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季節がめぐる中で 79

 出勤途中のカウラの車の中でもアイシャはぼんやりとしていた。らしくない。それは誠もカウラも感じていて、できるだけ刺激をしないようにじっとしていた。それでも一人、明らかにいらだって騒ぎ始めそうな要を二人してなだめすかせる。どうにか乗り切って疲れた誠が駐車場で始めて目にしたのは彼等を待っていたパーラだった。

「アイシャ、お姉さんが話があるって」 

 助手席から降りたばかりのアイシャは少し不思議そうな顔をしてパーラを見つめた。『お姉さん』と言えば保安隊では運用艦『高雄』艦長鈴木リアナ中佐のことを指す。ちなみに『姐御』と言うと技術部部長の許明華大佐か警備部部長のマリア・シュバーキナ少佐を指すのでどちらを指すのかは話の流れを読む必要があった。

「まあなんだ、お姉さんと相談して来いよ」 

 要の言葉にアイシャは何も言わずにそのタレ目を見つめた。そして背中を押されるようにしてアイシャは運用艦のブリッジクルーの詰め所に近い正門の方へと歩いていった。

「大丈夫かねあいつ」 

 ハンガーの方に向かって歩き出した要だが、思わず隣を歩くカウラに声をかけていた。

「突然のチャンスに戸惑っているんだろ?悩むだけ悩めば解決方法も見つかるものだ」 

 そう言ったカウラの前に回りこんだ要は、その特徴的なタレ目のまなじりをさらに下げてカウラを見つめる。

「なんだ、気持ち悪いぞ」

 自分を見る要のタレ目に一歩下がってカウラが声をかけた。 

「オメエもいっぱしの指揮官風のことも言える様になったじゃねえか」 

 カウラの顔が次第に紅潮したかと思うと、そのまま要を避けて早足でハンガーへの消えていく。

「褒めたのになあ」 

「アイシャさんと一緒で慣れない事態に戸惑っているんじゃ……」 

 そこまで言いかけた誠の襟首をつかむとぎりぎりと締め付ける要。

「誰が慣れないって?そう言う口はこれか?」 

 今度は誠の唇を右手でつかみあげる。サイボーグのアイシャの義体の人工筋肉の力でつかまれて、誠は無様にばたばたと手足を動かすことしかできなかった。激しく何かを叩いた音と共に誠を吊り上げていた力が抜けて誠はそのまま地面に座り込んだ。目の前では後頭部を抑えた要ともう一撃振り下ろされる竹刀が見えた。

「こんの餓鬼!」 

 要が振り返ってその一撃を払いのけるとその先にはランが竹刀を持って立っていた。

「おー、いい度胸だな。それに朝から元気で結構なこった」 

 そう言うとランは要を無視して正面入り口に入る。そしてついてくる二人を導くように事務所のある二階へ向かう階段を上り始めた。さすがの要も軍に奉職して長いだけあって上官のランを睨みつけはしても追いかけることはしなかった。

「西園寺さん、大変ですよ!」 

 二人のやり取りに決着がついたのを見透かしてか、いつものように照れながらレベッカが現れた。

「なんだ?」 

「確か西園寺さんは嵯峨隊長の姪御さんでたよね?」 

 そう言うとレベッカは視線を落とす。誠はレベッカに要と言う人物を相手にするときのコツを教えなければと思っていた。要は短気である。それも超がつくほどの。回りくどい思いやりなどは邪魔と言うより要をいらだたせるだけの効果しか発揮しない。

 明らかにいらいらとしている要は、明華が現れるかも知れないと言うことを考えずにタバコを取り出して火をつけると苛立ちの限界と言う表情でレベッカを睨みつけた。

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