第2話:鏡のなかのわたし
「ゆらり、最近なんか雰囲気変わった?」
放課後の教室で、ローファーの紐を結び直していると、斜め前の席に座る由奈がジッと私の顔を覗き込んできた。
心臓がビクッと跳ねる。慌てて前髪を指で押さえた。
「そ、そう? 別にいつもと一緒だけど」
「嘘だぁ。なんかメイク薄く変えた? あとなんか……女の子っぽくなったっていうか、いい匂いする」
由奈の鋭い視線から逃れるように、私はバッグを強く握りしめた。
それもこれも、すべては慧太郎のせいだ。図書館に行くとき、ただの制服じゃつまらない気がして、少しだけスカートの丈を直してみたり、友達に借りた雑誌を参考にリップの色を変えてみたり。彼の前で「子ども」に見られたくない一心で、背伸びを重ねていた。
「……別に、普通だよ」
「ふーん? 怪しいなあ。もしかして、彼氏でもできたの?」
「い、いないし! バカなこと言わないで!」
大きな声を出しすぎて、周りの視線が集まる。顔が一気に熱くなり、私は逃げるように教室を飛び出した。
けれど、校舎を出て夕暮れの道を歩きながら、胸の奥はさっきとは違う熱でじんわりと満たされていた。
由奈に「女の子っぽくなった」って言われた。
……これって、少しは慧太郎の目に私が変わって映ってるってことだよね?
胸の鼓動がうるさいくらいに鳴り響く。
足早に向かった図書館の自動ドアをくぐると、いつもの特等席に、あの背中があった。
紺色のパーカーのフードが、少しだけよれている。
近づく足音に気づいたのか、慧太郎がふっと顔を上げた。
そして、私を見た瞬間、彼の目がわずかに見開かれた。
「……あれ。今日、なんか雰囲気違わない?」
慧太郎のその言葉だけで、今日の苦労が全部吹き飛んだ。
私はわざと少し大人っぽく見せるように、ふふんと笑って彼の向かいの席に腰を下ろすね。
「そう? 大人っぽくなったって、友達にも言われたけど」
「そっか……」
慧太郎は少しだけ目を細め、困ったような、でもどこか嬉しそうな、複雑な顔をした。その横顔を見るだけで、息をするのも忘れてしまいそうになる。
私はノートを広げるふりをして、机の下で震える指先をぎゅっと握りしめた。
この気持ちは、きっとただの憧れなんかじゃない。
もっと深くて、甘くて、どうしようもないものだ。




