季節がめぐる中で 164
「うん、実に良い。それでは神前曹長、案内を頼む」
そう言うと何事も無かったかのように誠に目を移す楓。シャムはと言えばしばらく呆然と誠を見上げていたが、すぐに喜びにあふれた表情を浮かべた。
「これよ!これが楓ちゃんなのよ!やっぱり思ったとおり!おっぱいマニアだね!」
誠の理解を超えた範疇で喜ぶシャム。ただ渋い顔をして誠はそのまま正面玄関から隊舎に入った。幸運なことに運行部の女性隊員は廊下に居なかった。
「誠ちゃん、荷物くらい持ってあげようよ」
渡辺の手から手荷物を預かろうとするシャムの声に気がついたように誠は楓を見つめた。
「ああ、頼めるか?」
そう言って楓から渡されたかばんはその体積の割りに重たく感じられた。
「じゃあ、隊長室は二階ですから」
誠はそう言うとそのまま階段を上る。楓も渡辺も相変わらず黙って誠のあとに続いた。シャムはニヤニヤしながらその後ろを行く。
「ここが更衣室です……」
誠が指を差すのにあわせて視線を向ける楓。誠はとりあえず黙っていようと思いながら廊下を右に折れた。
「ここが姉上の執務室か」
楓が口を開いたのは彼女の双子の姉である嵯峨茜警視正が常駐している遼州同盟法術犯罪特捜本部の部屋だった。
「挨拶していきますか?」
こわごわ尋ねる誠に首を振り、そのまま歩き出す楓。誠はそのまま彼女の前に出て隣のセキュリティーシステムを常備したコンピュータルームを指差すが、楓はまったく関心も無いというようにそのまま嵯峨がいる隊長室の前に立った。
そのまま誠を無視してノックする楓。
「おう、いいぞ」
嵯峨の声を聞くと楓と渡辺は当然のようにドアを開けて入る。
「げ!」
要の声に誠は部屋を覗き込んだ。そして楓の顔がそれまでの退屈したような無表情から感激に満ちたものへと変わっているのを見つけた。楓が要の胸に手を伸ばそうとするのを要は楓の頬に平手を食らわすことでかわした。
「テメエ!何しやがんだ」
そう叫ぶ要に楓は打たれた頬を押さえながら歓喜に満ちた表情を浮かべる。
「この痛み、やはり要お姉さまなんですね!」
その言葉に背筋に寒いものが走る誠。そして要の隣に立っていたカウラは呆然とし、アイシャはにんまりと笑みを浮かべている。
そんな人々の視線を気にしてなどいないというように、楓はそのまま要の手を握り締めるとひきつけられるように要の胸に飛び込もうとする。
「おい!やめろ!気持ち悪りい!」
「ああ、お姉さま!もっと罵ってください!いけない僕を!さあ!」
その楓の言葉に嵯峨は頭を抱えていた。カウラはそんな嵯峨を汚いものを見るような視線で見つめている。要は自分の行動がただ楓を喜ばせるだけと悟ったように、口元を引きつらせながら誠に助けを求めるように視線を送っていた。




