季節がめぐる中で 163
商業高校の脇を抜けても、産業道路に割り込む道で5分も待たされても、菱川重工豊川の工場の入り口で警備員に止められても、楓と渡辺は一言もしゃべらずに誠を見つめていた。
「あの、僕は何か失礼なことをしましたか?」
大型トレーラーが戦闘機の翼を搬出する作業を始めて車が止められたとき、誠は恐る恐る振り向いてそうたずねた。
「なぜそう思う?」
逆にそう言う楓に、誠はただ照れ笑いを浮かべながら正面を向くしかなかった。とりあえず怒っているわけではない、それが確認できただけでも儲けものだと自分を慰めながら保安隊のゲートに差し掛かる。
「おう、ご苦労さん」
金髪の彫りの深い警備部の兵士に声をかけられて視線を上げる誠。彼の表情が明らかに疲れているのを見て警備兵は後部座席を覗き込むが、そこに少佐の階級章の士官が乗っているのを見てなんとなく納得したような顔をしてゲートを開いた。そしてロータリーを抜け、正面玄関に車を止める誠。
「すまないが案内をしてもらえないだろうか?」
車から降りると楓はそう言いながら荷物を下ろし始めた。
「僕はこの車を……」
「わかっている。僕はここで待っているから」
そう言うと楓と渡辺は正面玄関に降り立った。誠はそのまま車を公用車の車庫に乗り付ける。そこではグレゴリウス13世と戯れているシャムが居た。
「まだやってるんですか?」
そう言いながら公用車のキーを箱に戻す誠。シャムはつかつかと誠のところまで来ると興味深そうに誠を見つめてくる。
「誠ちゃん女の人と一緒に居たでしょ」
問い詰めるように迫るシャム。
「ああ、第三小隊の隊長を迎えに行ってたんですよ」
「え!楓ちゃんと会ってたの?いいなー」
そう言いながら誠の周りをくるくる回るシャム。
「なんならついて来ますか?正面玄関前で待っているってことみたいなんで」
「いいの?やったね!実は会うの初めてなんだ」
そう言うとシャムはグレゴリウス13世に手を振ってそのまま誠の後ろにくっついてくる。そして正面玄関の前に立つ二人の麗人を見てシャムはうれしそうに微笑んだ。
「へーあの人が楓ちゃんなんだ。かわいいね」
手を振るシャムだが、楓と渡辺は黙って近づいてくるシャムと誠を見つめているだけでまったく反応を示さなかった。
「あの、この人がナンバ……!」
誠がシャムを紹介しようとした瞬間、楓の手がシャムの胸元に伸びた。そしてさも当然と言うように小さなシャムの胸を軽くなでるようにさすった。
「あ!」
突然のことに呆然とするシャム。誠もまた何もできずに楓の行動を見守っていた。




