第二話 銀の天使を眠らせる
午前四時二十分。雨。
セリナは机に黒い布を敷き、二挺のブローニング・ハイパワーを並べた。
戦闘のあとには、いつもこうする。
銃を安全な状態にして通常分解する。スライド、銃身、リコイルスプリング。部品を順番に並べる。彼女の指は迷わなかった。
左の一挺。枯れた薔薇と、翼を失った天使。
右の一挺。咲き誇る薔薇と、翼を広げた天使。
クロームの表面には、目立った傷ひとつない。
セリナは銃身の汚れを確かめた。洗浄液を含ませた布が、黒く染まっていた。
「こんなに真っ黒に汚しちゃって」
彼女は言った。
誰もいない部屋だった。
返事を期待していたわけではない。
ただ、言わずにはいられなかった。
窓の外で、サイレンが遠ざかっていく。
セリナは銀色のスライドを手に取った。机のスタンドライトが、彫刻された天使の頬を照らした。天使は目を閉じていた。何も見なかったことにするには、都合のいい顔だった。
「人間なら、言い訳をするところね」
彼女は布を動かした。
「あなたたちは黙っている」
それだけ言って、彼女は作業に戻った。
しばらくして、二挺の銃は再び机の上に並んだ。
銀色の輝きが戻っていた。
セリナは椅子にもたれ、煙草を一本取り出した。火はつけなかった。
「いい女ね」
左の一挺に言った。
次に、右を見た。
「あなたも」
彼女は満足したように頷いた。
午前四時三十七分。
街はまだ眠らない。
セリナは二挺をケースに収めた。
明日も誰かが嘘をつく。
明日も誰かが死ぬ。
それでも、この二挺だけは銀色のままだった。
彼女は布を動かした。
「あなたたちは悪くないわ」
窓の外で、雨が強くなった。
机の隅には、昨夜の写真が置かれていた。
五人の兵士。軍用ヘリコプター。若い日のセリナ。
そして、アレクセイ・ヴォルコフ。
彼女は写真を裏返した。
――お前の部隊を殺したのは、私だ。
「ずいぶんと親切な告白ね」
セリナは呟いた。
「三年も待たせておいて、一行で済ませるなんて」
通信機が鳴った。
彼女はすぐには出なかった。
銀色のスライドを布で拭き、天使の翼に残った水滴の跡を確かめる。もちろん、本物の水滴ではない。照明がそう見せているだけだった。
それでも彼女は、しばらく見つめていた。
通信機がもう一度鳴った。
「……せっかちな男ね」
彼女は応答した。
『写真を見たか』
「おはよう、情報屋。あなた、挨拶というものを知らないの?」
『見たのかと聞いている』
「ええ。趣味の悪い写真だったわ」
『アレクセイの居場所が分かった』
セリナの指が止まった。
雨音だけが部屋に残った。
「どこ?」
『それを話す前に、一つ聞きたい』
「何かしら」
『本当に、あいつを探すつもりか』
セリナは写真を見た。
若い自分が、そこに笑っていた。
「いいえ」
彼女は静かに答えた。
「探すんじゃないわ」
机の上で、二人の天使が銀色に輝いていた。
「迎えに行くのよ」




