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理想の転生ライフ  作者: 森の人
理想の転生ライフ、と狂勇者(の誕生)
7/12

 道場のような空間が形成された。

 端の方に立てかけられている竹刀から察するに、剣道道場だろうか。

 その道場に一人の老人が横たわっていた。

 服の上からでもわかる引き締まった体つきは、老人が生涯自身の体を鍛え続けた結果だろう。

 そしてその老人を無表情に見つめる20台半ばといったあたりの女性がいた。

 横たわる老人を起こすでもなく、ただ見ているだけだ。


(……まさかこの段階でここまで固定されるなんてね…。"あの子達"と言い、この老人と言い…なかなか変わったのが来るわね?)


 そんなことを、眉ひとつ動かさず…つまり内心の面白がっている様子など微塵も顔に出さずにその女性は佇んでいた。

 そしてそのまま数分が過ぎ、老人が目を覚ました。

 老人はすぐに体を起こそうとはせず、目だけで素早くあたりを確認し、無表情に自分を見下ろす女性に目を留めた。


此奴(こやつ)は…? 敵意はなさそうだが…それにここは一体?)


 老人は女性に敵意がないことを感じ取ると、他にわかることがないかさっと確認を再開し、何も見当たらないと結論が出たところでゆっくりと体を起こした。

 そして女性に目を合わせ、誰何する。


「お主は何者だ? 敵意は感じぬし、それほど力量があるようにも見えぬが…」

「あら、随分なことを言ってくれるわね? まぁ本当のことだし、別に咎めたりしないけれど」

「…もう一度聞くぞ、お主は何者だ?」


 女性が問いに答えず、自分の話を進めようとしている気配を察し、再び問いかけた。

 女性は答える気がないのか、肩をすくめて…


「さあ? とりあえず、あなたが知る必要はないとだけ言っておくわ」


と言った。

 女性の態度に怒気を放ちながらも、どこかもわからず自分の状況が把握しきれておらず迂闊に動けないこと、加えて女性の言い分が間違ってはいないことを冷静に考え、老人は女性の話を聞くことにした。


「…話を聞く気にはなったみたいね?」

「御託はいい。さっさと要件を話せ」

「じゃあ単刀直入にいうわ。あなたは死んで、これから転生するから、欲しい力を思い浮かべなさい」

「儂が…死んだ? 転生?」

「あなたが要件をさっさと言えというから言ったのよ。さぁ、あなたの答えは?」

「……お主の話を信じるかは別として、本当に次の人生をやり直せるというのであれば、幼き頃より己の力を磨けるようにしてもらいたい」

「具体的には?」

「自由に手足を動かせること、それから話せることも必要だろうな」

「幼き頃っていうのはどのくらいから?」

「早ければ早いだけ良い。望んで無理だと言われるのは面倒だからな」

「……あなたの望みは確かに聞き届けたわ。ではあなたをこれから転生させるわね」


 女性がそう言うと、老人の足元に魔法陣が展開した。

 本当は老人が目を覚ます前から展開されていたので、それまで隠蔽されていたのが解かれたというのが正しいだろう。


「こ、これは!?」

「転生用の魔法陣よ。…こちらから送り出すという意味では転送用と言い換えた方が良いかしらね?」

「では…本当に生まれ変われるのだな…」

「だからそう言ったでしょう? それじゃあ、次の人生を楽しんでくると良いわ」

「…恩にきる」


 老人がそう言い終わると同時に姿が消え、魔法陣が消失した。

 そしていつものように空間が壊れ、女性は"不定の女性"へと戻った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 とある村に住む若い夫婦の間に、彼らの第一子が生まれた。

 彼らは産湯で血を洗い落とした我が子を、幸せそうな顔で覗き込んだ。


「…ふむ。お主らが儂の父となり母となる人物か。よろしく頼むぞ」


 彼らの赤ん坊はそう言った。

 彼らの笑顔が固まり、それから驚愕や不安、恐れを抱くまでそれほど時間はかからなかった。


「い、いやぁぁぁぁああああ!」

「うわあぁぁぁああああぁあ!」


 自分たちの赤ん坊ということは理解しているのでなんとか投げ出したりはせずに済んだが、絶叫した。

 赤ん坊はそれに顔をしかめつつも、二人が落ち着くまで待った。

 そして叫び疲れたのか落ち着いたのか、とりあえず二人が静かになったところで赤ん坊が再び口を開いた。


「案ずることはないぞ、ご両人よ。儂は物の怪の類でもなんでもない」


 話していること自体が異常であるのだが、それに気づいていない様子の赤ん坊はさらに続ける。


「儂はこれまで90年に及ぶ修行の末、剣士としての頂を覗いた気がした。それが本物であったか、それともそれは通過点に過ぎないのか、それを確かめるために。そしてそれが本物であろうとなかろうと、さらなる高みへと至るために儂は2度目の人生を願い、こうして生まれた。お主らには迷惑をかけぬよう気をつけるし、何か問題があった時は力になろう。お主らの身に危険が迫れば何をおいても必ず駆けつけ、盾となり矛となって戦おう。……お主ら、なぜ儂をおいて離れていくのだ?」


 赤ん坊が語る内容をおそらく聞かずに、その両親である夫婦は家を出た。

 一人になってしまった赤ん坊は首を傾げつつ、体を起こしてそのベッドの上でストレッチを始めた。

 これで物の怪でないと言われて、はいそうですかと笑顔で受け入れられるものなどいないだろう。


 その後夫婦が家に戻ってくることはなく、またその家に近づくものもいなかった。

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