季節がめぐる中で 125
「良いんですか?今回の作戦は無茶がありすぎますよ。それに先ほどの言葉はどう見ても泉州公に不利に使われる可能性があります」
そう言って嵯峨に詰め寄る馬加。そしてすぐに西園寺派の武官達が嵯峨と醍醐を取り巻いた。
「そうは言うが……」
恨めしそうに醍醐は嵯峨を見つめる。だが当人はまるで二人の様子に関心が無いというように立ち上がった。
「響子さん。実は遼南からそば粉が送られてきましてね。昨日少し時間が空いたもので打ったのですが……どうですか?」
突然の嵯峨の言葉に響子は呆然と嵯峨を見つめた。
「ええ、ですがこの方達のお気持ちも……」
紫色の地味めな小紋を着込んでいる響子がさすがに嵯峨の臣下の衆を代弁するように言って聞かせようとする。
「なあに、これくらいの人数なら酒の肴にざるそばを食べるくらいの量は持ってきていますよ。醍醐さんも一緒にどうですか?」
『なにをのんきな事を!』
叫ぼうとするのを押さえながら醍醐はゆっくりと立ち上がる。
「今は一分一秒が惜しいですから。辞退させていただきます」
そう思わず自分の声が上ずっていることに気づいて被官達に目をやる醍醐。しかし、嵯峨の突然の提案に彼らはただ目を開けて座っているだけだった。
「確かに大臣の公務は大変でしょうから。高倉さんとかには伝えておいてくださいよ。『あんたなりにがんばったね』って」
そう言いながら胡州陸軍の制服の両腕をまくる嵯峨。彼はそのままなれた調子で廊下へと向かう。彼を見送りながら醍醐は我に返って通信端末を開いた。
「ああ、私だ。高倉大佐の身辺を固めろ!詰め腹を切る可能性があるからな!」
醍醐はそのまま部下と連絡を取りながら嵯峨とは逆の方向、屋敷の正門に向けて早足で立ち去る。残されたのは保守派の支柱である烏丸響子女公爵と西園寺派の幹部と言える馬加達だった。
「奇妙なものですね。大公と我々が取り残されるとは」
馬加は思わずそう言いながら自分の娘より年下の響子の正面に座った。
「いえ、もしかしたらこれは泉州公のご配慮なのかも知れませんね。こうして皆さんとお話しする機会などあまり無いでしょうから」
そんな柔らかい口調の響子の言葉に馬加達は思い知らされた。この状況を作り出すことが嵯峨の意図したことではないかと。枢密院での論戦では常に平行線をたどる両者が面と向かって話せる場などこれまではどこにも無かった。
響子は四大公の一人とは言え、まだ23歳と言うことで派閥の統制が取れるほどの実力は無かった。そのことが先代の烏丸頼盛以来の重臣達に左右される不安を彼女に感じさせていた。一方、西園寺派には豪腕として知られる西園寺基義への配慮もあって烏丸派と接触を取ることを自重しているところがあった。
「やはりあの人は食えないな」
馬加は一人つぶやくと目を輝かせて彼の言葉を待つ響子に何を伝えるべきか思いをはせた。




