↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それのどこが悪い!?【恋愛版】  作者: 山田りく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/22

第7話:一線のむこう側


「ねえ、本当に……誰にも言わない?」


放課後の薄暗い部屋の中で、私はシャツの裾をぎゅっと握りしめながら、かすれた声でそう呟いた。


ベッドの端に腰掛けた慧太郎は、困ったような、でもどこか愛おしそうに目を細めて、私の頭を優しくなでる。


「言わないよ。そんなこと、できるわけないだろ」


「……うん」


その言葉に安心したくて、私は彼の胸に顔をうずめた。


甘い香りと、少し早鐘を打つ心臓の音。私たちはもう、引き返せないところまで来ていた。


図書館の静けさの中で出会っただけの私たちが、今はこんな風に秘密を共有し、お互いの体温を確かめ合っている。子どもから大人へ無理やり背伸びをしたその先に待っていたのは、想像以上に甘美で、同時にどうしようもなく痺れるような快感だった。


誰も私たちの世界には入れない。


同級生の男の子たちがどんなに騒いでも、由奈がどんなに恋バナをねだっても、私だけが知っている秘密の領域がある。その優越感と、大人になったという勘違いが、私の心をふんわりと満たしていた。


けれど。


その「一線」を越えてしまった代償は、思っていたよりもずっと近くで、冷たく牙を研いでいた。


数日後。


いつものように学校の廊下を歩いていると、すれ違うクラスメイトたちの視線が、やけに刺さるように感じられた。


気のせいだ、と自分に言い聞かせようとする。だけど、階段の踊り場で由奈と数人の女子がコソコソと集まっているのを見た瞬間、背筋にぞわりと冷たいものが走った。


「……ねえ、それマジなの?」


「うん、確実。だってお姉ちゃんが……」


私に気づいた瞬間、ピタリと会話が止まる。

由奈が向けた視線は、いつもの茶化すようなものじゃなかった。底冷えするような、心配と、そして何かを疑うような、冷たい目だった。


「ゆらり」


由奈が近づいてきて、私の腕をきつく掴む。


「ねえ、放課後、いつもどこ行ってるの? 最近、外泊した日もあるって本当?」


「なっ、何言ってるの……!」


「隠さないでよ! 私たち友達でしょ? なんか、やばい噂流れてるんだよ。相手、大人の男の人なんでしょ……?」


心臓が、バクバクと暴れ出す。

血の気が一気に引いて、呼吸の仕方が分からなくなった。


どうして? 誰にも言っていないのに。あの部屋でのことも、二人の秘密だったはずなのに。


私の怯えた顔を見ただけで、由奈はすべてを悟ったよう息を呑んだ。


「……嘘、本当に……?」


嫉妬や、友達としての単なる好奇心なんかじゃない。

それはもっと切実な、取り返しのつかないものに対する恐怖の色だった。


隠しきれなかった私たちの変化は、甘い蜜の匂いではなく、周囲の大人たちを呼び寄せる毒の匂いになって、静かに私たちの日常を侵食し始めていた——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。