季節がめぐる中で 19
「なっなっなっ……」
言葉を継げずに焦る要。それを楽しそうに見つめるアイシャ。誠は冷や汗が出てくるのを感じた。後先考えない要の暴走癖は、嫌と言うほどわかっている。たとえ高速道路上であろうと、暴れる時は暴れる人である。
「アイシャさん?」
「なあに?誠ちゃん」
にんまりと笑っているアイシャ。こちらも要の暴走覚悟での発言である。絶対に引くことは考えていない目がそこにある。運転中のカウラは下手に動いてやぶ蛇になるのを恐れているようで、黙って前を向いて運転に集中しているふりをしている。その時、アイシャの携帯が鳴った。そのまま携帯を手に取るアイシャ。誠は非生産的な疲労を感じながらシートに身を沈める。
「93のG?馬鹿言うな、96のHだよ」
小声で要がつぶやいた。
「あのー、西園寺さん?」
「何言ってんだ!アタシは別にお前の好みがどうだとか……」
そこまで言って要はバックミラーで要を観察しているカウラの視線に気がついて黙り込んだ。
「やっぱりそうなんだ。それでタコ入道はどこに行くわけ?」
アイシャは大声で電話を続けている。
「それにしてもあいつの知り合いはどこにでもいるんだなあ」
携帯の相手が推測できたようで、要はそう言うとわざと胸を強調するように伸びをする。思わず目を逸らす誠。
「同盟司法局の人事部辺りか?」
「だろうな。でもやべえな」
カウラの言葉に答える要。彼女はそのまま指を口に持ってきて、右手の親指の爪を噛みながら熟考している。
「実働部隊の隊長があのちっこいのになる訳だろ?やべえよ、それは」
もうアイシャにからかわれていたことを忘れて要はアイシャの電話の会話に集中した。




