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季節がめぐる中で 162

「貴官が遼州同盟司法局保安隊実働部隊第二小隊所属、神前誠曹長だな」 

 胡州海軍の桜をかたどった星が三つ輝く少佐の階級章が光る。誠の嵯峨楓の印象は日本の戦国時代のじゃじゃ馬姫と言う感じだった。姉の法術特捜主席捜査官の嵯峨茜と双子だと言うところから自分と同い年になるわけだが、姉の茜に似て落ち着いた雰囲気が感じられた。長く黒い髪を頭の後ろにまとめ、顔の両脇から長い髪をたらしている姿は姫君のような気品と若武者のような意思の強さを感じさせた。

「楓様、彼があの神前曹長なんですか?」 

 青いショートボブの髪型の気の強そうな大尉が誠を値踏みするように頭の先からつま先まで眺める。

「この男が西園寺の姫様の思い人とは思えないんですが……」 

「思い人?」 

 誠は自分の顔が赤くなるのを感じた。要のことを思い出す誠。たしかに嫌われてはいないようだとは思っていたが、そう言う関係じゃないと思っていた。しかも目の前にいるのは要の生家、西園寺家と親しい嵯峨家の当主とその家臣である。要がそれらしいことを彼女達にほのめかしていたとしてもおかしくは無い。

「あ、あのー嵯峨少佐……」 

 自分でもわかるほど見事にひっくり返った声が出る。

「どうした?父上のことだ、あまり階級とかで呼ぶなと言っているだろう。楓でいい。あれが迎えの車か?」 

 さすがに胡州四大公の当主である、誠を威圧するように一瞥すると誠が乗ってきたライトバンに向かって歩いていく。

「あのー……楓さん?」 

 誠の声に振り向く楓。自分で名前で呼ぶように言った割には明らかに不機嫌そうに眉をひそめている。その目で見られると誠はそのままライトバンに向けて全力疾走する。そして二人が荷物を詰めるように後部のハッチを開く。

「うん、なかなか気がつくな」 

 そう言うと楓はそのまま手にした荷物を荷台に押し込む。

「荷物少ないんですね」 

 誠は他に言うことも無くきびきびと働く二人に声をかけた。

「マンションに生活用品はすべて送ってくれる手はずになっている。とり急ぎ必要なものを持ってきただけだ」 

 ハッチを閉めながら楓が不審そうな瞳を誠に向ける。

「それじゃあ……」 

 誠が思わず後部座席のドアを開けようとするが、楓の手がそれを止めた。

「別にリムジンに乗ろうと言うんじゃないんだ。神前曹長は運転をしてくれればいい」 

 そう言って初めて楓の顔に笑みが浮かんだ。誠はそのまま運転席に駆け込む。その間、妙に体がぎこちなく動くのを感じて思わず苦笑いを浮かべた。

「それじゃあやってくれ」 

 運転席でシートベルトを締める誠に楓が声をかけた。誠の真後ろに座っている渡辺かなめ大尉はじっと誠をにらみつけている。

『なんだか怖いよ』 

 冷や汗が誠の額を伝う。

 駅のロータリーを抜け、そのまま商店街裏のわき道に入る。ちらちらと誠はバックミラーを見てみるが、そこでは黙って誠を見つめる楓の姿が映し出されていた。まるで会話が始まるような雰囲気ではない。しかも楓も渡辺も話をするようなそぶりも見せない。

 沈黙に押し切られるように誠はそのまま住宅街の抜け道に車を走らせた。

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