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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅴ 世界でただひとつだけの
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第105話 知らない町を

「……」


 不意に何かを感じた。


 その正体を正確に言葉にすることはできない。

 危機感と言うほどのものでもなく、しかしあっさり流していいものとは思えない。


 まして、近しい誰かが自身に激怒しているのを察知したような寒気でもない。


「キリハ? どうかした?」

「何か妙な感じがしたからつい。ちなみに、ユッカ達は今どこに?」

「い、依頼だと思うよ? 私も詳しいことは聞いてないけど……」


 なるほど。依頼を。


 アイシャの反応を見ればある程度察しはついた。

 依頼に向かった原因には心当たりがあるものの、実際に受けた依頼の詳細までは把握していない。


 その上で、ひとまず依頼に向かった原因すら知らないように振舞う。

 それが今のアイシャの役目。


(……付け回すようで気は退けるが)


 それでもと思い、最低限の捜索と非常事態の場合のみ知らせるよう命じておく。


「あ、《小用鳥》……」

「念のためだ。余計な手出しはしない。アイシャ達にも何か考えがあるんだろう?」

「ぅえっ!?」


 そこまで驚かなくても。


 アイシャのさっきの言葉が嘘だったとは今でも思っていない。

 敵ならともかく、仲間の言葉をそこまで疑ったりはしない。


 しかしやはり、この反応。

 他にも目的があるのは間違いなかった。


「な、なんのこと? 考えって?」

「さすがにそこまで誤魔化さなくても。今まで名前さえ挙がらなかったような街にいきなり行こうという話が出てきたんだ。何かしらの理由がある事くらいすぐに想像がつく」

「ぁぅ……」


 やはりまだ今は言わない方がいいだろう。

 むしろ墓場まで持って行くつもりではあるが。


 いっそどこかに頭をぶつけて都合よくその辺りの記憶だけ消してしまおうか。

 組織御用達の記憶操作も結局、俺には縁のないまま終わってしまった。


 かといって今更下手に弄れる筈もなく。


「別にその内容まで詮索したりはしない。だが、せっかくここまで来たんだ。苦い思い出は残さずに帰りたい」


 どれだけ注意していても、不測の事態というのはどこかで起こる。

 分かっている範囲でも不安要素があるというのに。


 無論それらもすぐに仕掛けることはないだろう。

 多少印象に残る出来事があるくらいが丁度いい。


「……怒ってない?」

「まったく。むしろ連れ出してくれたことに感謝しているくらいだ。ありがとう」


 ストラはいい町だが、同じ環境で頭を悩ませてもどうにもならない。


 たとえ一番最初のきっかけがアイシャ達ではなくても、行動に移してくれたのも事実。


「えっと、それは……」

「なんてな。頭が痛くなるような話はひとまずこのくらいでやめておこう」

「へ?」

「いいじゃないか。肩の力を抜くくらいでどうせならストラにない料理くらいは見つけたい」

「ま、まだ食べるの?」

「皆が戻ったとき用に用意しておこうと思って」


 さすがに俺もそこまで大食いではない。

 ついさっき朝食を済ませたばかりだ。


 栄養摂取できればいい、なんて冷たいことを言うつもりもないが。


「どのあたりにあるんだろうね……? この町、今まで来たことなかったし……」

「初めて同士というのも悪くない。迷ったら迷った時だ。飛べば協会の場所くらいは突き止められる」

「!?」


 勿論あくまでも最終手段。


 どこか近場の店にでも入って聞けば、協会の場所も分かるだろう。

 ついでに買い物もしておけばいい。


「だ、だめだよ! ちゃんと地図があるから! ね?」

「まあ、そういうことなら」


 まさかいきなり飛ぶとでも思ったんだろうか。

 協会支部や警備隊にはっきり面識のある相手がいるストラでやるならまだともかく。


 地図もさすがに細かい店の配置までは書いてないだろう。

 久しぶりに地図アプリを恋しく感じた。


「キリハ、やっぱりまだ疲れてるんじゃないの……? 変なことよく言うし……」

「まさか。健康体そのものだ。疲労と言えばむしろ、目の前のあの人だろう」

「目の前? 誰のこと?」

