季節がめぐる中で 120
「確かにこの範囲の敵を駆逐すれば反政府勢力の攻勢は頓挫するのは分かるんだけどな。このあたりには停戦監視や治安維持目的で同盟軍の部隊が展開してるんじゃねえのか?」
素朴な疑問をぶつける要にランは狙いすましたような笑顔で答える。
「だから、非殺傷設定のアレの効果が生きるんだ。思念反応型兵器とか意思機能阻害兵器とか呼ばれているわけだが、アレに撃たれると人間なら二日は昏睡状態に陥ると言う効果があるが死にはしねーからな。今回はその特性を生かして戦闘能力を削いでしまおうって作戦なんだ」
胸を張るラン。
「そんなにうまく行くんでしょうか?」
そう言うカウラにランは立ち上がって背伸びして彼女の肩に手をやった。
「もうすでにマリアは動いているぜ。しかもほとんど障害になるような反撃は受けていないそうだ。そうなるとそこをうまく仕切って作戦成功に導くのがオメーの仕事だ。それとアイシャ!」
「は!」
切り替えの早いアイシャは真面目モードでランに敬礼する。
「東和の空軍のバックアップはあるだろうがM7クラスだと正直、対地攻撃での撃破は難しい。管制よろしく頼むぞ」
「了解しました!」
そんなアイシャの気合の入った声に笑みを浮かべたランはそのままコンピュータルームを出て行こうとする。
「クバルカ中佐、帰られるんですか?」
誠の言葉にドアを開いたばかりのランが振り向いた。
「今回は明石の旦那の引退試合だ。見せ場を取ったらまずいだろ?」
そう言うと誠達を置いてランは去って行った。
「さてと、カウラ。進入ルートの選定は私達に任せて頂戴よ。とりあえず出撃命令が出るまで休んでいていいわよ」
アイシャはすぐさま椅子に腰掛けて端末のキーボードを叩き始めた。パーラも隣の席で同じように仕事を始める。
「じゃあ、よろしく頼む」
カウラはそう言うとアイシャ達に視線を送る要と誠を促してコンピュータルームを後にした。
「ちっちゃい姐御にあれほど確信を抱かせるってのはたいした奴だぜオメエは」
要はそう言うとタバコを取り出して誠の肩を叩く。
「廊下は禁煙だぞ」
いつものようにカウラがとがめるが、その表情は誠には相棒を気にするカウラの思いやりが見て取れた。
「わあってんよ!しばらくヤニ吸ってるから何かあったら呼んでくれよ」
そう言うとハンガーへと歩き出す要。誠とカウラはそのまま実働部隊の控え室に戻った。
部屋では明石が要が提出した始末書に検印を押していた。吉田はいつもどおり机に足を投げ出して音楽を聴いている。シャムの姿が無いのはグレゴリウス13世と遊びに行っているからなのだろう。
「明石中佐。本隊はどう動く予定ですか?」
カウラの言葉に顔をあげた明石は吉田の方を見た。
「こっちは『高雄』で出撃。海上に待機して様子見だ。お前等が失敗した時はカント殿の頭に銃でも突きつけて自作自演のもたらした負の遺産を身をもって味わってもらう予定だよ。まあそうなったらどこかの星条旗を掲げた正義の味方気取りの兵隊さんが笑顔で全面攻撃なんてシナリオまで見えてきちゃうだろうけどな」
ふざけたようなその言葉だが、誠も吉田の性格が分かってきていただけにその意味が理解できた。
待っているのは本格的な紛争。そして同盟機構は瓦解し、新たな秩序の建設を大義として掲げての遼州の大乱。誠はそんな状況を想像して冷や汗が流れるのを感じていた。




