4.5
これはまだリオが屋敷にいた頃の、教会の晩餐会に招待される前の話だ。
幼いながらも貴族という立場や魔術師としての才を自覚していたリオ。
彼は父から言われていた「どんな些細なことであっても、自分より優れた才を持つ他人を敬うように」という言葉に不満を覚えていた。
「父上」
「どうした? 魔法に関する本が欲しいのか?」
「いえ、以前父上に買っていただいたものを読み返して理解を深めていますので。…そうではなく、父上はいつも『どんな些細なものに関してでも自分より優秀な者は敬え』と仰りますが、それでは私は誰よりも下にあるということではありませんか? それは…耐えられません!」
「耐えられない、か…」
不満を隠せぬといった様子のリオに父は顎に手を当てた。
リオには父が考えを譲歩、あわよくば撤回してくれるのだろうとその様子を見ていたのだが、父はその期待とは逆に、リオにどのように説明して納得させようかと考えていた。
そして考えがまとまり、リオに目線を合わせて父は口を開いた。
「リオ、誰よりもお前が下に感じるというのは正しい。私はそう思うようにと言っているのだからな」
「ち、父上?」
そう告げた父に、リオは裏切られたような顔をした。
「だがそれはお前次第だ、リオ。自分が誰よりも下であると考え、他人から学ぼうとする姿勢で取り組めば、自分が上であると傲った態度で教わる時よりも真剣に、その知識を自分の者にしようとするだろう」
「それは……ですが!」
「ああ、わかるよ、リオ。それでも自分が一番下だと卑下したくはない気持ちは。もちろんそんなことはしなくていい」
「父上、それは矛盾しています!」
「矛盾なんかしていないさ。自分の力を過信して傲ることのない態度を貫けるというのであれば。そして何事にも飢えを満たすように、貪欲に知識を吸収して自分を磨けるのであれば、な。だがそれはとても難しいことだ。実際、私にもそれは無理だろうな。だから、自分を低く見ることで、相手を敬わなければいけないという状況にするんだ。あくまでもその為に自分を低く見るのであって、絶対にお前の方が劣っていると思い込む必要はないんだ」
「……ですが…」
「…そうだ、な…。じゃあ、リオ。最初だけ、たった一度だけ、その人物より自分のことを下に見ろ。そして、その後絶対にその者よりも"その分野で"自分が優っていると思えるまで自分を磨くんだ」
「…わかり、ました」
渋々といった様子でリオは頷いた。
父は納得させることは叶わなかったと残念に思っていたが、リオ本人は自分の思い通りの結果にならなかったことに不満があるというだけで、父の言葉には一切の不満はなかった。
この日以降のリオの態度や熱心さの変化に気づいた大人たちは感心していたのだった。




