイシャ達が辿ったという道を更に進む。


 誰かが促すでもなく、自然と歩調は早まる。


 罠だの何だの、そんなものまで細々と気にしていられない。

 岩を転がし、暴風で無理矢理道をこじ開ける。魔物の断末魔さえ押し潰しながら。


「キリハさんはあの魔物、倒せそう、ですか?」

「どうだろうな。正直分からない。このまま何もせずに帰ってくれたらそれが理想ではあるが」

「同感、です。なさそう、ですけど」


 そんな展開が起こる筈はない。

 分かっていても、ついそんな風に思ってしまう。


 おそらくあれは魔物ではない。

 もしかすると近い部分はあるかもしれないが、この世界における魔物そのものではない。


(ちッ……)


 それより頭に浮かんだのは、かつて教団が呼び出した見上げる程の怪物。

 無関係だと分かっていてもあのサイズは他に心当たりがない。

 精々、ライザが集めた魔力で作り上げたスライムもどきくらいだろう。


 あれはあれで厄介だったが、今回の敵は攻撃手段もまだ不明。

 果たして鬼が出るか蛇が出るか。まだ手を出すべきではない。


「でも、あの魔道具を止めたら消えるかもしれないし……無理に倒そうとしなくても、ね?」

「消えてくれなきゃ困るわよ。この前の迷宮とはわけが違うんだから」

「その時はその時だ。エルナレイさんの指示を仰ぎながらもう一回眠ってもらえばいい」

「とか言って、そのまま倒しちゃうんじゃないですか? いつもみたいに」

「ユッカのいつもはえらく限定的だな」


 やってない。そこまではやってない。

 迷宮の鎧との決着もそういうものではなかった。


 むしろ穏便だった、とは言えないにせよ、昔ほど過激ではない。多分。


「でもキリハさん、ちょっとずつ《万断》もよくなってきたって言ってたじゃないですか。『やっと名前負けせずに済みそうだ』って」

「待ったユッカ。それは――」


「へぇそう? あんた達隠れてそんなことしてたのね?」


 間に合う筈がなかった。


「あっ……」


 折角、心配をかけないようにと思って短い時間で済ませていたのに。


 もうどうしようもない。

 今更助けを求められても打つ手はない。時間を戻せとでも?


 生憎、未来の技術が詰まった不思議な収納なんて持っていない。


「たまに二人で出かけてると思ったらそんなことしてたわけ。へぇ。よかったわね? 上手くいって」

「ち、違うんですよリィル。その、これにはルアトニムの谷ふかーい理由があってですね……」

「なら一〇文字以内で纏めてみなさいよ」

「できませんけど!?」


 こんなことになるなら大人しく相談しておくんだった。


 またいらないところで昔の癖が出たか。俺の馬鹿め。


「い、いいのかな……そんなに喋ってて……」

「よくない、です」

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