「兵隊」③
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『マサミ。私たちが友達である以上、私はあなたにあまり無理を言う訳には行きません。しかし、もし良ければ、LINEを交換して貰えないでしょうか? 以前、日本に居る友人が私の為にアカウントの作成を手伝ってくれました。私は二年間、LINEを使用しています』
『大変申し訳ありません。僕の場合、Twitter以外のSNSは非常に私的な使い方をしているので、ネット上で知り合った人たちにはお教え出来ないのです。ですが、このDMならいつでも送って貰って大丈夫ですよ』
『OK、分かりました。因みにその友人は、日本はLINEを使用する事で節約を行っていると言っていました。節約の為だったら、政府系の金融機関を利用する事はないのですか?』
『僕は銀行口座を持っていないのでよく分からないのですが、LINEで節約が出来るという話は初めて聞きました。恐らくお友達の方は、Facebookの通話機能など他のツールと比べて高品質の割に通信効率がいいので、通信料が節約出来るという事を仰ったのではないでしょうか?』
マサミからDM以外の連絡先を教えて貰い、より距離を縮めようと思ったマットだったが、彼からの返事はあまり芳しいものではなかった。とはいえ、それは向こうから警戒されているというより、SNSで繋がった相手には気軽に個人情報を教えないという基本的なポリシーに基づく事のようだった。マットもそう言われれば、あまり欲張る事は出来なかった。
その代わり、DMでのやり取りは今までの通り続けられた。マットも、当分はそれで十分だろうと思う事にした。
『マサミ。私は日本の出入国在留管理局に感謝状を書きました。ですが、私は彼らからのメッセージを受け取っていません』
『入管からの返信が遅れているという事でしょうか?』
『はい、マサミ。その事についても、あなたから紹介して貰った法人に聞いてみるつもりです。先程それらの法人について調べてみましたが、とても頼りになりそうでした。
マサミは、紹介してくれた彼らについてどれくらい知っていますか?』
『僕の紹介したホームページは検索してヒットしたものなので、僕も具体的な相談への対応などは分からないのです。すみません。
メールは既に送られましたか?』
『ええ、そちらからは返信も頂きました。翻訳が上手く行っていないかもしれませんが、彼らはマネージャー(?)からのメールだと言っていました。私は、このメールをあなたに転送すべきでしょうか?』
『いえ、特にその必要はありませんよ。マネージャーからというのは恐らく、相談に乗る担当者からという事ではないでしょうか?』
『分かりました。また進展があったらお伝えします』
マサミが『授業に出なければならないので』と断った為、やり取りは一旦そこで途切れる事になった。
夜警の交替時間が近づいていたが、もうすぐ夜も明ける。一時間程仮眠を取ったらすぐに起床時刻になるだろう。マットは伸びをしてから、少しマサミに頼りすぎているな、と考えた。
彼も、一人の少年に過ぎないのだ。自分よりもずっと年下で、本来であればビジネスの相談に乗れるような相手でもない。やり取りを行うようになってからまだ十日程だったが、マットは彼が随分昔から自分の友人だったような気がする事が不思議に思えた。
頼りすぎている、と思うのは、マサミの方から彼自身の事について話してくる事が少ない、というのもあるかもしれない。こちらが上官からの命令を受け取ったり、彼の方が授業に出席したりしてトークが中断した後、常に会話を再開するのはこちらの送信するメッセージからだった。マットは自らの身の上と現状について多くの事を彼に語ったが、自分の方で彼について知った事といえば、仙台に住んでいる事、もうじき高校を卒業する事くらいだ。
ダニエルズの言う通り、現在自分とマサミの間で交わされているやり取りは文字列に過ぎず、そこには顔を見て、肉声で話した時には自然に掴める距離感のようなものがない。擬似コミュニケーションと言われればそれまでだが、マットはやはり、それだけで終わらせたくはなかった。
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思い切って、マサミに尋ねてみる事にした。
『あなたは私のとても良き友人です。連絡が取れない間は寂しかったですが、あなたはここ十日間、毎日欠かす事なく私と話をしてくれました。
あなたは外国人と話す事について、どのような面白さを感じていますか? 外国人が好きなのだとしたら、何かきっかけになった出来事があったのでしょうか? 一緒に住んだ事があるとか』
『いえ、マシューさんが外国人である事は特に関係はありませんよ。DMで色々と相談して下さり、嬉しかったです。お話も興味深くて、楽しいと思いました。他に外国の方と交流があったという訳では、特にありません』
『マサミ、私はあなたが相談に乗って下さり、嬉しかったです。いつか会いたいと思います。私たちの友情がこの先も途切れる事のないよう、私は神様にお祈りしています』
その日の昼過ぎ、状況に変化があった。
急報が入り、シリア政府が米国の高官たちに緊急会議の開催を要求したという旨が告げられたのだ。時刻は翌日の早朝であり、詳細についてはまだ続報を待たねばならない。
翌日に向けての準備が進められる前、マットはマサミに連絡を入れ、明日一日は連絡が出来ないかもしれない、と告げて詫びた。彼はそれに対し、
『分かりました。遠くからではありますが、会議の成功をお祈りしています』
殊更に不安を口にするような事はせず、そうとだけ言って励ましてくれた。
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再びマサミに連絡する事が出来たのは、月が替わって二月一日の、日付を跨いだ頃だった。日本時間では朝六時頃だな、と考え、マットは「おはようございます」からメッセージを書き出した。
『おはようございます、マサミ。夜は如何お過ごしでしたか?
