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無能と捨てられた治癒聖女、隣国の冷酷王と最強もふもふ神獣に拾われて最高に幸せな溺愛ライフを満喫する  作者: 黒崎隼人


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番外編「花冠と、銀狼の秘密の贈り物」

 結婚式を三日後に控えた、あるよく晴れた午後のこと。

 私は王城の庭園で、薬草の図鑑を広げながら日向ぼっこをしていた。

 頬を撫でる風は生温かく、芝生から立ち上る青臭い匂いが鼻腔を心地よく刺激する。

 いつもなら私の足元で丸くなっているはずのフェンの姿が、今日に限ってどこにも見当たらない。

 朝からそわそわとした様子で私の周囲をうろつき、気がつくと庭園の奥深くへと姿を消してしまっていたのだ。


『フェン、どこに行ってしまったのかしら。お昼寝の時間なのに』


 本を膝に置いたまま、私は伸びをして立ち上がった。

 ドレスの裾を軽く持ち上げ、手入れの行き届いた芝生の上を歩き出す。

 遠くから、小鳥のさえずりとは違う、カサカサという何かが草むらを掻き分ける音が聞こえてきた。

 音のする方へ向かうと、庭園の一番奥、大きなオークの木の裏側に、白い毛玉のようなフェンのお尻が見えた。

 彼は短い前足を懸命に動かし、地面に咲いている小さな青い花を、傷つけないようにそっと口先でついばみ取ろうとしていた。

 その周囲には、城で飼われている猟犬たちや、野良猫、果ては庭の木に住み着いているリスまでが集まり、何かを話し合うように円陣を作っている。


「……もう少し右だ、フェン。茎を短く切りすぎるな」


 信じられないことに、その動物たちの輪の中心には、レオンの姿があった。

 彼は漆黒の乗馬服のまま芝生に直接あぐらをかき、険しい顔で手元を睨みつけている。

 その大きな手の中には、シロツメクサや青い小花を不器用に編み込んだ、歪な形の花冠があった。

 戦場で大剣を軽々と振るう彼の武骨な指先は、繊細な花の茎を扱うのにひどく苦戦しているようだ。

 時折、力が入りすぎて茎がポキリと折れてしまい、そのたびにレオンは深くため息を吐き出している。

 フェンが新しい花を口に咥えてレオンの膝に飛び乗ると、レオンはその頭をガシガシと乱暴に、しかし愛情を込めて撫でた。


「お前が持ってくる花は小さすぎる。俺の指では編み込めない。もっと茎の太いものはないのか」


 フェンは「くぅん」と不満げな声を上げ、レオンの頬を濡れた鼻先で押し退ける。

 周囲の犬や猫たちも、レオンの不器用さをたしなめるように短い鳴き声を上げた。

 氷の王と恐れられる男が、動物たちに囲まれて花冠作りに悪戦苦闘している。

 そのあまりにも微笑ましく、そして現実離れした光景に、私は口元を手で覆って必死に笑いをこらえた。

 しかし、肩が震えるのを抑えきれず、わずかに足元の小枝を踏んでパキリと音を立ててしまった。

 その瞬間、レオンと動物たちが一斉にこちらを振り返る。

 レオンは私と目が合った途端、雷に打たれたように体を硬直させ、手の中にあった歪な花冠を慌てて背中へ隠した。

 彼の耳の先端が、みるみるうちに赤く染まっていく。


「ル、ルミナ……! なぜここにいる」


 声が裏返りかけている彼を見て、私はついにこらえきれずに吹き出してしまった。


「ふふっ、ごめんなさい。フェンを探していたら、たまたま見つけてしまって。……何を作っていたのですか?」


 わざとらしく首を傾げてみせると、レオンは気まずそうに視線を泳がせ、喉の奥で低くうめいた。

 隠し通すことは不可能だと悟ったのか、彼はゆっくりと背中から手前にそれを突き出した。

 所々茎が折れ、花の向きもバラバラな、ひどく不格好な花冠。


「フェンが、お前のために何か贈りたいと騒ぐものでな。手伝わされていたのだ。……俺の指では、こういう細々とした作業はどうにもうまくいかん」


 言い訳がましく顔を背けるレオンだが、その耳はまだ赤い。

 私は彼に歩み寄り、その大きな手からそっと花冠を受け取った。

 指先に触れる草花の水分と、彼の体温が混ざり合った温かい感触。

 不格好だけれど、私のために一生懸命作ってくれたのだという事実が、どんな高価な宝石よりも光り輝いて見えた。

 私は花冠を自分の頭に乗せ、満面の笑みで彼を見つめ返した。


「とても綺麗です。フェンも、レオン陛下も、本当にありがとうございます。私の一番の宝物にしますね」


 私の言葉を聞いたレオンは、ぽかんと口を開けた後、観念したように柔らかく微笑んだ。

 フェンが私の足元で嬉しそうに飛び跳ね、周囲の動物たちも祝福するように鳴き声を上げる。

 穏やかな午後の陽だまりの中、私たちはただ理由もなく笑い合い、温かな時間をいつまでも共有していた。

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