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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅴ 世界でただひとつだけの
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第107話 少女を探して

「でもどうするの? 探すって言っても、いつもみたいにいかないのに……」

「だろうな。そこはもうこれまでの経験を頼りに上手いことやるしかない」


 事を起こした連中がそこまで頭を回していたのかは分からない。

 だが少なくともこの現状は俺達にとって非常に厄介なものだった。


 探すべき相手の顔を俺達は知らないのだから。

 手掛かりはミーナという名前と年齢だけ。


 ただ見つけ出すだけで済むものでもない。


「アイシャも無理はしなくていい。ほぼ間違いなく誘拐犯とやりあうことになる。もしそうなったら――」

「私のことなら大丈夫。そんな悪い人、ほっとけないよ」

「……敵が『悪い人』だけとは限らないがな」

「へ?」


 無論、町や協会を疑っているわけではない。


 実際、今も人員を割いて探してくれていると聞く。


 例のお爺さんは安静にするよう言われていたのを抜け出して来たとのことだった。


 少なくともその点に関して嘘を口にしてはいなかった。

 誰かのなりすましというわけでもない。だからお爺さんを協会まで運ぶ時も手を貸した。


 なんて、密かに《小用鳥》を待機させている辺り、俺もまた信用し切れていないだろう。

 かつての『協力者』のような相手もいない。


「あくまで可能性の話だ。もしかしたら犯人は何人もいるかもしれない」

「あ、そっか……」


 裏路地の店から連れ去られたと言っていた。


 少なくとも俺達よりこの町の構造に詳しいのは事実。

 でなければ誰の目に留まることもなく連れ去るなど不可能に等しい。


(或いは……)


