第15話:再会の扉
あれから、五年という時間が流れた。
あの頃、子供だった私も、もう自分の足でしっかり歩く大人になった。世間が言う「正しい道」を進み、周囲が望むような日常を淡々とこなしてきた。だけど、心のどこかに空いたままの穴は、どんなに時間をかけても完全には塞がらなかった。
忘れたわけじゃない。ただ、その痛みを抱きしめたまま、私はここまで生き延びた。
そして、今日。
冷たいコンクリートの壁と、分厚い鉄の扉が並ぶ場所。
その前で、私はじっと息を潜めて立っていた。緊張で心臓がうるさく鳴り響いている。
ガチャリ、と重い金属の音がして、扉がゆっくりと開いた。
そこから出てきたのは、見慣れた、けれど少しだけ背中が丸まった人影。
——慧太郎だった。
「……慧太郎……?」
震える声で名前を呼ぶと、彼は足を止め、ゆっくりとこちらを振り返った。
刑務所の中で過ごした歳月は、彼の髪にわずかな影を落とし、頬をやつれさせていた。だけど、私を見つめるその瞳の奥の色は、あの日のままで、あの古い雑居ビルで交わした最後の夜の記憶が一気に蘇ってきた。
「ゆらり……お前、なんで……」
慧太郎は息を呑んだように目を見張り、それから、困ったような、泣き出しそうな、ぐちゃぐちゃな顔をした。
私はたまらなくなって彼の胸元へ駆け寄り、思わずその腕にしがみついた。
「やっと……やっと会えた……!」
「おい、待て!」
冷徹な声が、私たちの再会の空気を鋭く切り裂いた。
振り返ると、施設の門番の男が険しい顔で歩いてくる。
「ここで私的な接触をされては困る。関係者は速やかに立ち去りなさい。いつまでもそんなところでウロウロするな!」
冷たい制服を着た男の視線は、まるで私たちを犯罪者扱いする当時の大人たちのそれと同じだった。
慧太郎が気まずそうに体を引こうとする。
「……ゆらり、ほら、行くぞ。ここは……お前が来るような場所じゃない」
「いや……!」
私は首を横に振った。ここでまた彼を離したら、二度と会えなくなる気がした。
せっかく再会できたのに、こんな冷たいコンクリートの壁の脇で、誰かに追い立てられるように終わるなんて絶対に嫌だった。
「ここで話すのは無理。……ねえ、行くところがあるの。私の後についてきて」
私は慧太郎の冷えた袖をキュッと掴み、そのまま彼の腕を引っ張って、足早にその場を離れた。
背後で門番の怒鳴り声が聞こえたけれど、もう振り返らなかった。私たちは、懐かしい街の匂いがするほうへ、並んで走り出した。