「ほら、あそこ。三軒先の辺りを歩いている。……言っている場合じゃないか」


 アイシャにしっかり掴まってもらって一気に詰める。


 騒ぎにならない程度の風の魔法。

 ユッカの《駆ける風》に近いと言えるかもしれない。


「その身体で動き回るのは少々危険ではありませんか。お爺さん」

「……うるせぇ」

「ええうるさいですよ。昔は騒々しい悪ガキ呼ばわりされていましたから」


 主に師匠から。


 俺が意図的に起こしていたわけではないのだが、トラブルも少なくなかった。

 おかげで何度ヘッドロックをかけられたことか。


 まあ実際、俺の方から首を突っ込んでしまった事例もあるにはあったわけだが。


「何をそんなに焦っておられるんですか。せめて行き先だけでも教えて下さればお手伝いできるのに」

「……ほんとにうるせぇボウズだな」

「嘘はつかない主義なので」

「ケッ。その言葉からして嘘だろうがよ」


 残念。バレたか。


 まあいい。これで少しは向こうの興味も俺に向けられただろう。


 しかしあの眼光。大したものだ。

 とても魔力切れ同然の状態の人のものとは思えない。


「だ、大丈夫なの? キリハ……」

「大丈夫じゃないのはこの人の方だ。すまない。アイシャも少し手伝ってくれないか。少し日陰まで運びたい」


 アイシャと両脇から挟んで老人の身体を支える。

 基本的には俺の方へお爺さんの体重がかかるように。


 そのまま小さな路地で腰を降ろしてもらう。

 水をゼリー程度に固めた椅子の上に。


「……こんな老いぼれ連れ去ったって一リートの価値のもなんねぇぞ」

「生憎、路銀に困るような生活はしていませんから。それより今は少しあなたのお話が聞きたくて」

「それこそ何の意味もないだろうがよ」

「見て見ぬ振りはしたくないんですよ。ここはひとつ、妙なお節介に見つかったとでも思って諦めてもらえませんか」


 ただ事でないことくらい分かっている。

 肝心なのは具体的に今この町で何が起きているのか。


 それと気になることがもう一つ。

 こんな老人が一人、ふらつきながら歩いていたのに誰も声をかけなかった

 もう少しくらい町の住人の助けがあってもいい筈だ。


「退け。テメエに話す事なんざねぇ」

「ではどうぞ、力づくで。出来ればの話ですが」

「何だと?」

「魔力を無理矢理抜かれたんでしょう。今は身体を動かさない方がいい」

「え……!?」


 老いれば体力の低下は避けられない。


 この人の場合、保有魔力自体は決して多いものではないだろう。

 それでも影響は小さくない。


「待って。ちょっと待って? 魔力を抜くってどういうこと? そんなこと――」

「アイシャも一度は経験している筈だ。あれとほぼ同じものだと思っていい」

「ライザさんの……」


 一年もたたない内にまた出くわすなんて。

 またギルなんとかが一枚かんでいるのだろうか。


 くだらない真似などせず、とっとと目の前に姿を見せてくれないものか。

 それならいくらでもやりようはあるのだが。


「……見て来たみたいに言うじゃねぇか。ボウズ」

「生憎犯人ではありませんよ。こんな人畜無害そうな顔なんてしていなかったでしょう?」

「見てねぇのに分かるかよ。後ろからいきなり襲われたってのに」

「キリハの顔、かっこいいのに……」


 そこじゃない。今重要なのはそこじゃない。


 せめて犯人の人数だけでも分かれば。

 やはり見つける手掛かりはないものと思うしかない。


「襲われた時の状況、もう少し詳しく教えてもらえませんか。具体的な場所とか、時間とか」

「そんなの知ってどうする」

「この街には仲間と来ているんです。その誰かが仲間に手を出さない保証なんてない」


 俺のようにどこからともなく魔力が湧いてくれるわけじゃない。


 それ自体の危険性はさておき、そんなことをされたら身体への負荷も馬鹿にならない。

 抵抗すらできなくなる。


「……へぇ。結局そういうことかよ」

「本心を伝えたまでです。それに、その方があなたも気楽ではありませんか? 見知らぬ男に突然見返りもなしに協力すると言われるよりも」

「ケッ、取ってつけたように言いやがる」

「嘘は言っていませんよ。……もういいでしょう。こんなやりとり。単に魔力を抜かれただけではない筈です」


 タイムリミットは考えない方がいい。

 この手の馬鹿は何をしでかすか分からない。

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