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未分類  作者: 藍原センシ
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「世界観設定のルール」

 ※注意……本エッセイには、藍原センシの小説作品に関して核心的な内容に踏み込んだ記述があります。全作未読であり、かつこれから私の作品を読もうと思って下さっているありがたい方々はご注意下さい。とはいえ、多少ネタバレされて面白くなくなるような作品を書いた覚えはない──というか、そう思いたい。


          *   *   *


「彼女と先輩」に登場したリバーシア、『フランチャイズ・フラン』のエストレリータ王国、『夢遥か』の日出国(ひいづるのくに)など、私のファンタジー小説の多くには現実とは異なる異世界が登場する。今日日ライトノベル界隈は異世界転生ばかりが幅を利かせているような印象だが、私の異世界小説は作者がアンチ転生主義の為に全くそういった流れにはならない。とはいえ現実世界と全く繋がりがないのかというとそういう訳でもなく、例えば『ブレイヴイマジン』の主人公はフルダイブ型のVRゲームを体験していると思っていたら実はマルチバース内に存在する他の世界に送られていたという話であり、『フランチャイズ・フラン』では現代(年代的にはやや近未来)の日本と、隣のアンドロメダ銀河にある惑星王国を行き来する。

 私が異世界を取り扱う場合は、この「行き来する」パターンが最も多い。フラン然り、『闇の(はて)』然り、中学時代に『ブレイヴイマジン』(noteで連載したのとはまるで別物で、人に見せられるような代物ではない)の次に書いた小説然り。これはまだ発表していないのでいずれ修正して公開したいが、考えてみればこの作品に登場する異世界を構築した事が、私の「転生しない異世界シリーズ」の原点となったと言う事も出来る。

 ところで、ファンタジー小説にはローファンタジーとハイファンタジーの別があるという。厳密な定義はあるのやもしれないが、前者は世界観を日常に留めたままその中で不思議な出来事が起こったり、特殊能力を持つ超常の存在が現れたりするというもので、私が真っ先に思い浮かべるのは森見登美彦氏や河野裕氏の作品だ。後者は日常からは全く切り離された架空の世界が舞台で、登場人物は皆そこに生まれついた住人、超常的な事物がごく当たり前に存在する作品で、上橋菜穂子氏や小野不由美氏などが国内では代表格だろうか。

 この呼び方はあまりしたくはないが、俗に「なろう系」と呼ばれる異世界の多くは非常に微妙なところではある。が、現実との接続はさておき、現実には存在しない土地が舞台になるという意味では多くがハイファンタジーに分類されるのではないかと私は思っており、常々煩わしいと感じている「小説家になろう」の作品分類も異世界系には「ハイファンタジー」を設定するようにしている。

 ついこの間、冲方丁氏の『ストーム・ブリング・ワールド』(MF文庫ダ・ヴィンチ)に寄せられていた田中芳樹氏の解説を読んで次のような箇所を発見し、私はつい一人で肯いてしまった。


 この作品の読者のなかには、「いずれ自分も作家になりたい」と思っている人が、きっといるだろう。そしてそのなかには、「歴史小説を書くと取材や勉強がたいへんだ、その点、異世界ファンタジーなら好きかってに歴史や社会をでっちあげられるから楽だな、よし、それでいこう」と考えている人がいるかもしれない。はい、残念でした。世のなかには甘い部分もたしかにあるが、そういう部分は、最初から手ぬきしようと思っている人の前には、けっしてまわってこないのです。


 私が度々疑問に思う事なのだが、なろう系の異世界転生小説や漫画では、何故転生先が産業革命以前のヨーロッパ風ばかりなのだろうか。それはまあ、国内産の伝説的なハイファンタジー作品群──「ドラゴンクエスト」シリーズ、「テイルズ」シリーズ、『ロードス島戦記』などなど──の舞台がそうだからなのだろうが、あまり安直すぎるのもちょっとな……と思う事はしばしばある。

 私自身はというと、いわゆるハイファンタジーの”剣と魔法の世界”につい魔科学と銘打ってSF設定を盛り込んでしまうのが困り事である。エヴァンジェリア(ブレイマ)には遠隔通信装置としてのHME(電話兼メールのようなもので、私の作品にはよく登場する)や核燃料を使わない核爆弾が存在するし、エストレリータ王国(フラン)では機動戦艦やワープ技術が実用化されている。『闇の涯』の森界などはかなりぶっ飛んでいて、上橋氏風アジアンテイストを意識した世界観に、明らかにオーバーテクノロジーな代物が幾つも登場する。

