季節がめぐる中で 56
まず、誠が最初に感じた感覚は頭の頂点に激しい痛みがあるということ。そのまま目を開けずにその場所をさする。確かに大きなこぶができていた。
そして次に自分の布団の隣でなにやら争うような物音がしていると言うことを感じた。すぐに意識を取り戻した誠はその音の主を見つめた。
「あの、カウラさん?それと……」
「ああ、目が覚めたのか」
要はそう言うと腕をカウラの首に巻きつけて締め上げ始めた。
「何やってるんですか!」
思わずそう言うと飛び起きた誠は要の腕を引き剥がそうとした。だが、その独特の人工皮膚の筋の入った強力な人口筋肉は誠がどうにかできるものではなかった。しばらくカウラを締め上げた後、満足したとでも言うように要は手を放した。
「この女が昨日ずっとお前の部屋にいやがったからな。制裁を加えていたんだ」
黙って咳き込むカウラを見ながら悪びれもせずに答える要。確かにこの保安隊下士官寮に誠の護衛と言うことで同居を始めたカウラ、要、アイシャの三人はできるだけ他の部屋に入らないようにと寮長の島田が説明しているところに誠も同席していた。
「別に制裁なんて……どうせ昨日も泥酔した僕が暴れて看病でもしてくれていたんじゃないんですか?」
そう言う誠の顔を見て、タレ目を光らせながらばつの悪そうな顔をして頭をかき始める要。
「……お前、力の加減くらいはしろ」
ようやく息を整えたカウラが要をにらむ。
「あー、頭痛い。誠ちゃん起きた?」
そう言ってさも当然のように入ってくるのはアイシャだった。シャワーを浴びたばかりのようで胸にタオルを巻いただけのあられもない姿でドアを開けて立っている。要は誠を指差す。
「元気そうじゃないの。ごめんね、昨日はどこぞの馬鹿が飲んだらどうなるかわからないちびっ子に酒を飲ませたからこんなことになっちゃって……」
そんなアイシャの言葉で昨晩意識を失う直前に見た薄ら笑いを浮かべる幼女、ランの表情が思い出されて頭を押さえる誠。
「そう言えば今は何時ですか?」
そう言う誠に要が腕時計を見せる。まだ7時にはなっていない。とりあえず余裕がある時間だった。
「あの、お願いがあるんですが」
誠は三人を見回す。察したアイシャはそのまま出て行った。
「着替えたいんで」
その言葉でようやく要とカウラは立ち上がった。
「先に飯食ってるからな」
ドアを閉めて去っていく要。誠はゆっくりと起き上がるとアニメのポスターの張られた壁の下にある箪笥から下着を取り出す。
そしてすぐドアを見つめた。隙間から紺色の髪が見え隠れしている。
「あの、アイシャさん。なにやってんですか?」
そんな誠の言葉で静かにドアが閉じられた。




