季節がめぐる中で 126
誠の乗る輸送機は東和領空を出ていた。居住性の悪い内部の司令室で黙ってモニターを眺めているアイシャの流れるような紺色の長い髪を備え付けのシートに座ってぼんやりと眺める。
「どうしたの誠ちゃん。もしかして……私にラブ?」
アイシャがそこまで言ったところでトイレにつながる自動ドアから出てきた要がアイシャの後頭部に手刀を叩き込む。
「くだらねえこと言ってないでモニターでも見てろ」
不機嫌な要に振り向いたアイシャは鼻をつまむ。
「またトイレでタバコ?トイレが詰まったらどうするのよ」
「携帯灰皿持ってるよ!」
要はそう言うと誠の隣の席に体を倒す。サイボーグの体の重さにぎしりと椅子がきしんだ。
「アイシャ。作戦開始時刻が伸びているのはどういうわけだ」
後部格納庫に連なるハッチから出てきたカウラが叫んだ。
「状況が変わってるのよ。ちょっとこのデータ……分かったわ。誠ちゃんとカウラちゃんこっち来て。要はそのまま後部ハッチから飛び降りてもいいわよ」
いつものようにアイシャの挑発にのせられそうになる要を制止してカウラは仮眠を取っているパーラのオペレーター席に腰をかけてアイシャの前に展開しているモニターを覗きこむ。そこには作戦空域がかなり広く取られた画面が映し出されている。そして重巡洋艦を旗艦とした胡州の艦隊が表示されていた。
「大気圏外に艦隊を展開か。ずいぶん大げさな話だな」
要は脳内にアイシャの前に展開している画像と同じものを見ているようだった。
「隊長も相当今回の作戦には慎重になっていると言うことでしょ。現在バルキスタンへの超高度降下作戦を展開可能な宙域に胡州の重巡洋艦『妙高』を旗艦とした艦隊が所定位置に移動中ってことらしいわね」
「『妙高』……胡州第三艦隊か。赤松のオヤジの手のものだな」
空いた席に足を伸ばしていた要がつぶやく。カウラも緊張した面持ちでアイシャの顔を見つめた。
「僕達が失敗すれば第三艦隊の降下作戦が行われると言うことですか?」
誠の言葉にアイシャは一回大きく深呼吸をすると諭すようにゆっくりと言葉を継いだ。
「そうね、簡単に言うとそうだけど隊長も胡州の正規軍の介入は最後の手段と考えているはずよ。まず私達が現在にらみ合っているバルキスタンの政府軍とイスラム反政府勢力の衝突を止めるのが一番目の策。それが駄目なら『高雄』による直接介入と反政府勢力の決起で仕事が無くなった胡州の特殊部隊による首都制圧作戦を展開する。これが二番目の作戦」
「だが、二番目の作戦でも同盟にとっては大きな失点になるな。現在反政府勢力の浸透作戦が展開中で派遣されている同盟軍は孤立している部隊も出ているそうだ。政府軍寄りといわれている派遣部隊が総攻撃を喰らえばかなりの死傷者が出るだろう。当然そうなれば今度のバルキスタンの選挙は良くて無期延期。悪ければ地球の非難を覚悟してカント将軍に代わる政権の担い手をむりやり擁立しなければならない。当然そうなればすべての和平合意は白紙に戻される」
エメラルドグリーンの前髪を払いながらカウラは厳しい視線を誠に向ける。
「そして最悪の展開はそれも失敗に終わった時。『妙高』から降下したアサルト・モジュール部隊による両勢力の完全制圧作戦の発動。間違いなく地球諸国は同盟への非難決議や制裁措置の発動にまで発展するわね。それにやけを起こしたバルキスタンの武装勢力双方による以前の東モスレム紛争の時と同じく包囲された同盟諸国の兵士の公開処刑とか……まああんまり見たくもない状況を見る羽目に陥りそうね」
淡々とそう言ったあとアイシャは座っている椅子の背もたれに体を預けて伸びをした。
「つまりアタシ等が失敗すれば大変なことになるってことだろ?じゃあ簡単なことじゃねえか。おい!神前!」
要の叫び声に誠が顔をあげた。
「成功したらいいものあげるからがんばれや」
そんな投げやりな言い方に誠は立ち上がって要を見つめた。言葉のわりに要の目は真剣だった。
「デート?それとも……わかったわ!首にリボンだけの格好で現れて『プレゼントは私!』とか言うつもりでしょ?」
アイシャが含み笑いをするのを見て要がそっぽを向く。
「図星か……」
呆れたようにカウラが誠を見つめる。誠はただ愛想笑いを浮かべながら目が殺気を帯びているアイシャとカウラを見渡していた。




