季節がめぐる中で 20
「クバルカ・ラン中佐でしたっけ。あの人が何か?」
そう何気なく言った誠だが、タレ目の癖に眼光の鋭い要の視線を浴びて怯んだ。
「クバルカ中佐は厳しい教官だからな。教導はもちろん、書類一つとっても相当チェックを入れてくる人だ。今の明石中佐のようには行かないぞ」
カウラの言葉に爪を噛みながら聞き入っている要。考えてみれば誠も部隊配属は初めてだが、同期の他の部隊で幹部候補になった友人からは書類仕事のとんでもない件数にサービス残業を重ねている日々について聞いていた。誠は少尉候補生として着任したものの、今は曹長として勤務している。保安隊の現状として、実働部隊の下士官ならほとんど定時終わりで野球の練習に入れるのも当然と思っていたが、実は明石が練習の時間を作る為に苦労しているらしいことはなんとなくわかっていた。
「じゃあ、また何かあったらよろしくね」
そう言って電話を切るアイシャ。
「やっぱり、本決まりか?」
悲壮感を漂わせながら尋ねる要。
「ああ、実働部隊長の件ね。クバルカ中佐で決まりみたいよ。来週、視察に来るとか……それと管理部の方にも入れ替えがあるらしいわね」
淡々と答えるアイシャだが、その言葉に次第にうつむき加減になる要を見てその悪戯心に火が付いた。
「ああ、この電話の相手ね。まあ出所は言えないけど……独自のルートで情報は入ってくるのよ、いろいろと。まあ私は運用艦の副長さんだからぜんぜん関係ないけど……大変ねえ」
いかにも愉快だと言うような笑顔を浮かべて要を眺めるアイシャ。要はそのまま何も言わずに爪を噛み続ける。その様子から見て、ランが相当な鬼教官であることが想像されて誠も少しばかり緊張してきた。
だが、そこで思い浮かぶのがあの幼い面立ちである。目つきの悪さはあるにしてもどう見ても小学生である。シャムもやはり幼く見えるが、贔屓目に見れば中学生に見えなくも無い。だがランの姿はどう見てもやはり小学生、しかも低学年である。
「お前さあ、人事だと思ってるだろ?」
ようやく要が口を開いた。全く光の無いその瞳に、誠は寒気のようなものを感じる。
「あいつ、餓鬼扱いされるとオメエが酷い目にあうことになるからな。注意しとけよ」
要はそう言うと大きくため息をついた。
「そうよねえ、さんざん要ちゃんはぶっ叩かれたもんねえ」
「あの人は期待している人間には厳しく当たるからな。一番鍛えてもらったのはお前じゃないか?……そうだ。何かお礼にプレゼントでも上げたらどうだ?」
アイシャとカウラはそう言うと微笑んで見せる。そんな二人を見ながら要は視線を落としていじけていた。




