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季節がめぐる中で 168

「まあそう言うことになるわけだが、まあ記録に残るような会い方はしてるわけがねえよな?」 

 嵯峨はそう言うとタバコをくわえながら要を見つめた。

「はいはい、アタシの顔でどうにか探れって言うんだろ?どこかのお上品なお嬢様とは違っていろいろコネがあるからな。汚れ仕事も便利なもんだ」 

「期待していますわよ、『胡州の山犬』さん」 

 東都での破壊行為で裏社会を恐れさせたと言う要の二つ名を微笑んで口にする茜。要は聞き飽きたと言うように軽く右手を上げて誠の口をふさいだ。

「ですがこの入金を受け取ってた人物はなんで今回のバルキスタンへの出動を妨害しなかったんでしょうか?これだけの資金源を得るルートなんてほかになかなか見つけられるとは思えないんですが」 

 カウラのそんな言葉に嵯峨は頭を掻いた。

「もう十分に稼いだってことだろ?それにこういうやばい仕事は引き際が大切だ。その点じゃあこの金塊をもらった人はそれなりの人物ってことだろ?」 

「まるで神前曹長を助けた法術師と金塊を譲り受けた人物が同一人物であるような言い方に聞こえるんですが……」 

 マリアのその言葉にタバコをくわえながら下を向く嵯峨。

「そうだよ、少なくとも現時点では俺はそれが同一人物だと思っている。まあ8分くらいはそう言うつもりで話しているんだけどな。そうでなければ誠にこれほどかわるがわる法術師をあてがっている理由が説明できねえよ」 

 小さな国の国家予算規模の金塊を手にした法術訓練施設を保有するテロリストが目的もわからず行動している。誠は自分の背筋が凍るのを感じていた。

「このことは内密にな。俺がもしその組織のトップにいれば金塊と法術組織のつながりを探るような行動をとる公的組織があれば全力で潰しにかかるぜ。これだけの支援をバルキスタンから引き出せる人物が間抜けな人間であるわけがねえだろ?」 

 この場にいる誰もが嵯峨の意図を汲み取ってうなづく。そして東和軍や同盟司法局に対してもこれが秘匿されるべき話だと言うことは誠にもわかってきた。

「まあつまらない話はこれくらいにしておくか?」

 そう言った嵯峨の表情が急に緩んだ。

「ちょっと急な話だったからできなかったけど、とりあえずうち流の歓迎を第三小隊の皆さんにもしてあげようじゃねえの」 

 タバコを吸い終えた嵯峨はそう言うと立ち上がった。

「でもあまさき屋くらいは今日行きましょうよ」 

 手を叩いて微笑むリアナ。酒が飲めると思って表情を緩める明石。

「それじゃあ鈴木、春子さんへの連絡頼むわ。じゃあ解散だな」 

 そう言って再びタバコに火をつける嵯峨。明華達は部屋を出て行く。

「要坊、楓の奴と仲良くな!」 

「できるか馬鹿!」 

 部屋を出ようとする誠とカウラの背中に要の捨て台詞が響く。

「お姉さま!」 

 突然保安隊詰め所から声が響く。要はそのまま廊下を走って消えていく。

「僕の何がいけないんだろう?」 

 声の主の楓が誠をにらみつける。誠はその迫力に押されて立ち往生した。楓はすでに保安隊の東和軍と同じオリーブドラブの男性佐官用の制服に着替えて同じ姿の渡辺を従えて立っていた。

「どうぞ……よろしく……」 

 震えながら挨拶を搾り出す誠を見つめる冷たい楓の視線。カウラはただ同情するような視線を誠に投げかけていた。

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