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季節がめぐる中で 89

「隊長は今頃何を食べてるんですかね?」 

 ハンバーガーチェーン店で大きめなハンバーガーを食べている誠。アイシャと誠が出かけたのはもうすでに昼飯時という時間だった。とりあえず豊川の中心部から少し離れた山沿いのこの店の駐車場に車を止めて二人でハンバーガーを食べている。

「しかし、私達だとどうしてこう言う食事しかひらめかないのかしら」 

 そう言ってポテトをつまむアイシャ。

 日ごろから給料をほとんど趣味のために使っている二人が、おいしいおしゃれな店を知っているわけも無い。それ以前に食事に金をかけると言う習慣そのものが二人には無かった。

「で、山にでも登るつもり?私は麓で待ってるから」 

「あの、それじゃあ何のためのデートか分からないじゃないですか」 

 アイシャの言葉に呆れて言葉を返す誠だが、その中の『デート』と言う言葉にアイシャはにやりと笑った。

「デートなんだ、これ」 

 そう言ってアイシャは目の前のハンバーガーを手に持った。

「じゃあこれは誠ちゃんの奢りにしてもらえる?」 

「あの、いや……」 

 焦る誠。彼も給料日まで一週間。その間にいくつかプラモデルとフィギュアの発売日があり、何点か予約も済ませてあるので予想外の出費は避けたいところだった。

「冗談よ。今日は私が奢ってあげる」 

 アイシャは涼しげな笑みを浮かべると手にしたハンバーガーを口にした。

「良いんですか?確か今月出るアニメの……」 

「誠ちゃん。そこはね、嘘でも『僕が払いますから!』とか言って見せるのが男の甲斐性でしょ?」 

 そう言われて誠はへこんだ。

「でもそこがかわいいんだけど」 

 小声でアイシャが言った言葉を聞き取れなかった誠。

「それにしてもこれからどうするの?山歩きとかは興味ないわよ私」 

 つい出てしまった本音をごまかすようにまくし立てるアイシャ。

「やっぱり映画とか……」 

 誠はそう言うが、二人の趣味に合うような映画はこの秋には公開されないことくらいは分かっていた。

「そうだ、ゲーセン行きましょうよ、ゲーセン」 

 どうせ良い案が誠から引き出せないことを知っているアイシャは、そう言うとハンバーガーの最後の一口を口の中に放り込んだ。

「ゲーセンですか……そう言えば最近UFOキャッチャーしかしていないような気が……」 

「じゃあ決まりね」 

 そう言うとアイシャはジュースの最後の一口を飲み干した。誠もトレーの上の紙を丸めてアイシャの食べ終わった紙の食器をまとめていく。

「気が利くじゃない誠ちゃん」 

 そう言うとアイシャと誠は立ち上がった。トレーを駆け寄ってきた店員に渡すと二人はそのまま店を出ることにした。

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