↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファミレス!  作者: 雨後晴れ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/18

第4話 骨は自分で拾え

 ランチのピークを控えて、パートのメンバーが続々と出勤してくる。休憩室でまだ泣きやまない祥子と、困った様に頭をかく高坂を見るたびに、各々が勝手に高坂を悪者にしたてあげる。


「……うん、圧倒的に店長が悪いな」

「まだ、何も言ってないだろ」


 次に入ってきたパートも、ひと目見るなり言い切る。


「女性を泣かすのはダメ、絶対」

「どこのキャッチフレーズだよ」


 接客主任の仁科(にしな)が出勤して来て、休憩室の二人を暫く無言で見つめる。

たまたま、まだ涙が収まらない祥子に高坂がティッシュを渡す瞬間を目撃したからであった。


「……リア充爆発しろ」

「いや、色々とおかしいぞ、主任」


   *


 ディナータイムを控えた夕刻のメイプル事務所。

 新人研修も中盤に差し掛かった皐月に、事務所のタブレットで接客の研修動画を見させる傍ら、たまった事務作業を片付ける高坂に仁科が緩く絡む。


「やだな~店長~。それならそうと最初から言って下さいよ~」

「どれだけ間違えたらそんな勘違いするんだ、全く。こら皐月、ちゃんと研修動画見てなさい!」


 何事もひたむきに取り組む新人の祥子は男性従業員の中でも人気があり、仁科も密かに憧れる取り巻きの一人であった。


「それにしても、中々異物混入のクレームは減らないですね~」


 勘違いで高坂に暴言を吐いた接客主任が、少しは主任らしい感想を漏らす。


「衛生管理は万全を期す。それは前提だ」


 高坂が火の点いていないタバコをくわえる。


「だけど、異物混入は絶対に無くならない」


 そう言い切って、高坂は宙を見上げる。


「……レストランではお客様の安心、安全を第一に考え、絶対に異物が混入しない様に日頃から調理マニュアルを守り、身だしなみにも注意を払いましょう」


 皐月が研修の為に見ているタブレットから、無機質な女性の声が淡々と聞こえてきた。


   *


 その夜、横田家。

 暗い表情で夕食をダイニングテーブルに並べる祥子。夫の圭一(けいいち)と六歳の息子の護(まもる)はお風呂に入っていた。サバの味噌煮と大根のサラダ、護の好物の水餃子とワカメの味噌汁を並べ終えた頃、祥子のスマホにチャットアプリの通知が届いた。


『祥子さん、今日はごめんね。料理に髪の毛が入ってた事』


 メッセージの送り主は今朝、共に働いたキッチンの三枝であった。

三枝は四十五歳のベテランパートで、メイプルのランチメンバーの中でも中心的存在で、少し融通の利かない堅苦しいところはあるが、責任感もあり調理のみならず接客も出来る実に頼もしい存在であった。

三枝がキッチンに入る前に、髪をキッチンキャップに入れ鏡で念入りにチェックをしている姿を、祥子はいつも見てきていた。そこまでしている三枝が祥子を気にしてメッセージを送ってきてくれている。

今朝の出来事を引きずっていた祥子は、いつまでもクヨクヨしている自分を少し恥ずかしく感じた。


「ふ~、いいお湯だった~」

「だった~」


 ちょうどその頃、風呂からあがった圭一と護が頭を拭きながらキッチンに入って来た。


「お、今日はサバの味噌煮か。祥子、骨とって~」

「ママ、とって~」

「はいはい、順番にね……」


 いつも通り圭一と護の魚の骨を取ろうとした祥子は、ふと手を止める。


「ダメ、自分達でやりなさい」

「え?」


 きょとんとした表情で祥子を見る圭一と護。そんな表情に母性本能をくすぐられて、骨を取りたくてウズウズするが、祥子は心を鬼にする。


「自分で食べる物は自分でちゃんと確かめなさい。もし骨が残っていたらどうするの?」


   *


「食べるって、結局自分の責任さ」


 火のないタバコを指で弄びながら、高坂が飲みかけの缶コーヒーを探す。


「でも、見える物ならわかるけど、見えなかったら注意のしようもないじゃないですか? ね~皐月ちゃん」


 仁科の同意を求める返答に、皐月もちょっと考えて頷く。


「だったらどうするんだ? わからなかったら食べないのか? 食べるのか?」

「そんなの、食べなかったらお腹すいちゃうし……」


 普段は横着な仁科が、そう言いかけて口ごもる。


「じゃ~、食べる事を決めたのは自分じゃないのか。今、自分が口にしようとしている物は危険かもしれない。そういう危機意識があって、初めて食の安全なんて守られるもんだ」


 そういって高坂は温くなった缶コーヒーに口を付ける。


「あ゛」


 仁科と皐月の声がそろう。


「ぶはーーーー、なんじゃこりゃ! ゴホッ、ゴホッ」


 高坂がコーヒーを吹き出す。


「自分が灰皿代わりにその缶使ってたんでしょ」


 仁科があきれた様に言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。