第9話:それのどこが悪い!?
あれから、どれくらいの時間が経ったんだろう。
学校に戻っても、私を見る周りの目はまるでガラスの破片みたいに冷たくて、鋭かった。「被害者」として扱われる私と、「加害者」として連行された慧太郎。
大人たちは口を揃えて言った。「あいつは君を利用したんだ」「君は騙されていたんだ」って。
違う。
そんなんじゃない。
私の席に座ることも、あの古い雑居ビルの部屋のドアを叩くことも、全部私から望んで選んだことだったのに。誰も私の本当の気持ちなんて分かってないくせに、勝手に被害者扱いして、慧太郎を悪者にして、私から大切な世界を奪っていった。
放課後の教室は、誰もいないみたいに静まり返っていた。
窓の外の空は、あの図書館で彼と出会った日と同じような、ぼんやりとした夕暮れ色をしている。
「……勝手に決めつけないでよ」
誰もいない教室の真ん中で、私は小さく、でも歯痒い怒りを込めて呟いた。
私たちが重ねた時間も、あの部屋で交わした言葉も、全部嘘なんかじゃない。本物だった。私が選んだ恋だった。それのどこがいけないの? 何がそんなにいけないことなの?
「……それのどこが、悪いって言うの……!」
声に出した瞬間、堰を切ったように涙があふれ出した。
息ができない。またあの、どうしようもない息苦しさが胸の奥を締めつける。だけど、今度はあの場所に行っても、もう慧太郎はいない。呼んでも、あの優しい声で名前を返してくれる人は、どこにもいない。
それでも、私は俯かない。
大人たちの冷たい視線も、同情の混じった友達の顔も、全部跳ね返してやる。
私たちが過ごした日々が間違いだったなんて、絶対に思わない。
涙を乱暴に拭いながら、私は震える足で立ち上がった。
冷たい風が吹き抜ける教室を後にして、私はもう一度、前を向いて歩き出す。あの人がいない世界で、それでも息をしていくために。




