季節がめぐる中で 119
「法術非破壊広域制圧兵器?」
なんとなく口に出た誠の言葉。ランは笑いながら頷いた。
「そういうわけだ。タコ!冷蔵庫借りるぞ」
そう言うと返事も待たずに歩き出すラン。カウラはその後に続く。
「ですが、中佐。あの兵器の実用のめどは……」
「あれで十分だ。アタシが保障するぜ。出力は上がることはあっても下がらねーはずだからな」
小さな上司ランが余裕たっぷりの表情で振り返る。
「実験でそのままの実力が出せるかどうかなんて……」
そうこぼす要をランがいつもの睨んでいるとしか思えない視線で見つめる。要は気おされるようにそのまま黙り込んだ。ハンガーの階段を上り、誰もいない管理部と実働部隊の部屋を通り過ぎる。
隊長室は留守だった。だが、先ほど見た嵯峨の映像が誠の脳裏に写り、いつもは感じない隊長である嵯峨への控えめな敬意が芽生えていることに気づいた。
「アイシャ。ついて来てるか?」
その声に誠が振り向くとそこにはアイシャとパーラがいた。
「当たり前じゃないの。それより今回の作戦の成功は……」
セキュリティーを解除して振り返るランの視線に迷いは無かった。
「失敗すると分かって動く馬鹿は珍しいんじゃねーの?アタシとしては確立は八割は堅てーと思うがね」
そう言ってコンピュータルームの扉をくぐるラン。
「おい、カウラ。ちとそのディスク貸せよ」
手渡されたディスクを起動するラン。明らかに椅子が幼く見える体のランにあっていない様は滑稽に見えた。
「笑うんじゃねーぞ」
振り向いたランは要を一睨みしてからディスクを起動する。現れたのは現在のバルキスタンの勢力地図だった。
「現在のバルキスタンは反政府勢力の攻勢で戦線が入り組んでとんでもないことになっているわけだ」
そう言って中央盆地にカーソルを合わせ拡大するラン。画面にはその中に一筋のラインと緑の勢力圏を点線で覆う紺色の淡い斜線の引かれた部位が目を引いた。
「今回の作戦はこの中央盆地の武装勢力の戦闘継続能力の粉砕が目的だ。この盆地が堕ちれば政府軍を支援するという名目で米軍が動く可能性がある。実際、同盟機構の一部には出兵に積極的なアメリカ海兵隊派遣の要請を検討している勢力もある。それが実現すれば同盟機構の政治的権威はおしまいだ」
そう言うとランは再び中央盆地の入り口に当たるカンデラ山脈の北部を拡大する。
「進入ルートはカンデラ山脈を越えてと言うことになるな。それを抜けたらすぐに誠の乙型とカウラと要は降下、そして12キロ北上してマリアの警備部の部隊と合流する」
ランはそこまで言うと誠の方を向いた。合流地点と言われたところから広大としか思えない範囲にかけてが赤く染められる。そこでマリア・シュバーキナ少佐貴下の警備部の精鋭部隊が任務行動中だったという事実に誠は驚いていた。
「今回は範囲指定ビーコンはマリアが設置済みだ。照準もつける必要はねーんだ。簡単だろ?」
あっさりとそう言うランに誠は自分の額に光る汗を感じていた。