 無論、これらはわざと「そういう世界観」として描いているのである。批判的な事を書くが、近年の異世界転生小説は、転生先の文明が現代よりやや遅れた、(ただ)し魔法があるという世界で、主人公が現代日本の知識を駆使して無双する場合が多い。これがどうしても、現代の法律や歴史的な制約から逃れる為に異世界を用意しながら、オリジナルの世界観が設定しきれない、存在していいものといけないものの線引きが出来ないというちぐはぐさの表れにも捉えられてしまう。

 ハイファンタジーの世界観を設定する上で難しいところは、ルールブックを作者本人が作らねばならない事だと私は考える。貨幣の単位や、上橋氏のように凄いものだと時間や距離などの単位まで創作されている事もある。私自身はそこまですると読者が戸惑いそうなので、せいぜいオリジナルは通貨単位くらいで、現実で世界共通のものはそのまま使用しているが、他にも「登場させたらおかしくなる言葉」というものもある。

 私は勝手に「ハンバーグと南京錠の法則」と呼称しているのだが、人名や地名が由来となっている物品名は、それが歴史上存在しない異世界にあると有識者は違和感を覚える。歴史小説などであまりそういう箇所に目くじらを立てすぎる読者(「この時代の武士は『それがし』なんて一人称使わないわよ」的な)も私は好まないが、自身で世界観設定を行うからには、アナクロニスティックな矛盾が一発で分からないくらいには徹底して欲しいな、というところだ。

 間違いなく異世界でありながら、戦国~江戸時代の日本──(ただ)し幕藩体制は成立せず(みやこ)(京都)の朝廷が政治の中心であり、天照(アマテル)道という国教が政治や人々の生活に深く根差している──というモデルのある日出国を舞台にした『夢遥か』の執筆に際しては、私は特に気を張った。

 作中では「渡海の国」の存在が示唆されているが、それらの具体的な文化は伏せている為横文字の舶来語は使わない、国語でも明治以降に使われるようになった新語については厳密に線引きを行う、など。特に、学術的な文章を起源とするもので、由来が明確なものは使わないよう心掛けた。私は大学で福祉と情報について専門的に学んでおり、「情報」が森鷗外が「information」を訳した際の造語、「社会」は福地桜痴が「society」を訳した際の造語である事を知っている為、どうしても使いたい時はそれぞれ「報せ」と「世の中」や「世界」などに置き換えている。その一方で、「意識」「無意識」や「精神」などは近年の意味とは異なってはいても漢文などに見られる為採用した。「時間」「空間」などは使い始めた人が不明なので、これもまた採用している。

 代わりに、『夢遥か』には造語が非常に多い。現代の言葉には違いないが概念自体は絶対に昔からあったはずだ、というもの、もしくは今は横文字で使われていて一応訳語はあるがそれだとニュアンスが変わってしまう、というものについては、字面から初見でも推測出来るものに置き換えた。例えば「ショック」は日本語で「衝撃」になるが、現在使われている意味合いとしては、大体「負の感情を伴った驚きではあるが、『絶望』と言うと大袈裟になる」くらいのものだろう。私はこれを「悲衝」と表記して「おどろき」とルビを振った。

 要するに、「ルールを守る」ではなく「ルールを()()」が、ハイファンタジーを書く上で求められる事なのだ。そして、自分で作ったルールは厳守する。如何に架空の世界であっても、それが浮泛(ふはん)なものにならず、読者を没入させ、あたかも本当にそのような場所があり、人物たちが存在するかのように描かれなければならないが鉄則である。特に私のように現実と異世界の行き来がある場合、文化の違いは明確でなければならないし、異世界で可能な事が現実とあまり変わらなくては興醒めされてしまうだろうし──と、書きすぎて段々自分の首を絞め始めた気がするのでそろそろ黙ろうと思う。

 恐らく、こういった事はハイファンタジーを書きたいと思っている人々の多くが()()()()()事なのだろう。しかし、身近な物事をいちいち調べるのは大変だし、ハンバーグやらサンドイッチやらテディベアやらを別の名称に置き換えて描写していたら伝わらないかもしれないし……と思った結果、主人公が現代日本の言葉を知り、ものを見、思考回路を持った上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という制約から逃れる為に(化学変化が分からなければ魔法も使える)異世界に行く、というのは、何だか一つ一つの世界が即席ラーメンのように消費されているような気がしてならない、と思うのは私だけではないはずだ。

 私自身のルールブックについては語りたい事がまだまだ沢山あるが、このまま書き続けると長すぎになる可能性があるので別の機会に回そうと思う。実際こうして列挙してみると、随分まあ色々な架空世界をでっち上げたものだ。その(ほとん)どにSF設定が絡んでいる──そもそも私の守備範囲はSFと怪談だったのだ──事が悪いとは思わないが、是非今度は科学が絡まず正真正銘の剣と魔法だけのハイファンタジーに挑戦してみたいと思う。

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