季節がめぐる中で 167
「って別に要をいじめるために集まってもらったわけじゃないんだけどな」
「叔父貴、いつか締める。絶対いつか潰すからな」
要のぎゅっと握り締められたこぶしを見て思わず誠は一歩下がった。
「例の07式を潰した法術師ですか」
茜の言葉に浮ついていた一同の表情が変わった。嵯峨も手にした端末を操作して全員に見えるように机の上のモニターを調整した。
そこには誠の機体からの映像が映し出されていた。法術範囲を引き裂いて進んでくる07式が急に立ち止まり、コックピット周辺を赤く染めた。そして内部からの爆発で焼け焦げる胴体。つんのめるようにして機体はそのまま倒れこんだ。その間十秒にも満たない映像が展開される。
「ランはこの芸当を見せた人物が先日、神前達の監視をしていた人物と同一人物と言ってるけど……隊長はどう思われますか?」
明華の言葉に嵯峨はただ首をひねるばかりだった。そして静かにタバコの箱に手を伸ばす。そして視線を娘の茜へと向けた。
「許大佐のおっしゃる可能性は高いとは思いますけれど確定条件ではないですわね。確かに私もいろいろとデータをいただきましたが、炎熱系の法術と空間制御系の法術の相性が悪いのは確かなのですが……」
茜はそう言いながらシンを見上げる。
「確かに両方をこれだけの短い時間で的確に展開すると言うのは私には無理です。ですが、訓練次第でなんとかならないかと言うとできそうだと言うのが私の結論です」
はっきりと断定するいつものシンの言葉に嵯峨の顔はさらに渋いものになった。
「まあそれなりの実力のある法術師と訓練施設を持つ第三者の介入か。あまり面白い話じゃねえな。しかも偶然ここにそんな人物がいたなんてのはどう考えてもありえる話じゃねえ、明らかにこの法術を使った人物は最低でも神前に関心がある人間に絞られるわけだ。それでだ」
そう言うと嵯峨はモニターに表を展開させた。
「カント将軍の裏帳簿ですか。それなら……」
「アメリカにはこいつで手を打ってもらったわけだ。生きたままカント将軍を引き渡せばどんないちゃもんをつけられて同盟解体の布石を打たれるかわかったもんじゃねえ。そのためにご当人がお亡くなりになっていただいたわけだ。あちらも遼州星系内での活動を規制する条約に調印している以上、あまりごねれば自分の首を絞めることはわかっているだろうからね」
そう言うと嵯峨は取り出したタバコに火をつけて話を続ける。
「胡州が協力する見込みが無くなったからにはそう突っ込んでこの件を騒ぎ立てるのは一文にもならないくらいの分別はあるだろ。それにベルルカン大陸の他の失敗国家の独裁者達も自重してくれるだろうからな。まったく俺も人が良いねえ、こんなに俺のことが大嫌いな人達の弱みを消し去ってあげたんだから」
名前は消されてはいるが、誠にもそのすさまじい金額の並んでいる帳簿に目を丸くしていた。
「まあ別のところで煮え湯を飲ませるつもりなんじゃないですか?」
明華の声に笑い声を上げる一同。だが、その中で伏せるまでもなく名前が空欄になっている部分がスクロールされてきた。
「名前が無いですね」
カウラの言葉に嵯峨はそれまで机の背もたれに投げ出していた体を起こした。
「名前が無いというよりも書く必要が無い、書きたくない人がこれだけの金額の利益を得ていたと言うことだな」
二桁違う金額が並ぶ名前の記載の無い帳簿。それを眺める嵯峨の言葉に一同はしばらく彼が何を言おうとしているかわからずにいた。
「名前を書きたくない……そんな人に金を流したんですか?なんで?」
呆然と帳簿を見つめる誠の背中に鋭い声が飛ぶ。
「それがわかれば苦労しないわよ。お父様。この金銭の流れの裏づけは取れているのかしら?」
茜が急に身を乗り出す。
「吉田、どうだ?」
「他の面々は証拠がそれなりにあるんですが……こいつだけはどうしても足がついてないんですよ。まるで直接集金人が取り立てに来ていたみたいで……まあ別ルートで大量の金塊をカント将軍は購入しているという裏が取れましたからおそらくその金が使われた可能性は高いですね」
吉田の言葉に逆に茜は目の色を変えた。
「つまり、何時でもカント将軍に会える立場にいた人物と言うことになりますわね」
その言葉に要は複雑な表情を浮かべて茜の姿を眺めていた。




