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季節がめぐる中で 107

「そうは言うがな。少しばかり話を聞いてくれないかね」 

 そう言いながら笑みを浮かべる兄を前にして仕方が無いと言うようにタバコを取り出す嵯峨。

「この部屋は禁煙だ」 

 そう言う西園寺基義に悲しげな目を向ける嵯峨。

「こいつは俺の代に作った法律なんだがな。まあ新三郎対策とでも言うべきかな?ヤニで汚れたら胡州の伝統が汚れるだろ?」 

 そう言いながらにやけた顔で見つめる西園寺基義。仕方なく嵯峨はタバコを仕舞う。

「僕は席をはずした方がいいですか?」 

 そう言う楓に嵯峨は首を横に振った。

「お前も一応、嵯峨家の当主だ。それなりの責任は果たす必要があるんじゃないか?」 

 そう言いながら西園寺基義は弟に向かい合って座りなおした。

「醍醐の気持ちも汲んでやってくれよ。あの人もそれなりに考えて今回のバルキスタンへの介入作戦を提案してきたんだからな」 

 兄の言葉に空々しさを感じて嵯峨は思わず薄ら笑いを漏らした。

「まあそうでしょうね。あの人が有能な官吏で軍人だって事は私も十分承知していますよ。確かにあの人の立場に俺がいたら……そう、今回の作戦と変わらない作戦を提案するでしょうから」 

『今回の作戦』と言う嵯峨の言葉に、西園寺基義は少し表情を強張らせた。

 基義は外交官の出身である。戦時中はゲルパルトとの同盟に罵詈雑言をマスコミで繰り返し官職を取り上げられ飼い殺しにされていた彼は、戦局が敗北の色を帯び始めた時点で講和会議のために再登用された。地球軍に多くのコロニーを占領され、死に体であった胡州だが、そんな中で西園寺が目をつけたのは戦争遂行能力に限界の見えてきた遼北人民共和国だった。

 素早く遼北の最高実力者、周喬夷首相を密かに訪れ電撃的な休戦協定を締結する方向に動く。胡州の首都、帝都のある第四惑星降下作戦発動のタイミングを失った地球軍はその段階で講和のテーブルに付き戦争は終結へと向かった。そしてその勲功が終戦を待たずして世を去った父重基を継ぐようにして政界へ踏み出すきっかけを作った実績もある。

 嵯峨が『今回の作戦』と言う言葉を使ったことが、醍醐陸相から首相である西園寺基義に受けている作戦要綱以上の情報を嵯峨が手に入れていると言う意味であることを基義は聞き逃すことは無かった。

「それなら今の立場。遼州同盟司法局の実力部隊の隊長としてはどう動くんだ?」 

 その言葉に嵯峨は思わず笑みを漏らしていた。

「それは醍醐さんにも話しときましたよ。実力司法組織として、でき得る最高レベルの妨害工作にでると。加盟国の独走を許せば同盟の意味が無くなりますからね」 

 西園寺基義の表情は変わらなかった。そして、そのまま楓へと視線を移す。

 伯父に見つめられた楓は首を横に振った。もとより西園寺基義は楓には嵯峨の説得が不可能なことはわかっていた。だが、とりあえず威圧をしておくことが次の言葉の意味を深くする為には必要だと感じていた。

「そうか。なら同盟の妨害工作が動き出すと。その命令はどのレベルからの指示だか教えてもらいたいな」 

 胡州も遼州星系同盟機構の構成国家である。比較的緩い政治的結合により地球圏からの独立を確保する。その目的で成立した同盟機構には超国家的な権限は存在しない。そのことを言葉の裏に意識しながら西園寺基義は血のつながらない弟に詰め寄った。

「同盟機構の最高レベル。そう言うことにしておきますかね」 

 嵯峨のその言葉は西園寺基義の予想の中の言葉だった。しかし、それは最悪に近い答えだった。

 この胡州帝国は帝国とは名ばかりの皇帝の存在しない帝国だった。遼州独立戦争。この星系に棄民同然に送られた人々と、先住民族『リャオ族』の同盟が地球の支配に反抗して始まった戦争で胡州の祖先達は独立派の中で数少ない正規部隊として活躍し、『リャオ族』の巫女であったムジャンタ・カオラと言うカリスマを引き立てることで独立を手に入れることになった。

 当時の遼州の各国家の意識はどれも国家意識と呼べるようなものではなく、独立の象徴として祭り上げられたムジャンタ・カオラを皇帝として元首に据えることを胡州は選んだ。

 しかし、初代皇帝カオラの消息が消えると、事実上胡州はムジャンタ王朝の領土である崑崙大陸と決別し『皇帝不在の帝国』として今度は遼州内国家でのパワーゲームの一つの極をなす国家となった。

 そしてその空位の皇帝の座の前で行われる今日の殿上会。

 にやりとその意味を悟って笑う弟の姿に西園寺基義は背筋の凍る思いがした。

「それじゃあ、失礼するよ。ああ、そうだった康子が帰りには必ずうちに寄るようにって言ってたぞ」 

 そう言って立ち上がる西園寺基義。基義は兄の言葉に次第に青ざめていく弟を見ながら茶臼の間を後にした。

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