季節がめぐる中で 109
「今年は即戦力の内野手はほとんど法術適正が黒っていうのがアタシのデータでもわかってるんだ。当然、プロの内野手で法術適正者も何人かいるからな。補強に走るチームは5,6球団じゃすまねえだろうな」
そう言いながら番茶を注ぐ要。彼女は腐っても保安隊野球部監督である。熱狂的な地球、日本の西宮市に本拠を置くチームのファンである彼女は東和のプロ野球事情にも精通していた。
「つまりかなりの上位での指名があるって言うことか?」
カウラも保安隊野球部の中継ぎ投手として要の言葉に身を乗り出してくる。
「上位はどうか分からねえが、確実にアイシャが拒否しても強硬指名をやってくる球団は予想がつくぜ」
そう言って笑う要に目もくれずにもくもくと食事を続けるアイシャ。
「一位だろうがなんだろうが行かないわよ、私は」
淡々と食事を続けるアイシャに食堂に集う隊員達が視線を集めてきた。
「契約金とか出る……」
「エンゲルバーグに言われたか無いわよ」
すぐ金の話に走ったヨハンの言葉にもアイシャは耳を貸すつもりはないというように、目玉焼きの皿に残った最後のトマトを口に放り込む。
「でもよう、一億出すって言ったら……」
「要ちゃんもしつこいわね。私は行かないの」
上目遣いに見つめるアイシャの瞳。思わず要は顔を赤らめて今度は番茶を茶碗に注いで口に掻きこんだ。
「プロでやってく自信が無いってわけじゃ無さそうだな。なんでだ?」
そう言って茶碗を置いた要に向けるアイシャの視線はきわめて落ち着いていた。
「私はここが居心地がいいのよ。私はファンを作るより一ファンでありたい。それが理由よ!」
そんな自分の言葉に酔うようにして立ち上がるアイシャ。そのわけの分からない発言に要は首をかしげた。
「ファン?何の?」
そう言いながら要は誠に目を向けた。誠は立ち上がったアイシャが自分の顔を見ていることに気づいて困惑した。
「そう!同人作家神前誠のファンでありたいのよ!」
その力強い一言につい乗せられるようにして食堂中の隊員が拍手を始めた。
急に話題を振られた誠はただ左右を見回すだけだった。
「え?なんで僕?」
そんな中で二人だけ異質な視線を投げかけてくるのを誠は見逃さなかった。あきれ果てたと言うような要の視線。そして同情を込めたカウラとしては珍しく感情的なまなざしが誠を見つめている。
「同人作家って……確かにそうなんですけど……今書いてるのってアイシャさんがシナリオ書いた作品ですよね?」
「そう!そして新進気鋭の原作者アイシャ・クラウゼのファン……」
そこまで言ったところで要は脱いだスリッパでアイシャの頭をはたいた。
「意味わかんねえよ!それとこいつを巻き込むな!」
頭をさすりながら要に向けたアイシャの視線は哀れむような感情を湛えていた。
「なに?そんなに誠君が大事なの?」
アイシャのその言葉は瞬間核融合炉の二つ名で呼ばれる要を激怒させるには十分だった。
「じゃあ表の記者を全部片付けて来い!仕事の邪魔だ!それくらいやってからでかい口を叩け!」
再び振り下ろされるスリッパを交わしたアイシャは誠の手をつかんで立ち上がった。
「そうね、じゃあ今度は誠ちゃんとツーショット写真を味わいましょうか。こんなことめったにないし」
そう言うアイシャにさらに激高する要にカウラとヨハン、それに整備の面々が飛び掛って押さえつける。
「行きましょうね!」
そう言うとアイシャはそのまま誠の手を引いて寮の玄関へと向かった。




