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季節がめぐる中で 68

「どないした!」 

 明石のどら声にさらにうろたえるパーラ。ここまでついていない体質があると同情したくなる。誠もあわてて声が出ないパーラを見ながら思った。

「あの!アイシャが……」 

「いきなり記者達を仕切って会見でも始めたか?」 

 明石の笑い声におずおずと頷くパーラ。それを見ると明石の顔から笑いが消えた。

「あのアホ、なにする気じゃ。まあこういう時は……。鈴木の姉さんまだおるかの?」 

 パーラが頷くと、軽く暮れてきた濃紺の空を見上げた明石はそのまま正門の方に向かった。

「とりあえず鈴木さんと話してくるわ。誠、お前はシャワー浴びて来い。それとカウラ。クラウゼのアホを何とかしろ」 

 背中を向けたままそう叫ぶ明石に敬礼をするとカウラとパーラはゲートへと向かった。

「こりゃあ面白れえな!」 

 不謹慎な笑みを浮かべながら要はカウラ達を追った。一部のスポーツ誌では、法術適正者のスポーツの参加制限を設けるべきだと言う意見も出ていた。確かに誠自身、干渉空間の展開が許されるなら優位に試合を進めることができるのはわかっていた。だがそれが卑怯なことだという認識を持っていた。

 さらにシャムの場合、あの体格で練習試合やバッティング練習で柵越えを連発することがあるのは法術を無意識に発動させ身体強化を行っているらしいということをヨハンから聞いていた。

「シャムさん」 

 シャワー室に行くわけでも、要を追いかけるわけでもなく呆然と立ち尽くしている誠を不思議そうに見つめるシャム。

「アイシャちゃんプロになるのかなあ」 

 ポツリとつぶやいたシャム。確かにお祭り好きなアイシャである。さらにそこいらのモデルも逃げ出すような流麗に流れる紺色の髪と切れ長の目。そして長身で長く伸びる手足。その本質を知り尽くされているので保安隊の男性陣はできるだけ距離を置くようにしているが、確かにプロ選手となればその美貌だけでも一躍人気選手となるのは間違いなかった。

「神前!早くシャワー浴びろ!火を落とすぞ」 

 ハンガーの入り口で叫んでいる巨体はヨハンだった。誠はそのまま全速力でシャムを置いて駆け出す。

「おい、あの真性オタクがプロに指名されるんだって?」 

 警備室の映像でも見たのだろう。ヨハンの後ろには整備部の面々が仕事もそこそこに誠に詰め寄ってくる。ヨハンも彼らを抑えかねたように誠を取り囲もうとする部下達に苦笑いを浮かべた。

「あれだろ、客寄せだよ。法術関連の情報開示が進んでスポーツ界は大騒ぎだからな。何人か法術を上乗せして成績上げてた選手が謹慎くらっただろ?そんな悪評を一応美女アスリート登場って持ち上げて客を呼ぼうって魂胆が見え見えだぜ」 

 ヨハンはそれだけ言うとハンガーを奥へと歩き始めた。

「客寄せですか……」 

 確かに冷静になって考えてみればそれが現実かもしれないと誠も思った。そのまま誠は事務所に続く階段を上った。管理部の明かりは煌々とともっており、中ではいつものようにシンが菰田を説教していた。そのまま廊下を歩き続ける。主を失った隊長室には明かりがない。そしてそのまま男女の更衣室の前を通り過ぎてシャワー室にたどり着いた。

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