季節がめぐる中で 149
真剣な緑の瞳。ポニーテールのエメラルドグリーンの髪を震わせ不器用にビールを注ぐカウラ。
「あっ!もったいない」
警備部の士官が叫ぶ言葉は誠とカウラには届かない。注ぎすぎて出た泡に口を近づけた誠とカウラ。二人はそのまま見つめあった。
「あーあ!なんか腹にたまるもの食べたいなー!」
要が皿を叩く音で二人は我に返った。
「ああ、ちょっと待ってください。チーズか何か持ってきますから」
そう言ってなだめようとする誠。
「良い雰囲気ねえ。私も見てるから続きをどうぞ」
「アイシャ。何か誤解しているな。私と神前曹長は……」
ニヤニヤと細い目をさらに細めてカウラを見つめるアイシャにカウラは頬を赤らめる。
当然警備部の兵士達は面白いわけは無いのだが、マリアと明石がハイペースで酒を飲み続けながら睨みを効かせているので手が出せないでいた。
「まあ、いいや。誠、つぶれてもいいんだぜ」
そう言いながらもうウォッカの一瓶を空ける勢いの要。アイシャは悠然とテーブルを一つ占拠してキャビアやイクラなどを狙って食べ始めている。
「なんじゃ、おもろないな。歌でも歌う奴は居らんのか?」
明石の声に静まる食堂。だが、そこで急に電源が落ちた。騒然とする人々。
「私の出番ね!」
入り口の電灯だけが点される。
そこに立っていたのはこの運用艦『高雄』艦長の鈴木リアナ中佐だった。きりっとした桜色の留袖を着て手にはマイク。完全な演歌歌手のような姿で悠然と食堂に現れる。その姿はディナーショーの演歌歌手に見えないことも無かった。
だが、全員のこめかみは引きつっていた。手に酒を持っている隊員はすばやくそれを飲み干す。明石の前のビールにも警備部の兵士達が殺到してあっという間にビールの缶は無くなった。
通称『超音波攻撃』と言われるリアナの得意の電波演歌。彼女が歌えばどんな名曲も電波ソングに変換され、聞くものに壮絶なダメージを与える。兵達ばかりでなく厨房の面々もすばやく耳栓に手を伸ばす。
「皆さんのおかげでバルキスタンでの戦闘行為は中断されました。それを称えて私、鈴木リアナが一曲歌わせてもらいます!」
「おい、誰か止めなかったのか?」
マリアは通信端末をブリッジとつなげる。ブリッジでサラの代役で通信を担当している女性将校は困った顔で首を横に振った。アイシャが副長に出世し不在。パーラは今回はアイシャのバックアップで不在。サラは第四小隊の支援に出ており不在。エダはキムと一緒に旅行に行って不在。とにかくリアナを押さえることが出来るブリッジクルーはいなかった。
「お姉さん。いいんですか?仕事は」
カウラは一人リアナに意見する勇気を持ち合わせていた。だが、彼女の後ろのテーブルには9本の缶ビールが確保されており、正気を吹き飛ばして状況をやり過ごすと言う選択肢を捨てていないことを人々に見せ付けていた。
「大丈夫よ。みんないい娘ばかりですもの第四小隊の回収くらいなら簡単にこなしてくれるわ。それよりも皆さんに楽しんでいただく方が大事ですもの!」
その言葉と共に早速イントロが流れ始める。誠は静かに要から手渡されたウォッカの瓶を受け取るとすばやくふたを開け、そのまま胃の中にアルコール度40度の液体を直接流し込んだ。




