季節がめぐる中で 80
「なんだ?叔父貴が天誅組にでも待ち受けられてドタマぶち抜かれてくたばったか?」
そう言いながら明らかにいらだっている要にレベッカはおずおずと何かを言おうとしてる。
「おい、アタシも暇じゃねえんだ!死んだらニュースになるだろ?生きてるんなら後のしろ!」
そう言って要は階段を上がっていく。誠はこの状態の要に触れる危険性を知っているのでそのままレベッカと二人でハンガーに残された。
「それでシンプソン中尉、何があったんですか?」
そうたずねる誠に戸惑うような顔を見せるレベッカ。
「隊長が狙撃されそうになって……」
「その狙撃手をなます切りにしたんですか?」
誠の言葉に頷くレベッカ。やはりと思い天を仰ぐと、どこか表情のさえないレベッカに声をかけた。
「隊長が襲われるのは別に珍しいことじゃないですから気にしない方がいいですよ。もともと胡州はそう言うことの多い国ですから」
「それが単純にそうとも言えないんだ」
突然響いたバリトンに誠が振り向く。そこには白衣を着たヨハンがいつものようにビーフジャーキーを食べながら座り込んでいた。良く見れば彼が座っているのはそれは島田のバイクの予備タイヤである。いつもならこぶしを握り締めた島田が駆け寄ってくる状況であり、彼の出張任務中だからこそ見れる光景だった。
「なにかあったんですか?」
そうたずねる誠にあきれたような表情を浮かべるヨハン。レベッカは何かに気づいたと言うようにおずおずと下げていた視線をヨハンに向けた。
「もしかして法術を使用したとか……」
その言葉に満足げにヨハンは頷いた。
「法術の空間干渉能力は知られている所だが、精神感応能力により空間干渉を行うというのが今の法術の存在の基礎理論ということに一応はなっているんだけどな。それをいくつか応用するととんでもないことができるということは理屈では前々からわかっていてね。特に隊長はアメリカ陸軍の実験施設に収容していた際にその展開バリエーションを確認するための実験に参加させられた経験がある。今回はその一つを衆人環視の下使用したんだ」
そこまで言うとヨハンは袋からジャーキーを取り出して口に放り込む。
「どういう力なんですか?」
誠の言葉にあきれたようにジャーキーを食べ続けるヨハン。だが、いつの間にか階段から降りてきていたカウラが無い胸の前で腕組みをしながら誠の前に立った。
「幻術だ」
それだけ言うとカウラは携帯端末を開いた。レベッカと誠はその画面に眼を向けた。そこには次元跳躍型港湾の監視カメラの映像らしいものが映っていた。嵯峨の行き先から考えればそこは胡州の首都帝都の宇宙への玄関口である四条畷港だろう。一人の着流し姿の男が懐手のまま悠然と自動ドアを通ってカメラの前に現れる。
その男、嵯峨惟基は帯に手を移して何かを探ろうとしていた。そして次の瞬間だった。
男の姿が消えると同時に彼の立っていた地面に煙が上がった。
「消えましたね」
誠はそう言ってカウラを見つめる。カウラはしばらくこの状況を眺めていたが、すぐにヨハンの方に向き直った。




