季節がめぐる中で 148
エレベータに無理やり誠が体を押し込むと扉が閉じた。巨漢の明石と大柄な誠、カウラもアイシャも女性としてはかなり大柄である。居住区を同型艦よりも広く取ってあるとはいえ、エレベータまで大きくしたわけでは無かった。さらにビールの入った大きなクーラーボックスがあるだけに全員は壁に張り付くようにして食堂のフロアーに着くのを待った。
ドアが開いて誠がよたよたとクーラーボックスを運ぼうとするがアイシャを押しのけて飛び出していく要に思わず手を放しそうになって誠がうなり声を上げた。
「ちんたらしてるんじゃねえよ!」
要の言葉に苦笑しながら誠とアイシャはクーラーボックスを運び続ける。
「なんじゃ。ヒーローがすることじゃないのう。ワシがかわっちゃる」
「えっ……そんな」
「ええから、ええから。ワレの為の宴会じゃ。好きに飲んどけ。今日だけはワシが誰にも文句を言わせん!」
そう言いながら誠と入れ替わる明石。
「私は?」
「ワシは知らん!」
替わってくれというようにつぶやくアイシャに冷たく言い放つ明石。誠はすがるような瞳で見つめるアイシャを置いてそのまま食堂に向かった。
「おい!先にやってるぜ」
そう言いながらすでに手元に新しいウォッカの瓶を三本確保している要。カウラは目の前の栓を抜かれたビールを飲むべきかどうか迷っているようだった。
「神前曹長!」
きりりと響くハスキーな女性の声。目を向けた誠の前にマリアの金髪が翻った。
「今回の作戦の最大の殊勲者は貴様だ。とりあえずこれを」
そう言うと誠に小さなグラスを渡すマリア。そこにはきついアルコール臭を放つウォッカがなみなみと注がれていた。
「良いんですか?」
「当たり前だ」
マリアに即答され、警備部の面々に囲まれてビールを並べる作業に従事しているアイシャと明石に助けを求めるわけにも行かず誠は立ち尽くしていた。
「姐御の酒だ!飲まなきゃな」
再びウォッカをラッパ飲みしながら要が笑う。
逃げ場が無い。こうなれば、と誠は一気にグラスを空ける。
「良い飲みっぷりだ。カウラ、お前からも酌をしてやれ」
そう言って一歩下がるマリアの後ろに、相変わらず瓶を持つか持たないかを悩んでいるようなカウラの姿があった。
「ベルガー大尉の酌か!うらやましいな」
「見せ付けてくれるねえ」
すでにテーブルに並んでいるソーセージやキャビアの乗ったクラッカーを肴に酒を進めていた警備部員の野次が飛ぶ。
「誠……いいのか、私の酒で」
覚悟を決めたと言うように瓶を持ったままそろそろと近づいてくるカウラ。気を利かせた警備部員のせいで誠の前には三つもグラスが置かれていた。誠はそれを手に取るとカウラの前に差し出した。




