第14話:ふたたびの青空
放課後のチャイムが鳴り響く。
廊下を歩く生徒たちの笑い声や、部活に向かう靴の音が、なんだか久しぶりに鮮やかに耳に届いた。
「ゆらり、お待たせ!」
教室の入り口で、由奈がカバンを肩にかけながら手を振る。その明るい笑顔を見ていると、胸の奥がふっと温かくなった。
「うん、行こっか」
私たちは並んで昇降口へ向かった。
ローファーに履き替えるとき、ふと外の景色に目をやる。
あの図書館の帰り道、慧太郎と並んで歩いた夕暮れとは違う、どこまでも高く澄み切った今日の空。あんなにも息苦しかった世界が、今はちゃんと綺麗な青色をして私の頭上に広がっていた。
駅前のカフェに入り、私たちは窓際の席に腰を下ろした。
注文したプリンが運ばれてくると、由奈は「これこれ、これに限る!」と嬉しそうにスプーンを手にする。
「ねえ、ゆらり。この前の古文の宿題さ、結局どうやったの?」
「あ、そこなら、昨日ちゃんと自分で調べたから大丈夫だよ」
「えっ、マジ? ゆらり最近ほんと真面目なんだからー」
他愛のない、どこにでもある会話。
その一言一言が、かつての私にとっては痛いくらいに眩しくて、そして今は、私の居場所をそっと確認させてくれる優しい錨になっていた。
あの恋を失った痛みは、まだ消えていない。
心のどこかには、あの人がいない寂しさや、ぽっかりと空いた穴がちゃんと残っている。
だけど、それはもう私を窒息させるものじゃない。私が私として生きてきた証拠として、静かに胸の奥にしまっておけるものだった。
大人が決めた「正しさ」でも、誰かに与えられた「被害者」という肩書でもない。
私は私自身の足で立ち、自分の言葉で息をしている。
「……ねえ、由奈」
プリンを一口食べてから、私はふと隣の友達を見つめた。
「んー?」
「なんでもない。……ただ、プリンが美味しいなって思って」
私の言葉に、由奈はきょとんとしたあと、すぐに「でしょー!」と満面の笑みを咲かせた。
スマホの画面の奥には、もう届かないメッセージの履歴がある。
それでも、私は顔を上げた。
過去を抱きしめたまま、不器用な私のままで、明日へ続く道を歩いていく。
世界はまだ少し広くて眩しいけれど、もう二度と、息を止める必要なんかないから。