会議から戻りましたのでお知らせします。まず、結果から言うと話し合いは全て上手く行きました。帰ってすぐに連絡出来なくてごめんなさい、私もとても遅い時間に帰って来たのです。それから、連絡を入れるまでの間に幾つかの準備をしなければならなかったからです』
『マシューさん、お疲れ様でした。会議が成功して良かったです。またお話出来ればいいなと思っていました』
『ありがとう。マサミ、これから話すニュースは全て朗報です。
まず、シリア政府から、私たちに謝礼として約束してくれていた報酬が与えられました。私は今、とても満ち足りた気分です。この報酬は、私たちの血と汗から来るものだからです』
マサミと連絡を取り合うようになる、少し前の事だった。
一月中、現地の過激派組織イスラム国(IS)に対し、米軍主導の作戦がイラクとシリアで計四十三回実施された。内、シリア国内ではクルド人の民兵組織であるシリア民主軍と共に計十回の作戦が実行され、人質に取られた多くの民間人の救出に成功していた。
『訓練を受けた成果が発揮されました。私たちは大量の弾薬とテロリストたちが取り引きに使用していた金品を回収し、鉱山地域の制圧に成功しました』
『とても命賭けの作戦が成功したのですね。改めて、お疲れ様でした。日本でも報道されるのを待っています』
『ありがとう、良き友。あなたはとても親切で、私はあなたをとても信頼し、感謝しています。だから、私はあなたにこれからとても重要な事をお話ししたいと思っています。聴いて貰えますか?』
ここから、彼からの返信が来るまでは半日程の時間が掛かった。
今日も学校に行っているのだろうか、と思い、急かすような事はしなかった。彼からの返信がない間、マットは彼が忙しい状況に在るという事を理解している。しかし彼は、決して無視する事はない。
『返信遅れましてすみません! 現在は家に居ます、何でしょうか?』
『マサミ。ここシリアでの仕事の報酬として、シリア政府の治安機関は私たちにお金を支払いました。私たちは現在こちらに留まっている部隊で、キャンプでその分配を行い、私には百二十万ドル相当のゴールドシェアが配分されました』
『おお! 起業の為の資本になりますね。マシューさんの夢が叶うよう、日本からお祈りしています。
駐留はもう暫らく続くのでしょうか?』
『いいえ、間もなくで終了します。しかし、報酬金については助けが必要です。ここは激戦区なので、キャンプで保管を行う事は出来ません。私はこれを金庫に入れ、医薬品を輸送する赤十字の医師の助けを借りて発送しました。
現在、その金庫はロンドンの国際運送会社に運ばれています。しかし、現在米国の私の家には誰も居ない為、大西洋経由で運ばれたそれを故郷で受け取ってくれる人が居ない状況です』
正直なところ、これを決意するには相当の時間を要した。
ドイツに留学中のシンシアでは、このような貴重品を受け取るのはさすがに荷が重すぎる。
『運送会社からの受け取りを、あなたに手伝って欲しいのです。私はあと三ヶ月で任務を終了し、帰国する事が出来ます。私は帰国後、日本に荷物を受け取りに行くつもりです。
これが本当である事を証明する為、発送する前に私は自分の荷物の写真とビデオを撮影しました。保管状況については毎日DMで確認します。受け取りも、業者が玄関まで配達してくれる手筈なので何も心配は要りません。
念の為にお伝えしておきますが、これは違法ではありません。私の荷物は国連から輸入ライセンスを取得しており、間違ってもマサミがトラブルに巻き込まれるような事はありません。
マサミ。私はあなたにお話しするまで、とても長い時間悩みました。どうか、了承して欲しいです。いいお返事をお待ちしています。
そろそろキャンプパトロールの時間です。戻り次第、メッセージをチェックしたいと思います』




