エピローグ「陽だまりの庭と、終わらない幸福」
突き抜けるような青空から、黄金色の陽光が庭園の芝生に降り注いでいる。
あれから数年の月日が流れ、ガルディア国はかつてないほどの豊穣と平穏に包まれていた。
空気は澄み渡り、吹き抜ける風はどこまでも優しく花の香りを運んでくる。
私は白い日傘の下で籐の椅子に腰掛け、冷たく冷やした果実の紅茶を口に含んだ。
柑橘の爽やかな酸味が喉を潤し、心地よい安らぎが胸の奥に広がる。
視線の先には、真っ白な巨大な銀狼の姿になったフェンが、芝生の上にどっしりと伏せている。
そしてそのふかふかの背中の上には、銀色の細い髪を揺らす小さな男の子が乗っていた。
私とレオンの間に生まれた、今年で二歳になる息子だ。
彼はフェンの長い毛を小さな両手でぎゅっと握りしめ、きゃあきゃあと高い声を上げて笑っている。
「フェン! もっと、もっと!」
幼い舌足らずな声でせがむと、フェンは迷惑そうな素振りを微塵も見せず、むしろ嬉しそうに太い尻尾をゆらゆらと振って応えている。
フェンが立ち上がり、ゆっくりと庭園を歩き出すと、息子の笑い声はさらに高くなった。
巨大な神獣と小さな子供。
一見すると恐ろしい組み合わせだが、フェンの動きは極めて慎重で、絶対に息子を落とさないという強い意志が感じられる。
その光景を見守っているだけで、私の心臓の奥がじんわりと温かい液体で満たされていくようだった。
「あまりフェンを困らせるなよ」
背後から静かな足音が近づき、私の頭上から低い声が降ってきた。
振り向くと、執務の合間に抜け出してきたらしいレオンが、上着を脱いだ軽装で立っていた。
彼の顔つきは昔のような氷の冷たさは完全に消え失せ、父親としての穏やかで深い愛情が瞳の奥に宿っている。
レオンは私の隣に置かれた椅子に腰を下ろすと、長い足を投げ出して静かに息を吐き出し、リラックスした姿勢をとった。
彼の大きな手が伸びてきて、テーブルの上に置かれていた私の手をそっと包み込む。
指先から伝わる彼の高い体温は、何年経っても変わらず私を安心させてくれる。
「困ってなどいませんよ。フェンはすっかりお兄ちゃん気取りですから。あの子と遊ぶのが楽しくて仕方ないみたいです」
私がクスクスと笑いながら答えると、レオンも釣られたように目尻を下げた。
「お前のおかげだ。この国も、あの神獣も、そして俺自身も。お前が来てから、すべてが息を吹き返した。……ありがとう、ルミナ」
レオンの真っ直ぐな言葉が、初夏の風に乗って私の心に染み渡る。
かつて祖国で、誰の目にも留まらず、ただ冷たい石畳の上で孤独に凍えていた私。
力は偽物だと蔑まれ、居場所を奪われ、暗い森へ追放されたあの日。
そのすべてが、今この瞬間にたどり着くための長い道のりだったのだと、心から思える。
私は絡められた彼の指に自分の指を深く滑り込ませ、その広い肩にそっと頭を預けた。
彼の服から漂う香木の匂いと、太陽の光をたっぷり浴びた芝生の匂いが混ざり合う。
遠くで息子がフェンの背中から降り、短い足で一生懸命こちらへ走ってくるのが見えた。
「ははうえー! ちちうえー!」
太陽のような満面の笑みを浮かべて飛び込んでくる小さな命。
レオンは立ち上がり、その力強い腕で息子を軽々と空高く抱き上げた。
澄み切った青空に、親子の明るい笑い声が溶けていく。
私は目を細め、この眩しい光景を心に焼き付けた。
傷つくことを恐れず、自分の命を投げ打ってでも救いたいと思った小さな出会いが、こんなにも大きな幸福へと繋がっていた。
陽だまりのような温かさは、もう二度と私の手を離れることはない。
私たちが紡ぐ永遠の物語は、この光に満ちた庭園から、いつまでも続いていくのだ。