「――空か!」


 細く尖った氷のジャベリン。


 助走をつけず、そのまま槍投げ。


 この位置からはシルエット程度しか見えない標的はやはりというか、それを躱した。

 いくらなんでも距離があり過ぎる。


「な、なに!? どういうこと!?」

「魔物だ! 空に魔物がいるぞー!!」


 無論、まだ決定づけるだけの証拠はない。

 見当違いであれば恥をかく。そんなのは承知の上。あえて周囲の目を向けさせる。


 協会へ通じる大通りだ。人通りも少なくない。


 買い物客も、店員も、老若男女が空を見上げてざわめいている。


 これだけいれば見失うリスクもかなり減らせる筈。


「き、キリハ? さっきからどういう……?」

「あそこだ。何かが空を飛んでいるだろう。もしかしたら手掛かりになるかもしれない。追いかけよう」

「追い駆けるって……その、空から?」

「安心してくれ。今回は地上からだ」


 今のところは。


 アイシャもそんな露骨に安堵のため息をつかなくてもいいだろう。

 あの時は非常事態だったと言っても信じてもらえそうにない。


 とにかく今は見失わないよう、追いかけるのが先だ。






「っはぁ、はぁ、はぁ……あそこ、なんだよね……?」

「ああ。間違いなく。……大丈夫か? 他の出口もなさそうだし、少し休んだ方がいい」

「へ、平気。なんとか動けそう。ミーナちゃんだって怖い思いしてるかもしれないのに、ゆっくりなんてしてられないよ」


 視線の先には大人が通れそうな穴。

 以前挑戦したあの迷宮のように、地面の一部が盛り上がってできた穴。


 森の中だというのに、穴の入り口の周りだけは草木もほとんど生えていなかった。

 固い黄土色が剥き出しになっている。まるで意図的に刈り取られたよう。


 空に現れた魔物を追っている内にこんなところまで来てしまった。


 おかげでこうして、木の影からその様子を覗くことができているのだが。


「そのあり方は尊敬するが、無茶は禁物だ」

「ひゃぅっ!?」


 アイシャは肩を震わせ小さく跳ねた。

 ローブ越しでも冷たさが伝わったらしい。


 道中、程々に冷やしておいた水筒。

 それを背中に当てただけ、というは少し驚かせ過ぎてしまったかもしれない。


「ずっと走って疲れただろう。せめて水分だけでもとった方がいい」

「それはそうだけど~!」

「まあまあ。そう頬を膨らませずに。丁度いい具合に冷えているから」


 昔教えてもらった小技も最近になってやっと温度が安定してきた。

 この程度のこともできなかったから魔法を以前の様に扱えないのだろう。


「あ、あれ? なんでこんなに冷たくなって……」

「氷の魔法で色々と。こっちでも使うんじゃないか? 食材を送る時とか」

「……だったっけ?」

「そこで聞き返されても」


 然しおそらくどこかでは使われている筈。


 たとえば魚介類。

 魔物が跋扈するこの世界にどの程度生息しているのか見当もつかないが、居れば必要になってくる。


 少なくとも肉類を遠方から運ぼうと思ったら避けられない。

 塩漬け以外の料理も何度も見て来た。


「さ、お喋りはここまでだ。……本当にいいんだな?」

「うんっ。行こ、キリハ」


 今のところ尾行はない。


 それだけは念入りに何度も確かめた。

 町の中に一人や二人、伏兵を残していてもおかしくはない。


 そういう意味ならあのお爺さんを残したのは失敗だったかもしれないが……そのための《小用鳥》だ。

 様々な場面で役に立っている魔法の元が教団というのは少々癪だが。


 慎重に、しかし時間を掛けず入り口の脇の壁にアイシャとそれぞれ背中を預ける。


 そこからそっと中を覗き込むが当然、あるのは暗闇。


「み、見えないね? もしもーし?」

「相手が相手だ。声なんてかけなくてもいい。《催眠香》、《旋風》」

「それって……いいの? そんなこと」

「余計な被害を出さないためだから仕方がない。それにこの魔法も言うほど強制力はないんだよ」

「へ?」


 百聞は一見に如かずというやつだろう。丁度足音が近付いていた。


「――やり方次第でいくらでも意識は保てる」


 何も考えずに飛び出した魔物。

 その無防備な背中を迷宮の剣で切り裂いた。


 勢い余って剥き出しの地面に飛び込む魔物。

 次の瞬間には黒い粒子となって身体が消える。


「う、うそ……!? なんで……!」

「慌てるには早い。すぐ次が来る。アイシャも魔法の準備を」

「え、あっ……う、うん!」


 おそらく道幅はさほど広くない。

 入り口から正面に《火炎》を何発か撃ち込むだけで身近な悲鳴が何度も響いた。


 洞窟内で反響し、何体もの悲鳴が重なり合う。

 思わず耳を覆いたくなるような合奏の中であろうと、まだ魔物の足は止まらない。


「――《水流》!」


 しかしそれも勢いよく噴き出した水流にかき消される。


 目で見る事ができなくても、内部の様子はなんとなく掴めていた。


 最初の一体が渦巻く水を直に受け、押されている間に二匹、三匹と巻き込み最後は仲良く爆散。

 残りもたちまち炎に包まれ消えて去った。


(……よし)


 内部を探るが、後続の足音は聞こえない。

 明かりを灯し、いよいよ内部へと踏み込んだ。


 やはり道幅はそこまで広くない。

 アイシャと二人、前後に並ばないと肩をぶつけてしまいそうになる程だ。

 代わりというわけではないが、高さには少々余裕がある。


 道中、倒れている魔物がいれば遠慮なく止めも刺させてもらう。

 魔結晶の回収など帰り道でも十分だろう。

 何かあっても先行した《小用鳥》が知らせてくれる筈だ。


(……リィルには話せないな。口が裂けても)


 これでもかと忠告を無視してしまっている。

 今日使った魔法の数を知ったら禁止令を発してきてもおかしくなかった。


「……いいのかな……こんな倒し方しちゃって……」

「非常事態だ。やり方なんて気にしてる場合じゃない。あとはミーナという少女を見つけるだけだが……」

「まだ、見つかってない?」


 頷いて、飛び回っている小鳥達を急がせる。


 今とのところ分岐があったという報告はない。

 それどころか何かを見つけたという反応すら返ってこない。


 実際、奥から嫌な気配もまるで感じられなかった。


「普通は他にも何かいる筈……一体全体、どうなって……」

「だ、だめ? ミーナちゃんもその方が安全じゃない?」

「ああ。それはある。だが不自然だと思わないか? 攫うだけ攫って、こんな場所に放置しているなんて」


 あのお爺さんを気絶までさせてやることだろうか?


 他に何か、本命とでも言うべき目的があるにせよ、どうしても違和感が拭えない。

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